第22話
「それじゃあ行こうぜ」
「どこへですか?」
「………」
そういえばノープランだった。
だが俺には道具屋で買った地図がある。
俺は地図を広げた。
「ふんッ!」
「ど、どうしたんですか!」
俺は地図を地面に叩きつけた。
何故かというと、
「あの店主街の地図寄越しやがった!」
値切りまくった腹いせだろうか。
それにしてもこれはひどい。
「仕方ない買いに行くか。どちらにせよお前の服も必要だしな。所々破けてる」
「え? ………ひゃあ!」
リンフィアは顔を真っ赤にしてうずくまった。
「………すまん、すぐ買ってくる」
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「ほらよ、これでいいか?」
俺は急いで服と地図を買ってきた。
腹いせに色んなものを限りなくタダになるまで値切ったのであの悪徳店主は血の涙を流していた。
「はい! 大丈夫です。それにしても」
「ん?」
「可愛いですね、これ。ケンくんは女性服選べる感じなんですか?」
「ほっとけ」
琴葉に買い物を付き合わされまくってるせいで何となくわかるようになってしまったのだ。
俺たちは適当な場所まで移動した。
「じゃあ見張ってるからそこで着替えてくれ」
「はーい」
「着替えました」
「お、う………」
「えへへ、いいですね人間の服も」
やばい、思ったよりこれは………
「変ですか?」
「………いや、良い、と思う……」
思わず目をそらしてしまう。
「ふふ、可愛いですね」
「………一応聞くが何がだ」
「さて? 何がでしょう」
リンフィアは意外とからかうのがうまかった。
「この帽子被っとけよ。一応これでツノが隠せる」
「わぁ、ありがとうございます」
俺はリボン付きのベレー帽を渡した。
何故俺はこんなものを買ったのだろう。
「でも私、ツノ隠せますよ?」
「え?」
「ほら。でもうっかり出ちゃうこともあるのでこれは頂いておきますね」
リンフィアはツノを出し入れしている。
魔族はツノを出し入れできない。
それは魔族のシンボルだからだ。
だが、
「お前、半魔族か?」
「物知りですね。その通り、私は半魔族です。人間と魔族の混血ですよ」
混血、つまりハーフは別だ。
ツノ、尻尾、羽などを出し入れ可能である。
「そっちの方が都合がいいな。屋内も帽子だと変だし」
「………え?」
「え?」
「いや、もっとこう、珍しいとか、すごいとか無いんですか?」
こいつはリアクション待ちだったのか。
「いや、半分なだけだろ」
「ケンくんって変に常識が通じませんね」
異世界人ですから。
「俺は刀とか忍者とか侍とかがいる国から来たんだ。他国から見たらそっちの方が珍しいだろ」
これはかなり適当な事を言った。
「へー、聞いたことありませんね。なんです? それ」
「故郷にある変わった職業と武器だ」
「うーん、今度また教えて下さい」
「ああ、また今度な。じゃあ、早い所準備を済ませよう。お前、武器は何が使えるんだ?」
見たところそこまで筋力はない。
接近では無いとしたら弓か杖か………
「使えませんよ?」
「………ん? 聞き違いか? 今使えないって言ったか?」
「はい、使えません。そもそも戦ったことないです」
「マジかっ!」
俺は鑑定でリンフィアのステータスを見た。
俺はあまりの凄さに驚愕した。
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リンフィア・ベル・イヴィリア
半魔族
HP:40
MP:40
攻撃力:15
守備力:20
機動力:25
運:10
スキル:無し
アビリティ:無し
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果てし無く弱い。
もはや、スライムも危ういレベルだ。
特に魔力。
人間基準ならちょっと低いで済むが魔族基準で見たらこれはかなり酷い。
「………」
「どうしたんですか?」
「旅しながら、修行するかぁ……」
「修行ですか? 何だかよくわかりませんが頑張ります!」
やる気はあるようだ。
ステータスはゆっくり育てるとして魔法は基本を叩き込もう。
「じゃ、杖を買いに行くぞ。さっさとしないとさっきのが騒ぎになる」
「そうですね。それじゃあ、行きましょう」
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「よぉ、おっさん。さっき振り」
「て、テメェ! 今度は何を!」
悪徳店長とはもうすっかり顔見知りになった。
「まあまあ、今度は杖だけだ。見せてくれ」
「おいおい、武器なら武器屋を当たれよ」
確かにその通りだ。
しかし、この店主は違う。
持っているはずだ。
スッと手を出した。
「奥のローブ。ありゃ、扱いづらい上にかなりレアなローブだ。アンタ魔導士だろ。杖くらいなら持ってるはずだ。これは値切る気は無い。ちゃんと金を払うから、頼む」
店主は黙って奥の部屋へ行った。
そして、一本の包みを手に戻ってきた。
「………ほらよ。これは初心者でも使える杖で補助付きだ。持っていけ」
「サンキューな、おっさん。で、いくらだ?」
「金はいらん。お前さんら、あの領主叩きのめしてくれたんだろ?」
「!」
「見りゃあわかる。そっちの嬢ちゃんは知らんが、お前は俺が見た中でダントツに強い。これでも元々は名のある魔導士のつもりだ。それくらいは読める。散々な目にあわされたが正直スカッとした。餞別だ。持っていけ」
悪徳店主はそこまで悪人じゃなかった。
「恩にきるぜ、おっさん」
「ありがとうございます。おじ様」
店主はニカッと笑った。
「お前さんら旅に出るのか?」
「ああ、そのつもりだ」
「ならここから東にある街を勧める。あそこは観光名所だし、何よりギルドがある。そんだけ強いなら冒険者資格くらい取っとけ」
「なるほど、そうする。じゃあな、おっさん」
俺たちは店を後にした。
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俺は門の外に出た。
旅の再開だ。
「よし、じゃあ目指すは東の街だ。行くぞ、リフィ」
「リフィ?」
「リンフィアは長いからな。いや、そうでも無いのか? 嫌だったか?」
「えへへ、愛称をつけられたのは初めてなので嬉しいです」
気に入ってくれて何よりだ。
「それじゃあ出発だ!」
「はい!」