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第216話


 「なっ——————」



 フィリアと瓜二つの、黒髪の少女。

 そんなものは1人しかいない。

 それは、死んだ俺の妹、聖 愛菜だ。

 瓜二つと言う事は言ってある。

 しかし、黒髪と言うのは言っていない。


 「………蓮か、琴葉から聞いたのか?」


 「いいえ」


 聞いていない………?

 馬鹿な。

 面識はないはず。

 なのに何故………いや、待て。

 まさか………そんな偶然があるのか?



 「夢を見ました」


 「!」


 「私の知らない風景。私の知らない人達。『私』はそんなものに囲まれた場所にいましたわ。その中にレンやコトハ。それと、ケン。アナタの姿もありましたわ」



 仮説にどんどん信憑性が増していく。

 どんどん事実へとつながっていく。



 「『私』はそこでこう呼ばれていましたわ」



 そして、それを決定付ける一言を発した。



 「“マナ”、と」




 「————————————!」



 確定だ。



 俺たち異世界人は、神に呼ばれて異世界に転移する。

 だが、異世界にくる方法は一つじゃない。

 やってくるのは生きた人間だけでなく、既に死んだ人間がやって来る時もある。

 それは、生前正しい行いをしたにも関わらず、理不尽な死を遂げた者たちの中から無作為に選ばれた人間にのみ起こる現象。

 そこに神は干渉しない。


 いわばこれは、一種の自然現象。

 人が死ねばどこにいくのか。

 そんな、誰もが一度は考える、他愛もない問いの答えの一つ。


 それが“転生”だ。


 しかし、困ったことにこの転生には欠落がある。

 それは、転生後には、転生前の記憶が欠如すること。

 それと引き換え転生者には、他人よりも幸福な人生を送るよう設定されている。

 それが当人にとって幸せかどうかは、定かではない。




 「ただの夢とは違ったのか?」


 「はい。何故かはわかりませんが、これが私にとって、大切な記憶だと言う自覚を持っていますわ」


 「そうか………」


 「貴方なら、これがわかると思っていますわ」


 「!」


 「貴方の知恵はおそらく、この国………いえ、この世界一だと思うんですの。だから教えて欲しいですわ。これが何なのかを」



 

 これは、どうするべきか?


 伝えるべきか?

 お前は俺の妹の生まれ変わりだと。

 だがおそらく伝えれば何かが変わる。

 完全にランダム。

 そして、ランダムで誰かが不幸になる。

 そんな馬鹿げた話があっていいのか?

 そんなわけがない。


 だから、とりあえずは、



 「これは、“既視夢”と呼ばれる現象だ」


 誤魔化すことにした。


 「既視夢?」


 「以前言った通り、お前は俺の妹の聖 愛菜と瓜二つだ。故に、向こうの愛菜とお前にリンクが出来た。おそらく俺たちと会った事が原因だろう」


 「でも、亡くなられているのでしょう?」


 「だからだ。肉体を持たない分結びつきは強くなる。おそらく精神体の一部がお前に混じったンだ。多分、しばらくは夢を見続ける可能性はある」


 「そう………」


 「これは、蓮には言わないで欲しい。多分、辛い思いをする」


 「わかりましたわ」


 辛い思いをする。

 俺は、多分ことのとき、コイツにも言ったつもりだった。


 「頻度は多いのか?」


 「いえ、月に二度か三度ほど。確かに貴方の言う通り、蓮たちと会ってからこの夢を見始めましたわ」


 そこに関しては、おそらく間違いなく因果関係がある。

 前世と関係のあるものや人間と関わる事によって、記憶を呼び覚まそうとしているのだ

 幸い、蓮も琴葉も、愛菜の話を自分から持ちかけることはないらしい。



 「出来るだけ愛菜の事は考えるな。そうすれば多少は減る。それとも、知りたいのか?」


 「いえ、そうではありませんわ。この夢を見るたび、何かが変わっていく感覚があるんですの。私はそれが怖い………」


 

 これは記憶の侵食。

 自身が喰われていくのにいい気がするはずはない。



 「こればかりは我慢しろとしか言えねー。他者とのそう言った繋がりは簡単には切れない。増してや、お前とアイツは互いに鏡のような存在だ。繋がりの強さは他のそれとは比べ物にならんぞ」


 「別に、無理をして切り離したいわけじゃないんですの。ただ、」


 フィリアは少し言いづらそうに言った。


 「マナという娘と蓮の関係も見えたので、それはちょっと嫌………ですわ」


 「ふー………お前、大好きだな」


 「当たり前ですわっ! レンは私が生まれてきて初めて出会った運命の殿方! 絶対に手放しませんわ!」



 以前も、こう言うやりとりをした気がする。




 『お兄ちゃん! 私、絶ッッ対蓮くんをモノにして見せるからねっ! 私が人生で初めてあった運命の人だもん! しがみついてはなさいよ!』




 「くくっ、あははは!!」


 「ど、どうしたんですの?」


 「いや、ちょっとな。くくく………そうか………蓮は厳しいぞ。モテるからな。ファンクラブなんて馬鹿げたもんが出来るくれーだ。うちのクラスだけじゃなくて、城の召使いやら王族やら他国の要人も蓮を狙うかもよ?」


 「ぐぬぬ………承知の上ですわ! 絶対私の夫にしてみせますの!」


 「そうか、頑張ンな」


 俺はつい癖でデコを弾いてしまった。


 「うにっ!」


 特に言い返して来ない。

 まぁいいか。


 俺はそのまま部屋の外に出た。




 「イタタ………あれ? 何で言い返さなかったのでしょう?………まぁ、いいですわ」






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