表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/1486

第212話


 「終わった。今下で眠らせてる。奇声あげたりはしねーだろうよ」


 「………そう、わかった」


 ファルドーラは見透かしたような目でそう言った。

 多分気がついてるんだろうな。


 「………必要ないと言ったのに………」


 ボソッとそう言うのが聞こえたので間違いない。


 「エル」


 「何ですか?」


 「いつもの姿に戻っても良いですよ」


 「はいなのです!」


 エルから竜巻のようなものが現れる。

 竜巻はエルを包んでいった。

 そして、内側のシルエットは、小さな鯨の肉体から人間のシルエットへと変化していく。




 「ふぅ………」




 「へぇ、人間体はそんな感じなのか」


 性別は女だ。

 髪は薄い水色で、 目の色は透き通った青だ。

 服は基本が魚をイメージしたものになっており、フードにはバハムート形態の時のツノを、服には小さく羽をつけている。

 


 「おー、かわいいおんなのこだ」


 「照れるのです」


 エルはラビを肩車してそう言った。

 身長は俺より低い。

 リンフィアよりさらに小さめで小柄だ。



 「エルの嬢ちゃん………人化したら可愛いじゃねぇか!」


 「あら、良いじゃないか。どうして隠してたんだい?」

 

 「おかーさんから、人が来たらなるべく鯨でいるように言われていたのです。変なおじさんとかが来たら絡まれるからって言ってたのです」


 「「あー」」


 「こっち見んなコラァ!!!」


 全員でダグラスを注目していた。













———————————————————————————












 「んじゃ、俺らは帰るか」


 「そうだね。アタシらの役目は本来ここの攻略だったけど、肝心のダンジョンがこれじゃあ、ね。ギルドに報告すれば依頼取り消しになるだろうさ」


 ダグラス達はダンジョンを発とうとしている。

 俺も出るか。

 流石に、邪魔しちゃあ悪い。


 「お前らも、もう準備はいいか?」


 「あ、ちょっとまって」


 ラビはファルドーラの前に立った。


 「なーなー、なんでワタシをここによんだんだ?」



 そう言えば、ラビを見た後俺にこんな事を言っていた。










———————————————————————————









 『あ、もうどこか行っちゃったわね』


 「飽きっぽいからな、あいつ」


 ラビはしばらく何かを考えていたファルドーラを置いて遊びに行ってしまった。


 「で、何の用だったンだ?」


 『用というほどのものではないわ。一目見ておきたかっただけ。私たちの主人たるかを見極めたかった』


 「ああ、そういえばお前らダンジョンモンスターは元々あいつらの種族の配下なんだったな」


 『………その知識には本当に呆れるわね』


 やれやれと言わんばかりの声を出す。


 『なら、あの子がどれほどの運命を背負っているのかも、知っているんでしょう?』

 

 「………ああ。だから、仲間になった以上、俺はアイツを全力で支えるつもりだ。邪魔する奴は俺が徹底的に壊していく」



 開いていた手をグッと握りしめる。



 「本当に必要な壁はアイツ自身が登ってくれるだろう。 でも、この世界にはどうしたって不必要な邪魔が入る。俺は、俺と俺の仲間の道を塞ぐ障害を壊すために、この知識と力を振るうんだ」



 俺がそう行っている様子をファルドーラは黙って見ていた。

 話題を戻そう。


 「それで、 アイツは合格か?」













———————————————————————————












 「最後の生物迷宮を一目見ておきたいとおもったのよ。それと、伝えておきたいことが一つ」


 ファルドーラはラビの手をギュッと握った。


 「恐らく、近い将来貴方は数々の試練を乗り越えなければならない時が来る。それは、貴方の一族の最後の生き残りである貴方の使命。だけど、恐らく試練は困難を極めるとおもう。だからこれを」


 「!」


 ラビの体に淡い光が灯った。

 これは証だ。

 ラビは合格だったらしい。



 「もし、ダンジョンに行くことがあって、そこに私のような知性を持った主がいたら、必ず会いなさい。彼らに認められれば、きっと貴方の力になるわ」


 「………わかった!」


 「さぁ、行きなさい」

 

 ラビはファルドーラに背を向けて入口へ向かって行った。

 さて、俺もそろそろ行こうか。





 「待って」


 「ん?」


 ファルドーラは俺を引き止めた。


 「貴方は見届けて。これからあの子を託す貴方にはちゃんと最後を見届けてほしい」


 「っ………いいのかよ。最後なんだぞ。部外者だろうが、俺は」


 「いいえ。私達にとって人との契約は家族になると同義。あの子の家族になるんだから、貴方には見届ける資格はあるし、何よりも目の前で託したいから」


 「………そうかよ」



 俺は木に寄りかかって立った。



 「おにーさん、まだ帰らないのですか?」


 この表情を見ると、締め付けられるような気分になる。


 「ああ………」




 「エル」


 ファルドーラはエルを呼んだ。


 「おかーさん!」


 「エル、おいで」


 ファルドーラはエルを優しく抱きしめた。


 「久しぶりなのです………よかった、おかーさんが元気になって………」



 「………エル」



 「これからは、また一緒に寝たり、ご飯食べたり、ぎゅーしたり出来るのです」



 「エル」



 「一緒にダンジョンを直していくのも良いかもしれないのです。元気になったおかーさんなら平気なのです」



 「エル」



 「それから、それから………」



 「エル——————」




 「言わないでッッ!!!!」




 エルは声を荒げた。

 そして、目からは涙が零れ落ちた。


 俺は、アイツの表情を見ていると、締めつけられるような気分になる。

 あの、無理をして笑顔を作っている表情をよく知っているから。



 「おかーさんは死なないのです………おかーさんは誰よりも優しくて、すっごくすっごく強い私のおかーさんなのです………だから、だから………ッ!」



 「………エル………ごめんね」



 「!!………謝ったりしないで………嫌だ………嫌だよぉ、まだ、だって、もっと一緒に………」



 ファルドーラは小さく首を振った。



 「気づいているでしょう? 私の魂はもう消えかかってる。今現界出来ているのは、彼のお陰。でも、もうそれも終わりが近いの。だから、最後に“ぎゅー”しておきたかった」



 「………」



 「あなたはもっと世界を知っていろんな人と出会うべきよ」



 「………嫌なのです………おかーさんと一緒がいいのです………」



 一向に離れようとしないエルにファルドーラは困ったように笑った。



 「困った娘………でも、私はそんな貴方を愛してる。たとえ消えても、私はあなたを決して忘れないし愛し続ける。だってあなたは、私がこの世で唯一愛情を注いで育てた最愛の娘ですもの………大好きよ、エル」



 その言葉で、エルの涙は一気に溢れ出た。



 「ぅ………うぁあああぁあっ…………っっ!!!!!!! 嫌だぁああっ………! 嫌だよぉ………っ………死なないでよ………っ………!! おかあさん………!」



 エルは、もっと強くギュッと母を抱きしめた。

 


 「今まで私が貴方にあげられたのは、せいぜい愛情くらい。他にもまだまだたくさんあげたい物があったし、したい事もあった。でも、私は娘を遺して先に逝く。どうしようもなく愚かな母を許してほしい」



 ファルドーラから、小さく涙がこぼれた。



 「こんな………こんなダメな親だけれど、貴方は愛してくれた………?」



 「エルは………おかーさんが大好きなのです………! この先も、エルがおばあちゃんになっても、ずっと………ずっと、エルはおかーさんを愛しているのです………!」



 「………ありがとう………エル。大好きよ」



 ファルドーラの足の先からだんだん透けていった。



 「………………………ぁ」



 「もう消える………お別れよ、エル」



 「あ………ぁ………」



 「そんな顔しないで。私は、元気一杯に笑うエルの顔が、この世で一番好きなんだから。だから、笑って」



 エルは、涙を拭って、母に向かって精一杯の笑顔を見せた。

 どこかぎこちない笑顔。

 でも、母の願いを叶えるために精一杯笑顔を作った。



 「いってらっしゃい………おかーさん………」



 ファルドーラは涙で顔がくしゃくしゃになっていた。

 でも、最後に笑顔を見せてこう言った。



 「行ってきます」




 その言葉を最後に、ファルドーラは光となって去っていった。



 さようならとは言わない。

 それは、悲しい言葉だから。

 だから、いってらっしゃい、おかーさん。


 でも、今だけは泣く事を許してほしいのです。

 




 去った母の光を抱いて、エルは声を上げて泣いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 泣いた
[気になる点] 神像魔法は使わないの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ