第21話
「ケンくん、それどうやってやったのー?」
「奴隷紋の解除か? これは魔法だ」
「えー、聞いたことないんだけど」
当たり前だ。
神象魔法は誰も扱えず失われた古代の魔法だ。
恐らく記録すら残っていないだろう。
「だろうな。もう一回言っとくが内緒だからな」
「はーい」
ここまで念押しすれば心配あるまい。
後はこれがフラグにならない事を祈るまでだ。
「終わりましたよ、姫」
「あ、お疲れー」
どうやらしたの騒ぎは収束したらしい。
「なあ、何で“姫”なんだ? 王女だろお前」
「姫の方が可愛いじゃん」
なるほど、そういうもんか。
「それで姫、この魔族は……」
「あ、そうだった、そうだった」
今の今まで目的を忘れていたらしい。
やはりこのお姫様は少し抜けている。
「ねー、ウチの国来ない? 歓迎するよー」
「軽いな」
こんなサラッと言う事なのか。
まあこいつらしいと言えばこいつらしいかも知れない。
だが、歓迎と言っていたがそれは難しいだろう。
「えっと、ありがたいお話なのですが………すみません、私は行けません」
そうなるだろうと思っていた。
確かにこいつや一部の人間は歓迎するかも知れないが、大多数はそうもいかない。
そもそも討伐の命が先に出ていたくらいだ。
「うーん、理由を聞いてもいい?」
「やっぱりその、王族の方に迷惑をおかけしたくありません。中には私を気に入らない方も大勢いるでしょう。正直に言うと、私はそれが、怖い、です」
「行くあてはあるの? 故郷とか、家族とか」
「……ありません」
「!」
ないのか?
いや、ないから捕まって奴隷になってるのか?
「私は、一応これでも魔族の中では位の高い一族なんです。でも、私にはその一族を受け継ぐほどに力は無かった。それでも一時は長を継いでその座にはいたんです。一応それなりに続いたんですけど、一度、取り返しのつかない失敗をしてしまいました。それが原因で私は失脚し、みんなに“無能”と呼ばれ、国を追放されました」
「あ……」
同じだ。
こいつも、俺と——————
「それで捕まっちゃったんだねー………どうする?」
バルドに訪ねた。
「王命に従うのであればここで斬った方が良いのかと」
「………そう、ですか」
こいつも“理不尽”に居場所を奪われたのか。
「タンマ」
「どうした、ケン」
「あー、あれだ。悪りぃけど」
俺は全員にこう宣言した。
「こいつ、俺が貰うわ」
「「……は?」」
みんな同じ反応をした。
「え、あの……」
「それじゃそう言う事で。じゃあな、ウルク、バルド、レト、飯の恩は忘れねーからな。それとシャム」
「?」
「今度こそ故郷に帰って自由に暮らせよ」
「うん!」
強化一級魔法【クインテットブースト】を発動。
全身を真っ白いオーラが包み込む。
強化魔法の最高峰に位置する魔法だ。
「これは、【クインテットブースト】!?」
バルドは驚愕した。
「お、流石は騎士。こういう魔法については博識だ。だったらもう追いつけないのはわかるよな?」
「そうなの?」
「……その通りです。恐らくこの中で最も強化魔法を扱えるのは私。それでも三級の【トリオブースト】までが限界です」
俺は魔族の女を薄い魔力の膜で覆った。
これで風の抵抗は感じないだろう。
「ウルク」
「うん?」
「一つ借りにしといてやるから、一個だけ頼んでもいいか?」
「うん、いいよー」
あまり借りを作るのは好きではないが、この場合は仕方がないだろう。
「亜人奴隷たちの保護を頼む。勝手に助けて勝手に押し付けるのも悪りぃとは思うが、頼めるか?」
「うん、わかった」
よし、これで安心だ。
それじゃあ、行くか。
「掴まってろ。大丈夫、俺を信じろ」
「……はい!」
俺は自分のいた宿の方角へ跳んだ。
耐えきれず俺のいた場所に大きなくぼみと足跡が残った。
「あーあ、行っちゃったかー。もーバルドが脅すからだよ。それに、違うでしょ?」
何か含みのある言い方だった。
「っ………申し訳ございません」
こう言ってるがウルクはそこまで怒っていない。
「ふふっ、いいねーケンくん。気に入っちゃった」
ペロリと舌を出すウルク。
「………マジですか姫さま」
レトが尋ねた。
「マジだよー。でも2人も思うよね。彼がウチに加わったらって」
「そうですね。あれほどの魔法の使い手。それに強化魔法を使うということは白兵戦もいけると。是非とも欲しい戦力です」
「だよねー」
ウルクはケンが跳んでいった方角を見つめていた。
「旅してるならいつか私の国にも来るかもねー。うふふ」
「………」
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「ここまで来ればもういいか」
「あの……」
「ん? 何だ?」
「どうしてあんな事を?」
なんて言おうか。
……そのままでいいかな。
「………そうだな。お前が俺に似てたから、かな」
「似てた?」
女は窓に映った自分の顔を見たり俺の顔を見たりしていた。
「??」
「いや、顔じゃねーよ」
こいつも天然か?
「じゃあどうして?」
「俺には家族がいねー。色々あってな。それと俺も追放されたんだよ。つっても俺の場合は故郷じゃねーがな。これから過ごすはずだった場所を追い出されたんだ。役立たずの無能として」
「あ……」
「はは、俺と同じ反応だ。な、一緒だろ?」
女は俯いて何かを考えていた。
「だから気になっちまったんだよ。お前のことが」
俺はまっすぐに女の瞳を見つめた。
「無理強いはしねぇ。お前が行きたい場所があるなら、そこに行け。でももし、どこにも行くあてがないなら、俺とこい。魔族が何だ、奴隷が何だ、ンなモンはクソ喰らえだ。つまんねー事は頭ン中から放っぽり出して一緒に旅しようぜ。似たモン同士よ」
俺は手を差し出した。
女は少しもじもじすると、手を差し出してきた。
「リンフィア………」
そして、ギュッと俺の手を握った。
「私の名前はリンフィアです!」
「リンフィアか。俺は賢、聖 賢だ。よろしくな、リンフィア」