第209話
ダグラス達は、引き返して久介の目の前に行った。
「おい、ナビゲーターのにーちゃん………何でお前がここにいる!?」
「ナビゲーターなんて嘘ですよ。私はあそこであの忌々しい門を開けてくれる人間を待っていただけです」
「ちくしょう………俺たちはそれを知らずにみすみす開いちまったって訳かよ………」
ダグラスはギリッと奥歯を軋ませた。
「お陰様で入れましたよ。おや、そう言えば最も愚かな彼はどこでしょうか? 見当たりませんが………」
「ここだよ」
俺は久介に返事をした。
「おや、いましたか。今回一番の戦犯さん」
「んー、言い返す気は無いが、俺今機嫌悪リィからこれ以上言うンなら潰すぜ?」
「怖いなぁ、そんなことしませんよ」
久介はワザとらしく肩をすくめた。
いちいち動きが癇に障るな。
「なんでもいいからこいつ、さっさと戻せな?」
俺はファルドーラを指してそう言った。
「は?」
久介はそう言うとケタケタと笑った。
「あっはっは!! 戻すわけないじゃないですか! だって見てくださいよ!! 龍姫とバハムートの親子ですよ!? そんな贅沢な親子ゲンカ滅多に見れませんよ! はい、動いて」
久介が指を鳴らすと、ファルドーラは再び暴れ始めた。
「ギュオオオオオオアアアア!!!!」
理性は完全にトんでる。
だが、どこかまだ抵抗しているような気はする。
「うーん、いいショーだ」
………遊び半分でやってんのか………?
「おかーさんを戻して!!」
「や、でーす。戻せるものなら戻せばいいじゃないですか? ま、無理でしょうけど」
「くっ………おかーさん!! エルなのです! いつものおかーさんみたいに戻って欲しいのです! ねぇ、おかーさん………おかーさんッ!!」
「ギ………」
一瞬ファルドーラの動きが止まった。
「わ、声が届いちゃってましたか。だったら………」
久介は杖を振った。
すると、
「ギィアアアアアアアア!!!!」
ファルドーラが突然苦しみ始めた。
「おかーさん!!」
「やれやれ、言うこと聞かないからこうなるんだ。馬鹿じゃないんですか?」
エルに向かって嘲るように言う。
「なるほど、それか」
ヒュオッ
「うん?………………なっ………杖がッ!!?」
「ここだよ、ここ」
俺は杖を持ち上げてみせた。
「一体何をした!? 固有スキルか!?」
「とって戻っただけだ。タネも仕掛けもありゃしない」
「そんな馬鹿な!? 私がまるで反応できないだと!? そんなことがあるわけない!!」
「ハァ………」
杖を取った程度でギャンギャン鳴き喚いて………いちいち耳障りだな。
「るっせェンだよ。いちいち口開くなカス。お前みたいな雑魚に見える動きしてねンだよ」
久介は額に青筋を浮かべている。
プライドが高いらしい。
「これがこいつを狂わせてる元凶か………あ?」
かなり頑丈だ。
結構力を入れたが折れない。
いや、これは、
「はっはっは!! 折れませんよ!! それは、私が転移した時に神から貰ったアイテムなんですよ!? 折れるわけないじゃないですか? さぁ、わかったらさっさと返してくださいよ。まだまだこれから今まで通り使うんですから」
「………何に使うって?」
「そんなもの決まってるじゃないですか。洗脳ですよ洗脳」
久介はいやらしい笑みを浮かべた。
「いやァ、洗脳って楽しいですよ? どんな生意気な馬鹿も、これを使えば服従させられるんですから。正義感が鼻についた馬鹿を使って意識のあるまま大量虐殺させたり、私に逆らったものだから兄弟同士で殺し合わせたり………あ、最近だと親に子供を殺させた奴もありましたね!」
久介はそれらをまるで武勇伝のように語り始めた。
俺は拳に力が入り出す。
「今回もジャンル的には親子ゲンカにしたんですけど、龍姫はしぶとくてですね。なかなか瀕死にならないんだこれが。ここまで嫌がってるってことはよほど娘が大事なんでしょうねぇ」
「おかーさん………」
「だから意識があったら尚良かったんですけど、あまりに抵抗するもんだから、暴走状態にさせてもらいました。まぁ、記憶は残るので、正気に戻った後が見ものですね。ははっ!!」
「………クズだな。しょーもねぇ事を楽しそうに語んな無能が」
俺は冷めた声でそう言った。
「はぁ??」
なるほど、よほどこの趣味大事にしてんだな。
反吐がでる。
「ははは………痛い目を見せないとわからないかなァ………ファルドォォォラァァァ!!! この馬鹿が二度と口がきけなくなるまで痛めつけて——————」
「動くな」
空中に数えきれない鎖が現れる。
10や100どころの話ではない。
数は軽く10000を超えている。
それらが全てがファルドーラを捕らえ、一切動けなくなるほど固く拘束した。
「は?」
「【複合創生:鉄二級魔法・イノーマスチェーン】」
複合創生魔法。
未確認の魔法をそう言う。
太古に失われた魔法はステータスに表示されず、全て複合魔法に統一されている。
複合魔法を持っていない者は、1から会得しなければならない為、その場合はステータスに表示される。
新魔法の創生には、手順を踏まなければならないので、この魔法以外には数える程度しかない。
「鉄魔法………だと!?」
「ちょいと特殊な魔法だ。詠唱もあるが、公開する気は無ェ」
「ふっ………あははっ!! 凄い! こんなふざけた力を持った奴がいるなんて、私はなんて運がいいんだ!! 君が来れば、我々の悲願達成はすぐだ!!」
「………何の話だ?」
「聞こう。私の仲間になりませんか? 貴方なら、この世界を統べることだって可能! さぁ!!」
勝てないと踏んで勧誘するとは………まだ手は残ってると勘違いしているらしい。
「断る」
「くくく………それは残念だァア!!!」
「!」
俺の周りに魔法が仕掛けられた。
氷魔法の射出型だ。
数はかなり多い。
しかも、無詠唱でここまで一気に仕掛けたか。
違うな。
おそらく、奴も魔力吸引ができる。
オーバーフローした魔力で、一気に数を増やしたか。
「こいつは………いくらボウズでもマズイんじゃ………」
「聖くん!!」
「おっと、これはまだ前準備です。本命は——————」
その瞬間、
「おにーさんに酷いことするのはダメなのですッ!!」
エルが飛び出してきた。
「止まれ」
氷魔法がファルドーラに向けられた。
「ッッ………!!」
「動いたら君のお母さんが串刺しになりますよ?」
エルはそれ以上動くことはできなかった。
“………”
「何だ………?」
声が聞こえる。
この声は、ファルドーラだ。




