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第206話


 「おかーさん、ご飯の時間なのです」


 『あら、もうそんな時間?』


 ご飯?

 どっちが何を食うんだ?


 「ん?」


 エルは俺の頭から離れて木の枝に乗っかった。

 体にはうっすら魔力を流している。

 これはウォーミングアップだ。


 「いいですか?」


 『ええ』



 ああ、なるほどな。


 「注入なのです」


 エルは、自身の魔力をファルドーラへ注ぎ込んだ。

 おそらく、ファルドーラは自分だけで十分な魔力が得られていないのだろう。

 だからこうやってこいつが代わりに魔力を流していると言うわけか。


 『………うん、もういいわ。ありがとう』


 「はいなのです」


 エルはそのまま俺の頭へ戻ってきた。

 すっかり定位置にされているらしい。


 『エル。私の魔力補給(食事)が終わったのだから、今度はあなたが食事をする時間よ』


 「あ、はいなのです」


 エルは花畑の奥へと進んでいった。







 「どこに行ったんだ?」


 『ここで育てている果物を食べるの。あの子、量があれば生きていくには問題ないから。ちゃんとした料理を作ってあげたいけど、これじゃあ、ね』


 「そう思ってんなら、言った方がいいだろ」


 場の雰囲気がガラッと変わった。

 変わったと言うより変えた。

 真面目に聞きたいことがあるのだ。


 『何のことかしら』


 「………惚けるのはお前の勝手だが、おいていかれて傷付くのはあいつだぜ? 何とかしたいが、俺じゃあ、肉体を失って半分以上こちらの存在ではなくなったお前には手を出せない。下手に影響を与えるとお前は自我を失ったバケモンになるからな。だからどうしようもないぞ」


 『会ったばかりのあの子に随分肩を入れているわね』



 俺は、何も言わずに間を置いた。

 そして、ある事を告げる。




 「この先………いや、もうそんな先の話じゃねーだろ………………アンタ、消えかかってンだろ」




 俺はあえて、隠さずハッキリと言った。

 ファルドーラは、自分の魂………精神体をこのダンジョンに結びつけている。

 しかし、生物には然るべき器と言うものが存在する。

 それを人の手により生み出されたゴーレムならいざ知らず、元々自分の肉体を持つファルドーラが、もう100年も持つわけがない。

 魂は徐々に磨耗し、寿命が近づいてきた。



 『………隠したところで、ってことね。流石に気づかれたようね』


 「アンタが巧妙に魔力で核を覆っているから誤魔化しているつもりだろうが、話すときの感じや声質で何となく何かあるって事はわかった。調べてみたらこれだ。危うく騙されるところだったぜ」


 『ふふふ、演技には自信があるのよ』


 「茶化すんじゃねぇよ。俺が言いてェのは………」



 『エルのことをちゃんと考えろって話、でしょう?』


 一応わかってはいるようだ。


 「………ああ」


 『そんなことは重々承知よ。何故なら、この私が、エルのことをを一番考えているのだから。当たり前でしょう? 私はあの子の親なのよ? だから、あの子が私と言う重荷を背負わず生きる方法を考えたのよ。それは、』


 「下にいるアイツを利用するつもりだろ」


 『!!』


 簡単な話だ。

 ファルドーラが奴に殺されたら、エルは奴を恨むだろう。

 そして、奴を倒せば敵討ちは完了。

 少なくとも、錯乱して消えた理由を自分に向ける事はない。


 と、愚かにもそう考えたらしい。



 『流石に驚いたわね。まぁ、わかっているのなら話は早い。貴方にも協力を——————』



 「断る」



 俺は協力を断った。


 『………何故?』


 「強いて言うなら、何故断ったのか理解できていないことが理由だな。だからそんな愚かな事を考えンだよ」


 『愚か? これはこちらのセリフよ。この方法が一番あの子に重荷を遺さずにすむ』


 俺はやれやれと頭をかいた。

 そして深くため息をついて、こう言い放った。


 「馬鹿かお前?」


 『!?』


 「確かに、最終的にあいつは救われるかもしれない。だが、アンタは復讐というものをまるで理解していない。復讐に身を窶した奴が、それを果たすまでどういう風になるのかアンタきちんと理解してるか? いや、理解はしているだろう。だがアンタがその上で言ってるなら、想像力が足りてないンじゃねーのか?」


 『いいえ、十分理解している。私もこのダンジョンの主になる前は仲間といたわ。そこで復讐に身を窶した仲間も見てきた。同時に、あの子がこれからたどる可能性のある結末も見てきたわ。だから、これを選んだの!』

 

 「つまりアンタ自身は復讐をしたことがねーンだろ?」


 『っ………それは………』


 「だから言ってんだ。それにさっきも言ったろうが。それを果たすまでどうなるかって。結局それは結果だろ?」


 俺にはわかる。

 仇というものがどういうものか。

 そう言うものを持ったことがあるから、俺はそれがわかるのだ。


 「復讐を果たすまで、そいつはそいつじゃなくなる。ただただ自身の全てを憎悪で満たして、いついかなる時もそいつを殺す事だけを考えて生きる。その間、得られるはずの幸せは一切感じる事はできず、当たり前の日常を絶望と隣り合わせで過ごす。アンタは最後には幸せになれるからって、それをガキに背負わせようとしてるんだぜ? それがどういうことか………アンタにわかってンのか!!?」


 『………………』


 「………俺からはもう何も言わねぇ。ただ、それをちゃんと考えて選択しろ」


 俺はダグラス達の方へ歩いて行った。







 『………彼なら、任せられるだろうか?』



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