第204話
「黒髪って………あの人………日本人!?」
「! みさき! アイツをしってるのか!?」
ラビが美咲の服を掴んで揺さぶってきた。
その手にはかなりの力が込められている。
美咲も、これは何かあると、流石に察したようだ。
「ううん、あの人自体は知らないよ。でも、あの人はたぶん、私や蓮くん、そしてあなたの師匠の聖くんと同じところから来た、異世界人だと思う」
「じゃあ、アイツもゆうしゃなのか!?」
「わからない………私も、私達以外の日本人に会ったこと無かったから………ちょっと待って」
美咲はゆっくり目を瞑った。
「なにしてる?」
「私の能力と鑑定で、あの人のステータス情報を見てみる。もしかしたら何か出てくるかもしれないから」
美咲は、固有スキル【千里眼】を発動した。
久介に注目する。
見る限り、そんなに強そうではない。
だが、この世界においては、見た目は完全に信用ならない。
そばにいるラビなどいい例だ。
「………」
バチッ!!
「ッッ!!」
鑑定が弾かれた。
そして、それと同時に、
——————誰だ?
千里眼越しにそう言っているとわかった。
刹那、美咲は防衛本能からか、こう判断した。
あれは、私達とは次元が違う。
「気づかれた………ッ!!」
美咲はラビの手を掴む。
「逃げよう!!」
「え、ちょっとまっ——————」
ラビが言い切る前に美咲はラビを引っ張って奥へ逃げていった。
「なんでにげる!?」
「あれはダメだよラビちゃん………あれは、私達じゃどうこうできない!!」
「でもアイツはッ!!」
「行って死んじゃったら何にもならないんだよ!?」
美咲がそう言うと、グッと口を噤んだ。
「みさき」
「何!?」
「はなして」
「ダメ!! また行く気だよね!?」
「ちがう」
ラビは足にぐっと力を入れてブレーキをかけた。
「ふわっ!?」
美咲はそのままこけてしまった。
ラビは美咲の手を離して、美咲をじっと見る。
「………」
「ラビちゃ………うわぁ!?」
ラビは美咲を持ち上げると、奥まで走っていった。
「みさきはあしがおそいから、こっちのほうがはやいぞ」
「あっ、確かに!」
さっきよりもずっと速く逃げ去っていく。
「ひぇ〜………」
「みさき」
「うん?」
「みさきのいうとおり、れいせいにならないと、ははうえのせつじょくははらせない。ありがとな。にひっ!」
ラビは屈託のない笑顔で美咲に笑いかけた。
美咲はその笑顔をみて、完全にメロメロになっていた。
「はわわぁ………ラビちゃーん!!」
「うわっ! みさきあばれるな!」
ドッ
何かにぶつかってこけてしまった。
「ってーな………」
「ッ!!」
マズイと警戒して魔力を解放した。
ラビは、戦闘態勢に入ると同時に上を向き、ダガーを正面に突き刺そうとした。
が、
「おい」
攻撃は簡単に制され、聞き覚えのある声した。
ラビは咄嗟によそを向いたが、声の主………俺はラビの頭を掴んで正面を向かせた。
「ひっ、聖くん!!」
「ヨォ、寺島ァ………なァーんでこんなとこにいるんだ?」
「う………」
「しっ、ししょう………」
俺はラビの目を見てニッコリと笑った。
ラビの顔からさーっと血の気が引いていくのが見える。
「ラビテメーこのヤロォォオオ!!! あんだけ好き勝手すんなっつってんのにまだ聞かねぇか!!!」
俺は頭頂部を拳骨で打ちまくった。
「いててててて!!! ちっ、ちぢむ!!! やめろおおお!!!」
「ひっ、聖く………」
「テメーもだ寺島ァ」
俺はグリンと首を回した。
「ぴゃあぁっ!!!」
驚いたのか変な声を出す美咲。
「お前は綾瀬に報告だ。こってり絞られろ」
「うっ………綾瀬さんはちょっと………怒ると怖いし………」
「あぁン!? テメー、なに一歳のガキにここまで振り回されてんだ。えぇ? 高校生」
「う………おっしゃる通りです」
小さくなっていく美咲。
そろそろ反省しただろう。
「まあいい。今はそんな話をしにきたわけじゃねーからな。ほら、行くぞ」
「む」
「ふわっ!?」
俺はこの2人を抱えて最上階まで一気に飛んだ。
美咲の絶叫はスルーした。
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「チッ………気配が消えた。さっきの魔力からすると上に飛んで行ったかな。それにしても、今日は日本人の客が多いなぁ。煩わしい………」
久介は、さっきまでラビ達がいた場所にいた。
「そろそろ頃合いかな………」
上を見上げて何かを考えている。
目線の先は、一体何なのだろうか。
「このダンジョンは長期計画の中でも特に長かったからね。確実に成功させたいよ………」
そして、久介は獰猛な笑みを浮かべた。
「今度こそ、必ず手に入れさせてもらうぞ………!!」




