第2話
声の主は確かにこう言った。
世界を救ってもらう、と。
「つまり勇者にでもなれってことか?」
————有り体に言うとそういうこと。僕ではあの世界に干渉できないからね。今あちらの世界では各国の王が躍起になって、魔王討伐に向けて着々と準備を進めている。その中の一人が僕とコンタクトを取って君らを呼んだという訳さ。さて、とりあえずここまで。しばらくしたら次の説明をするね。
反応は様々だ。
興奮して騒いでるのもいれば不安で泣きそうになっているのもいる。
訳がわかってない馬鹿もいる。
「お前流石に理解力なさすぎだ」
「むー、じゃあケンちゃんわかったの?」
「いや、わかってないのお前と七海と涼子だけだぞ。三馬鹿」
三馬鹿とは琴葉をはじめとし、山本 七海、谷原 涼子の三名である。
こいつら三人は物凄く仲が良い。
俺も一緒にいることが何気に多い。
だがこいつらは馬鹿だ。
三人寄れば文殊の知恵というがこいつらはその逆バージョン。三人寄れば混沌な知恵と言われている。
「ケンちゃんなんか失礼なこと考えてない?」
「まあな」
顔を真っ赤にして殴っている。
結構、いやかなり痛い。
「おーいことりーん!」
「あ! ななみんとスズっち」
この騒がしいのが山本 七海で、無口そうで、かつ小柄なあひる口が谷原 涼子だ。
山本は見たまんまの馬鹿だが谷原は見た目ではそうでもない。
しかし、ど天然でいつもぼーっとしてまともに授業を聞いてないヤツは学年最下位を死守している。
例の挨拶を交わす。
「イエーイ!」
全員がバラバラと手を出して失敗する。
「違う違う右手だよ」
「そっかそっか。んじゃもう一回」
「イエーイ!」
三人とも左手を出して合わせている。アホだ。
「おお、ケンケン何やってんの?」
山本は今気づいたかのように言った。
今気づいたのだろう。
「神様と喋ってんだよ」
「ふーん」
聞いているのやらいないのやら。
————そろそろいいかい?
「おわぁっ! さっきの声か! でなんだっけ?」
————………この子は
「いい、皆まで言うな」
もうわかっている。
俺は続きを話すように言った。
————オホン、とはいえ何もなしに異世界に放り込むのも酷だろう。そこで君たちには、
あたりが一変する。
神殿のような場所だ。
ここにいる43人全員が余裕で入っている。東京ドーム何個分だろうかというレベル。
————ここで一つスキルを授けよう。ただし、ランダムでね
台座が現れる。
中央に水晶玉のようなものが設置していた。
「さあ、誰から行くかい?」
すると、男子が我先にと水晶玉へ向かって行った。
気持ちはわからなくはない。
未知の力。それも異世界で使える力が手に入るのだ。
だんだん女子達も並び始めた。
「おお、なんか知らんけどいっぱいいるなっ! ことりん、すずっち、私たちもいこーよ!」
琴葉はチラッと俺の方を見た。
「心配すんな俺も後から行く。さっさと行ってこい」
「うん!」
3人は台座へと走っていった。
世話のかかるヤツだ。
「それじゃあ俺も行くかな。ケン、お前は?」
「俺は最後に行くさ。人混みは好かん」
「そうか。それじゃあ、お先に」
蓮も行った。
しばらくすると、
「おお! すげぇー!!!」
歓声と叫び声が聞こえた。
台座の方だ。
「SSSだってよ! 俺らみんなAくらいなのに!」
なるほど、スキルごとにランクわけされているようだ。
誰かがSSSだったということらしい。
勇者筆頭だなそいつ……
「うわ! またSSS! どうなってんだ」
またか。と思った。
そんなにポンポン出るとは。
でもSSSはそろそろ打ち止めだろう。
「すげーな! 七峰、獅子島!」
「なっ!」
それは、あいつら二人だった。
「あいつらマジかよ……まあ勇者にはふさわしいわな」
凄いと思いつつ俺は微かに焦りを感じていた。
置いていかれるのではないかという不安だ。
少なくともこれからあいつらは今まで以上に人に囲まれる様になるだろう。
ここで俺が高ランクスキルを手に入れられなかったら恐らく今までのようにはいかないだろう。
「……り…ん…」
少なくともS、いやSSくらいは無いと、可能ならSSSが望ましいが……
「……りくん…」
こればかりはどうしようもない。おいおい神さま頼んだぜ、俺の数少ないダチと離れるのは流石に、つーかなんか聞こえんな。
「聖くん!」
「おわっ! はあ、びっくりさせんなよ春」
横で何か言ってたのは担任の宇喜多 春だった。
「宇喜多先生でしょぉ。少なくとも春先生って呼びなさぁい」
「いいじゃん春で。そんでもう貰ったか? スキル」
「うん。Sだったよぉ」
「へぇ、よかったじゃねーか。おめでとさん」
「後は聖くんだけだよぉ。皆君が終わるの待ってるのよぉ」
いつの間にか全員終わって俺の方を見ていた。
早く早くという声がちらほら聞こえる
「へいへい、わっかりましたよー」
水晶玉まで歩いて行く
「なあ、あいつランクなんぼだと思う?」
「さあ?」
「俺は高ランクだと思うぜ。いつも一緒にいるヤツらみんなSS以上だし」
「げっ、マジかよ」
こっそり話しているつもりだろうがちゃんと聞こえている。
一緒にいるヤツらって事は七海と涼子はSSって事だ。
俺は台座の前に立つ。
手順は水晶玉を手に置き、目を瞑ったらスキル詳細が表示されるというものだ。
「っ……」
何故だろうか。
嫌な予感がする。
漠然と不安が俺を絡めている。
それでもゆっくりと手は伸びて行く。
俺は水晶玉のに手を置き、目を瞑った。
「………………」
ゆっくりと目を開ける。
「………は?」
何も出ていない。
全身から変な汗が出た。
俺は微かな希望を抱き再び手を置く。
出ない。
何度も何度も繰り返す。
出ない。
祈りながら手を置く。
出ない。
———全員終わったみたいだね。
再び声が聞こえた。
———ここから……
「なあ」
———うん? なんだい?
「なんで、なんも出ねーんだ?」
———出ない? そんな筈は………………なるほど、君は不適合者だね。
不適合者
スーッとその言葉は耳に入っていった。
力を得られなかった。
俺は選ばれなかったのだ。
クラスメイト達が騒めく。
それには明らかな蔑みの意が込められていた。
もともと余りクラスの連中には好かれていなかった。
一緒にいた物好きを除けばむしろ嫌われていた方かもしれない。
それ故の侮蔑の目。
いや、それはいい。
そこは気にならない。
もともとこちらも好かれようとは思っていない。
でも、これで決まった。
俺は、あいつらと一緒にはいられないのだ、と。
「……くそったれ」