第199話
一言で言うと、壊滅的だった。
俺たちは、ダンジョンの惨状を目の当たりにし、絶句していた。
「めっ、滅茶苦茶じゃねぇか………!」
「ボロボロだね………」
「あり得るのか? ダンジョンだぞ、ここは………」
「とんでもないでぇす………」
俺たちは、第1層を突破して上層へ進んだ。
しかし、その先にあったのは壁が崩れ、天井には穴が空き、形を保てていないダンジョンの様だった。
「かなりひでーな。もともとがこう言う作りって訳でも無さそうだし………しかもこれは間違いなく人為的なものだ」
「人為的だと? 馬鹿な、ここはダンジョンだぞ? 不可能だ」
ダグラスがそう言ったのは、ダンジョン生成物は破壊不能だからである。
どれだけ頑張っても、ダンジョン生成物には傷一つつかないようになっているのだ。
「いいや、これは間違いなく誰かがやった。ここ見てみろ」
俺はパクックリと割れた岩を見た。
表面には無数の傷が付いている。
「これは風魔属性攻撃の跡だ。つまり、何者かがここに来てこれを壊して、ここら一帯をこんなにした証拠だ。」
「まさか本当に………」
長年信じていた常識を突然壊されて困惑する4人。
特に冒険者である彼らは
「スキルだ」
俺はみんなが考えている時に、きっぱりとそう言った。
「スキル?」
「ああ。だがちょっと特殊なスキルで、誰でも得られる訳じゃない。俺も持っていないしな」
こればかりは、俺も取ることが出来ないスキルだ。
どちらかと言うと、固有スキルに近いところがある。
「そのスキルってなんなんだ?」
「ダンジョン攻略用の特殊スキル【迷宮干渉】だ」
迷宮干渉
このスキルは、ダンジョンの構造に干渉し、本来不可能な、ダンジョン生成物の破壊を可能とする。
「そんなスキルが………」
「壊せるようになるだけだから、第一に所有者がそこそこの力を持ってなきゃ意味ねーけどな。それに、どこもかしこも壊せる訳じゃないし、下手に壊すとダンジョンの防衛システム上、大量のモンスターが総動員されてそいつは間違いなくお陀仏だ。冒険者からも疎まれる」
だが、と俺は続ける。
「モンスターが出ないダンジョンの場合は、どうだろうな?」
「そうか………パズルダンジョン………」
ダンジョンには、モンスターが中心の“モンスターダンジョン”と、仕掛けや罠中心の“パズルダンジョン”と、その両方を持った、“ハイブリッドダンジョン”の三つが存在する。
最も多いのはモンスターダンジョン。その次がハイブリッドダンジョンで、パズルダンジョンは現在あまり存在しないらしい。
「ここは見た感じパズルダンジョンだ。もしここがモンスターダンジョンなら、そいつは速攻やられてるだろうから、こんなボロボロになるまで放置されるわけがねー」
「そう言うことか。でも、何で一層はあそこまでちゃんとしてたんだい?」
「一層には、多分罠が仕掛けられていたんだろうな。下手に壊せばここごとドカン!! みたいな?」
俺は冗談めかして言ったが、おそらくその線であっているだろう。
「何とかして輩を追い出した龍姫ってやつが、そいつが入ってこれないように色々工夫してたンだよ」
「何で一層だけなのだ?」
ドロットがそう尋ねる。
「ダンジョンだからな。無茶な難易度にはできないようになってる。一箇所を強めると、他は綻ぶ」
俺は右手をぐっと握り、左手をゆっくりと開いて、その様子を表した。
そして、その後にこう続ける。
「だが、裏を返せば、他を極端に弱めることで、一箇所は難攻不落の防壁となりうる。一層だけに全身全霊を注ぎ込んで、そいつが来れないようにしたってことだ」
「そうでもしないと止められない相手だと言うことか………」
「ここまで大規模なダンジョンの主がこうまでして警戒した相手だからな。もしかしたらアンタらレベルかそれ以上だ」
そう言うと、少し連中の顔が強張った。
まぁ、こいつらなりにプライドもあるんだろう。
「俺らより強い、ねぇ………言っとくが、俺たちはその辺の奴らとはわけが違うんだぜ? お前から見たら話は別だが」
「わぁーってるよ。実際アンタと戦った事がある俺が、アンタの実力を見誤ると思うか? それを踏まえて言ってんだよ」
「むむ………そうか」
「まぁ、何にせよ、新ダンジョンの開拓は今回は諦めろ」
期待していただけに、ダグラスは少し肩を落とした。
他の3人も、こいつほどあからさまに表には出していないが、がっかりはしているだろう。
「ああ。仕方ねぇが、そうする他ないだろうな。どうするボウズ? 帰るか?」
さて、そんな皆様に朗報です
「帰る? まさか。ンな訳ねーだろ。まだ帰らねーよ」
「あ? ああ、依頼が終わってないからか? そういやそうだったな」
「いんや違う」
「じゃあ、何でだよ」
俺は人差し指を上に向けてこう言った。
「龍姫、見に行くぞ」




