第196話
説明も終わり、互いの自己紹介も終わった。
いよいよ出発だ。
「そろそろ行くか?」
「そうだな。よっしゃ! 行くぞ、お前ら!」
「うむ」
「でぇすね」
「銀冠の四柱、久々に復活だね!」
ダグラス達のやる気は十分。
久々に集まったという事で、気分も高揚している。
しかし、油断は見られない。
その辺りは流石ベテランだと感心した。
「目指すは“龍姫の逆城”の攻略。戦わないかもしれないが、そこは気にするな。俺らは戦いに行く訳じゃあねぇ。冒険をしに行くんだ!」
「「おう!」」
いいパーティだと思った。
俺がいるのはお門違いな気もするが、そこは気にせず頑張るとするか。
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移動は、意外にも馬車だった。
特殊な馬車で、馬に強化魔法を掛けている。
スピードも揺れもましましだ。
つまり、
「っぷ………やばいやばいやばい………………普通じゃねぇ馬車がここまでしんどいとは………つーか、アンタら何でこんなもん使ってんだよ………」
酔いはもう酷いものだった。
乗り物酔いがひどい奴にバットを持って20回ぐるぐる回ってもらった後にF1レースカーに乗ってコース10周したくらいの酔い方である。
しかし、目的地は近い。
ファイト、俺!
「ん? 何だいアンタ、 馬車は使わないのかい? まぁ、確かに走った方が早いけど、無駄な魔力は使いたくないしね」
「酔うよかま、っぷ………ましだ………それに、魔力吸引すればいいじゃねーか………」
………あれ?
俺が魔力吸引というと、ポカンとした顔をされた。
「魔力………吸引?」
「何だそれ? お前ら、聞いたことあるか?」
「ないな」
「ないでぇす」
そうか。
魔族は普通に使ってたからみんな使えるもんと思ってたが………いや、その魔族も魔力吸引とは程遠い微量な量の魔力しか吸引出来ていなかった。
あまりちゃんとは知られてない技術らしい。
「じゃ………着いたら、説め………っおっぷ」
ギリギリ間に合ったらしい。
「も、もう馬車は乗らねー………絶対車作る………」
「がっはっは! ボウズにも弱点があったみたいだな!」
愉快そうにダグラスが笑っていた。
「いろんな場所でしでかしてるアンタよかマシだ」
「へぇ? そうなのかい?」
「ゲッ! ボウズッ! それは言わない約束だろうが!」
「ほぉ〜?」
ローレスがパキパキと指を鳴らしている。
ご愁傷様だ。
「僕はダグラスを放っといて魔力吸引って言うのを教えてほしいでぇす」
エンドールはダグラスを見捨てたらしい。
日頃の行いが悪いせいである。
「そうだったな………うっし、大分マシになった。じゃあ、見てろよ」
感覚を研ぎ澄まし、魔力をより強く感知するようにする。
周囲の魔力をある程度感知したら、今度は内部の魔力から引っ張るように外の魔力を取り込んでいく。
こればかりは感覚なので説明できないが、そうやって大気中の魔力を吸収するのだ。
「………ふぅ。こんな感じだ」
「………何だその馬鹿げた裏技は」
「裏技じゃねぇ。れっきとした技術だ。おっさん、やってみろ」
「無理」
「諦め早すぎんだろ」
「いや、それは確かに無理だろう。その魔力操作の緻密さ、お前はいわゆる天才の部類に入る。それも、天才の中でもさらに一握りの才だ。魔族達でもそこまで精密な魔力操作は出来まい」
ドロットはそう言った。
「アンタ、色々出来るんだね〜」
「色々恵まれたからな」
まさか魔力の精密操作という才能があるとは思ってなかった。
よく考えたら“知恵”があっても操作するのは俺自身なんだから、そうじゃないとここまで魔法は使えないな。
「そんなら、今回は存分にその腕を振るってもらわねぇとな」
ダグラスは、妙な形をしたダンジョンの入り口を見ながらそう言った。
「あれが龍姫の逆城か?」
「ああ。城ってついてるくせに、それらしいもんは見当たらねぇ。だが、中に入ればわかる。あれは、逆さになった城が地中に埋まってんだ」
入り口は、不恰好に掘られた穴だ。
そして、その周りには土ではなく、 整った形の石が敷き詰められている。
確かに、その部分を見れば、城の断面図のように見える。
「ありゃ誰かが開けたのか?」
「さぁな。だが、あれ以上は広げられんぞ。他のダンジョンと同じで、破壊不能になってる」
「そうか………」
ダンジョンは特殊な仕掛けでもない限り、基本壊せない。
どれだけ強い魔法やスキルをぶつけても絶対に壊せない。
「とりあえず、入るぞ」
「ちょっ、待て!」
俺は城まで走っていってその穴に飛び込んだ。




