第191話
「ッァアッ!!」
「ッラァアッ!!!」
魔力で作った斬撃波をお互いに飛ばす。
それを追うように、前に飛び、更に斬撃を十字に交差させた。
それらが衝突しあった瞬間、轟音と共に地面にヒビが入った。
「ぐぅ………ぅううああああああ!!!!!」
「がッ、ァァァアアアアアアアア!!!!!」
互いに込める魔力を大きくしていく。
交差している場所を中心に魔力の力場が生まれ、雷のようなものが発生する。
「流石に………強いねッ………!」
「お前もなッ………!」
一度剣を引き、再び鍔迫り合いになり、そこから剣戟。
ぶつかる度に剣同士の衝突とは思えない程の轟音が生まれた。
一度距離を取って魔力を溜める。
溜めるのは一瞬。
隙を見せれば喰らってしまう。
俺もラクレーもコンマ数秒で魔力を溜め、一気に飛び出した。
「「いい加減ッ!!」」
ラクレーがフルパワーになって二度目の衝突。
「倒れろォォォォォォ!!!」
「くたばれェェェェェ!!!!」
ぶつかった衝撃は凄まじく、あたりの岩を吹き飛ばした。
耐えきれなくなった地面が、遂に割れた。
「ったく………自然に優しくねぇなァ!」
「君もね!」
崩れる地面から上空へ飛び、再び構える。
すると、
「!」
ラクレーが剣を抜刀剣に持ち替えた。
「【千斬】か………いいねェ、全部受け切ってやるよォ!」
「!?」
流石に予想外だったか、驚いた顔をしたラクレー。
通常、 抜刀術は回避以外に防ぐ事はできないと言われている。
「………死ぬ気?」
ラクレーは、抜刀術を止める方法など見たことも聞いたこともない。
この剣の達人でさえ、これは止められないと思っているのだ。
だが、俺は止められる。
俺の剣術と、この神の知恵が予測して作り上げた弱点を、 こいつに見せるのだ。
俺は自信満々にこう言った。
「ん? 倒す気だが?」
「………」
カチンと来たのか、ラクレーの眼が据わった。
どんどん魔力が集まっていき、剣にまとう魔力の密度が高まっていく。
「来いよ」
対抜刀術。
見せてやる。
「【千斬】」
これは実際に千度斬るのではなく、一度の斬撃に魔力の斬撃を織り交ぜて発する技だ。
しかし、一度に相当な威力の斬撃波を放ちながら、剣も相当数振らなければならないので、剣を極めた達人でしかこの技は使えない。
来た。
無数の斬撃の筋を読め。
ここまでの数を斬るとなれば、ある程度の法則に則って使ってる筈だ。
先読め。
先読め、 先読め、先読め、先読め、先読め先読め先読め先読め先読め先読め先読め先読め先読め先読め先読め先読め先読め先読め——————
——————ここだ
読み切った先にある、一瞬の隙。
抜刀剣にある数少ない弱点の中で、決定的に弱い部分。
「————————————ッッッッッ!!」
2人の動きがほぼ同時に止まった。
そして、俺の剣はラクレーの首筋にある。
「ふぉーーっ………抜刀剣、破れたり。なんつってな」
「【千斬】が止められた………?」
俺は剣をアイテムボックスに仕舞った。
「抜刀剣を使う時に出る一瞬の間。人によるが、長い奴は長いし、短い奴は短い。お前なんか特に短かったぜ?」
「あの技に隙などあるものか」
「本来はない。だが、こうやって誘導する事で、」
俺は手順を実演してみせた。
「………そんな」
「細かい演算と予測の果てに見える数字が導き出した弱点だ。俺以外で使えるとしたら今見たお前くらいだな」
もしかしたら俺以外の特異点は使えるかもしれ無いが、それはノーカンだ。
「君は一体………どんな勘をしてるんだ」
「勘じゃねぇ。これはちゃんと考えた上で作った弱点だ。さっきも言ったろ?」
「ふ、ふふふ。あははは! なるほど。恐ろしいね。世の中こんな奴がいるのか。あたしは剣には絶対に自信があった。だからこんな事はプライドにかけて言いたくないんだけど………」
一瞬悔しそうに顔を歪めて、こう言った。
「君は、あたし達“三帝”をもはるかに凌駕する別次元の存在だ」
「へへっ、そりゃどうも」
俺はニッと笑った。
「本気を引き出せなかったのはすごく悔しいけれど、楽しかった。また戦ってくれる?」
「気が向いたら、な?」
「ふふふ………それじゃあ、気を向かせられるくらい精進しないとだ」
ラクレーは手を出してこう言った。
「完敗だ」
俺は手を握り返した。
こうして、 俺とラクレーの決闘は幕を閉じたのだった。




