第189話
「………さて、そろそろ時間だな」
俺は今日早めに飯を済ませた。
今はとりあえず、魔力ストレッチをしている。
時間は正午の10分前。
今出ても早すぎるくらいだが、べつに構わないだろう。
どうせ待ってるだろうし。
「んじゃ、行ってくる。留守番任せたぜ」
今日はラクレーと戦う予定になっていた日だ。
今からてんちょーの店に行ってラクレーを迎えに行くつもりである。
「ケン、どこに行くんだ?」
奥からニールが現れた。
「言ったろ? ラクレーと戦う約束してるって。今から行くんだよ」
「そう言えばそんなこと言っていたな。ん、じゃあ行ってこい」
ニールはひらひらと手を振って戻って行った。
「いってらっしゃいケンくん」
「おう」
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「ういっす、てんちょー」
「おや、ケンくん。こんにちは。ラクレーだよね。ちょっと待ってて」
「ああ、わかってる」
ビリビリ伝わってくる。
奴の集中力と闘気。
これは手強いぞ。
「僕にも何となくわかるよ。彼女が本気を出すのは滅多にないからね」
「戦闘マニアってそういうところあるよな。ハナっから本気を出すことは基本無いだろ」
「うん、だから今日朝起きたらこんなだったし、ご飯も食べなかったから結構びっくりしてる」
へぇ、結構マジなんだな。
じゃあ俺も、真剣に戦わねぇとな。
「どうする? 多分もう少しかかりそうだけど」
「んじゃ、あいつが自分でてくるまで待っとくわ」
「それじゃあ、コーヒーでも飲むかい?」
「ん、貰っとく」
まぁ、多分12時になったら出てくるだろうがな。
「そろそろか」
「そうなのかい?」
「12時って約束してたからな。5、4、3、2、1、0」
0と同時に扉が開く音が聞こえた。
出てきたらしい。
「本当だ」
凄まじい闘気だ。
店の方にラクレーがやってきた。
直接見るとなお凄まじい。
「行くか」
「付いてきて。案内する」
どうやら場所についてはちゃんとしてくれたようだ。
巻き添えを喰らうことになる一般人がいるようなことは避けたいからな。
「ラーちゃん」
「ん?」
「頑張って」
「………ん」
俺とラクレーは指定の場所まで走っていった。
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「ここか?」
「ここ」
やってきたのは、人っ子一人いない荒野だった。
草原の中心の一部が砂漠化し、このような荒野が出来たようだ。
「なるほど。いい場所だ。ここなら思う存分戦えるな」
「ここは、昔よくみんなで修行していた場所。砂漠化で砂だらけになって、人が寄り付かなかったから、あたし達はよくここを使った」
「あたし達って、三帝の2人もか?」
「ダグラスとかもいた。たまにだけど」
へぇ、伝説の修行場ってか?
こいつらのファンがいたら人まみれになってただろうな。
「ここはいい場所。そして、君は私が本気を出せる数少ない相手」
「そりゃあ、光栄だ。言っとくが、俺相手に手抜きの探りなんて入れようとしたら、一瞬で倒すぜ?」
「うん」
なんてな。
こいつにそんな気はさらさらないのは知ってる。
突き刺すようなこの闘気。
本気すぎるまでに本気だ。
「始めよ」
「ああ」
俺とラクレーが剣を抜いた。
ラクレーは詠唱を開始する。
「『剛強なる不屈の肉体は天上を突破し、限界を忘れ、ただひたすら強さを求める。我は鋼の凶器なり【クインテットブースト】』」
オォン………!
真っ白なオーラが、ラクレーを包んだ。
混じりっけのない綺麗な白。
強化魔法を極めている証拠だ。
「んじゃ………来いッ!」
「………行くよ」
俺はとりあえず、無強化で戦うことにした。
まずは小手調べだ。
「あまり舐めない方がいい」
「!!」
一瞬で距離を詰め、7連撃を放った。
避けて、避けて、捌いて、受けて、避けて、避けて受けた。
内数発が髪を擦り、髪の先端が宙に舞った。
「流石に、無強化は厳ィか。それじゃあ、」
俺はデュオまで使った。
「さて、俺から行くぞ」
距離はすでにある程度まで近づいている。
俺は一歩踏み出し、ワザと隙を作っているであろう場所に突き込んだ。
「!」
「カウンターは、」
俺は飛んでくるであろうカウンターのパターンを予測。
左右右上下だな。
筋肉の動きを観察。
そして、
「っと」
予測通りの攻撃を、予測しているとわからないくらいのタイミングで避けた。
そして、頰に一撃を当てる。
「髪の礼だ。受け取れバトルジャンキー」
「やっぱり………面白い!」
ヤイバが交わり、轟音が鳴り響き、空気が震える。
戦いは始まったのだ。
 




