第182話
「何があったんですの?」
俺が急にアンタ誰だと言ったもんだから、フィリアの頭の上にはクエスチョンマークがついていた。
「誰かが通信魔法具の通信に干渉して来た。今、この会話は聞かれている」
「干渉!? そんな事できる訳………」
「それが出来るんだよなぁ。通信している微弱な魔力を感知して、持っている通信魔法具の魔力を結合させる。だが、かなり精密な魔力操作を出来る奴じゃねーと不可能な芸当だ」
基本的に魔法というのは、魔力に命令を完了した状態で放たれるので、後から放った魔力が魔法に影響することはない。
出来なくはないが、リスクが高い。
一歩間違えれば暴発し、自身に跳ね返ってくる。
通信魔法具は、用いられる魔力が小さいので、暴発しても大したことないが、その分難易度は増す。
『すまないな、つい覗かせてもらった』
「? 女の声だ。誰だ?」
すると、通信魔法具から、王が息を飲む様子がうかがえた。
『主は………ファリスか!』
『久しいな、アルスカーク。いや、国王陛下? ハハハ』
ファリスと呼ばれた女は、ケラケラと笑った。
「ファリス? マジで誰だ?」
俺がそういうと、ラクレーとダグラスが飛び出して来た。
「「ファリス!?」」
「って言ってるが、知り合いか?」
奥から、む、という声が聞こえた。
俺は通信魔法具をダグラスに達に向けると、2人はそれに近寄った。
「ファリス!」
「お前なのか!?」
『ダグラスにラクレーか。いつぶりだ? 悪いが話は後にして欲しい。私はこの少年に話がある』
え?
「俺?」
『ああ、とりあえず1分ほど待って貰おうか。今そちらに向かっている』
『お主、何をする気だ?』
『後でまとめて教えよう』
そういうと、ファリスは通信魔法具を切った。
「どーするよ。王サマ」
『奴の言葉なら無視できぬよ。なにせ奴は、この国で唯一、余と同位の者なのだからな』
国王と同位?
この国でか?
考えられるのは、同じ王族で、所謂関白のような存在であるか、王家いや、この国の外部の人間であることだ。
何か特別な地位………思いつかないな。
この国の地位などは情報として持っていない。
………いや、待てよ?
魔法に秀でていて、特殊な地位………確かに特別視されていそうな地位だな。
というか地位だったのか。
何にせよ、とにかく待つしかないか。
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「あの馬車じゃないか?」
誰かが馬車に向かって指をさした。
奥からえらく豪華な馬車がやってくる。
「あの馬車………間違いない」
「ああ、絶対そうだ」
ラクレーとダグラスがそう言った。
「どんな奴だろうな………」
馬車は俺たちの近くまで来て停まった。
近くで見ると派手なだけでないことがわかる。
魔法具だらけだ。
馬の速度調節ようの魔法具に、揺れを抑える魔法具。
馬の回復用もあり、その他多数取り付けてあった。
「なんか………スゲェな」
「乗ってる奴はもっとスゲェぞ」
「これより目立つって事か?」
「まあ、色々だ」
ダグラスとどうでもいい会話をしていると、 ついに中から人が出てきた。
「やれやれ、ここは遠いな。マギアーナからどれだけかかったことか」
出てきたのは女だ。
これは確かに………
「目立つな………」
「だろ?」
顔は若い。
目力が強く、キリッとした顔が特徴的。
髪は派手紫色でかなり目立つ。
しかし、雰囲気から見てかなり歳はいっている。
こりゃ詐欺だ。
しかもかなり露出の激しい服を着ている。
一言で言うとデカイ。
「よう! ファリス! 相変わらずでっけぇチ——————うおっっ!!!」
「む!」
ダグラスの顔すれすれを飛んだのは魔法だ。
しかし、無詠唱で三級。
あの感じだともっと上もいけるな。
「相変わらずのセクハラ野郎だ。ギルド職員もさぞ辛いだろう」
「危ねぇな! それと職員には迷惑かけてねーよ!」
嘘つけクソオヤジ。
「さて、 アホに構っている暇はないな。お前、あの時の魔力の持ち主だな?」
あの時?
俺は少し考えてなんのことか思い出した。
「ああ! あれか。魔法の実験中のやつ。ああ、俺だ」
あんだけデカイ魔力を流したら、そりゃあこいつ程の使い手には捕捉されるわな。
「そうか………申し遅れた。私はファリス・マギアーナ。三帝の魔道王という称号をもつ者だ。よろしく頼む。少年」
ファリスはそう言って俺に手を差し出した。
やはり三帝か。
こいつらは王の下ではなく、横にいる存在だったんだな。
「俺はヒジリ・ケンだ。よろしく」
そして、次の一言でその場が凍りついた。
「おばさん」
「「——————」」
三帝・ファリス・マギアーナにはとある噂があった。
その噂とは、ある言葉を言われたことで、当時危険視されていた盗賊集団を丸々一つ潰したと言うものだ。
ファリスの見た目はこうだが、年はアラフォーだ。
見た目がこんななのは、歳を気にしているから。
老けることを極端に嫌っている。
だから、見た目は若返らせたが、中身と実年齢はどうしても歳をとってしまう。
ある盗賊はファリスがアラフォーだと言うことを知っていたので、つい言ってしまったのだ。
“おばさん”、と。
数時間後、辺り一帯魔法で更地にされていたとか。
噂だが冒険者、特にこのクラスの冒険者は、結構歳いっているので、知っているやつが多い。
「ばばば、バカヤロォォォッッ!!!! すぐ撤回しとけ!」
真っ先に我に帰ったダグラスがそう言う頃にはもう遅かった。
「………ァア゛?」
あ、これガチのやつだ。
 




