第178話
ニールは埋め尽くされそうな意識でなんとか頭を動かして周りを見るが、誰もいない。
だが、声ははっきり聞こえる。
「ウウウ………ダれ、ダ」
あーあー、こりゃダメだな。
俺が誰かもわかってねーのか。
ま、いいや。
お前は自由になりたいとか今吐かしてたな。
「ナにが、ワる、い………」
それが自由なのか?
自分の意思とは無関係に暴れ回って、後で後悔するのが自由なのか?
違ェだろ。
それは自由なんかじゃねぇ。
そんなモンは自由とは似ても似つかねぇよ。
履き違えんな。
自由ってのは、好きなことを好きなようにすることだ。
やりたい事をやりたい時に好きなだけすることだ。
それがお前のしたいことなのか?
違うだろうが!!
お前がしたいことはそうじゃねぇだろ!?
いつも馬鹿みたいに言ってるだろ!?
さっさと思い出せ!
このうすら馬鹿が!!
いつまでそんなチンケなモンに呑まれてんだよ!
お前らしくねぇぞ!
思い出せ!
テメェは今、なんで戦ってる!
「私、 私ハ………」
黒い衝動が消えていく。
そうだ、私は暴れるためにこの力を使っていたわけじゃない。
私は、私は!
「リンフィア様達を守るために戦っているんだーーーッッッ!!!」
「!」
少し、姿が変わる。
黒い模様に、少しだけ青が入った。
羽が鮮やかになり、表情が引き締まった。
けけけ、やりゃ出来んじゃねーか。
「うるさいぞ、戯け者が………」
はっ! 調子出てきたじゃねぇか!
「ニール………あれ?」
「ニールさんの表情が………ん?」
「よかった、ニールねぇ………え?」
見ていたみんなはそれを見て驚いていた。
いつの間に、というより、なんでそんなものがそんな所に乗っているという事に驚いている。
「ニール! 頭のそれ!」
と、リンフィアが叫んだ。
「頭?」
ニールは今になって頭に何かが乗っかっていることに気がついた。
「これ………」
取ろうとすると、それはいきなり前に飛んだ。
「!?」
そして、ニールが目にしたのは、小さなゴーレムだった。
赤ん坊くらいの大きさの、2頭身くらいのゴーレムが立っている。
人型だ。
そして、見覚えのあるようなないような後ろ姿だった。
「なんだこれ………」
「これとはご挨拶だな」
声だ。
その声は、ニールにとって聞き馴染みのある声だった。
ニールはそのゴーレムの顔を見ようとした。
すると、
「キュリリリリリ!!!」
次の瞬間、デスウェポンが飛び出してきた。
デスウェポンはそのゴーレムに一直線に向かっていく。
「デスウェポン! こんな時に………なっ!」
ニールが迎撃しようとした瞬間、ゴーレムが前に飛び出した。
そして、
「オッラアアアアアアアア!!!!」
デスウェポンの顔面を蹴り込み、20mほど吹き飛ばした。
「——————」
その場は一瞬静まりかえった。
そりゃそうだ。
いきなり出てきたマスコットが、あんだけ手こずったモンスターを吹き飛ばしたんだからな。
「おー、ゴーレムとは言え、俺が作ったやつで割とおもっきし蹴ったのに、こんくれーしか飛ばねーか。なかなか厄介なのを相手にしてるな、お前ら」
ゴーレムは振り返って顔を見せた。
「ミニマムケンくん参上ってか? ははは!」
「けけけっ、ケン!!!!??」
「おう」
「「「えーーーーッッッ!!!」」」
ほぼ全員同時に反応した。
「うるさっ! 何だ? ダメだったかこのデザイン? んなわけねーよな。元が俺とはいえ、ゆるキャラっぽいデザインにしたんだ。キモくはねー筈!」
「何でゴーレムからケンの声が………ん? さっきまでの声もお前か!?」
「おうよ。俺のスキルで作った遠隔操作ゴーレム。後もう一体来るぞ………お、来た」
俺ゴーレムが指差した方にもう一体ゴーレムがいた。
今度のデザインはこいつとはちょっと違う。
「なにこれ?」
ラビがそれを発見し、持ち上げた。
「かっちゅう? よろい? ちっちゃ!」
「テメー師匠にそんなこと言うとはいい度胸だな」
「………。わああああっっ!!!!」
ラビは甲冑型ゴーレムを投げ飛ばした。
甲冑はくるっと一回転すると着地した。
「おっす」
「その声………ケンか!?」
「おう、待たせたな。蓮」
「ケンちゃん………ちっちゃくなっちゃった!?」
「あー、お前と話すとカオスになる………いや、お前ら3人か。三馬鹿トリオ」
「「なによぅ!!」」
何か言いたそうな目でこっちを見ている。
いや、事実じゃん。
「ケンくん、何があったんですか?」
「おお、流石ここ何ヶ月か俺と四六時中いただけの事はあるな。反応が薄いこと」
「いや、訳がわからな過ぎて逆に落ち着いているだけですよ」
「さよか。まぁザックリ言うと、本体の俺が負傷して動けなくなった」
「———————!!!!!」
その一言でリンフィアの表情が凍りついた。
「お?どした? 何をびっくりしてんだリフィ。こっちで驚くのか?」
「ケンくんが負傷!? え、うそ、だって、そんな、あれ?」
「落ち着けよ。つっても相手は神だからな」
「神ィ!!!?」
———————————————————————————
「と言う訳だ」
俺はザックリ説明した。
ヨルの事やこのスキルの事などなど、だ。
「やはり他の神がいたのか………」
「お、やっぱ勘がいいな蓮。ああ、結構いるぜ」
「それにしても並列思考に精神体憑依か………お前にはうってつけのスキルだな」
「だろ? まだ試運転だし、とりあえず2体作ったんだよ。お前らを守る用と、アレを潰す用。ちょうどいいじゃねーか。使える魔法は限られるし、本体の俺と比べれば全然雑魚いが、ここら辺のやつを守るくらいは出来るぜ。ま、多分出る幕はねーけどな」
「ニール、説明は後でする。とりあえず戦うぞ。見た感じ、ラクレーの抜刀術の時間稼ぎだろ?」
「ああ」
ミニゴーレムはチラッとラクレーを見た。
魔力の充填率からしてあと3分くらいだな。
「あの感じなら本体を待たなくてもいいな………よし、時間稼ぐぞ。今のお前なら普通に連携できる筈だ」
「そう言えば、アレが消えてる………」
いつの間にか、ニールを蝕む狂気のような何かは消えていた。
「以前、お前が覚醒半魔になった時に使った方法の応用だ。人間の魔力を流す。お前が暴走するのは多分その剣のせいだ。そこを俺の魔力で覆った。混ぜたら戻っちまうから覆ったんだ。だが、以前のお前なら気絶していたところを無事コントロール出来たようだ。確実に以前よりマシになってるぞ」
ずっとは使えないが、一定時間は自我が蝕まれる事はない。
「以前より………」
ニールは自分の拳をじっと見た。
そして、グッと握りしめる。
「んじゃ、戦うとするか。ゴーレム初戦闘だ」
「足を引っ張るなよ」
「へっ、誰に言ってやがる」




