第175話
「キュリリリリリリリ………」
体は、今の一撃で液体が弾け、デスウェポンの足に纏った。
そして全貌が明らかになった。
こいつの戦闘形態は、アクラネがモデルになっている。
ただし、人間としての体の方は、黒光りしたマネキンのような姿だ。
口は蜘蛛のそれで、とても人間とは言えない。
「こいつ、強い………ん?」
ラクレーの頰が微かに出血している。
防いだと思った一撃が掠っていたのだ。
「へぇ?………キミ、面白そうね」
ラクレーは小さく笑みを見せた。
そして、
「遊んであげる」
ゾワ!!!
ラクレーは、それだけで人を殺せそうなほど、純度の高い殺気を放っていた。
「こ、怖い………」
琴葉たちは、対人戦闘の経験は無い。
だから、殺気を知らないし、免疫もない。
勇者たちの中で耐えられているのは、蓮とフィリアだけだった。
「殿下………大丈夫ですか?」
「ええ………剣天………やはり只者じゃあ無いですわ」
「行くよ」
ラクレーは、地面が凹むくらい強く踏ん張り、前へ飛び出た。
とりあえず、デスウェポンの心臓をめがけて一撃を放つ。
すると、
「む」
ラクレーの攻撃を4本の脚で防いだ。
残りの脚を使って攻撃を仕掛けて来る。
ラクレーは攻撃を剣で払いながら、防ぎきれないものを躱した。
左斜め上、右斜め下から挟み込むような攻撃。
ラクレーは攻撃を上下に弾き、下に振った時に見せた肩の部分への攻撃を右に踏み込んで避け、鍔で押さえつつ、下からの攻撃を飛んで躱す。
同時に攻撃を払いながら数撃斬りつけた。
「斬撃は有効………ん?」
デスウェポンは宙に浮いたラクレーを8本の脚を同時に使って攻撃を仕掛けた。
すると、
「遅い」
まるで同時に弾いたように8本の腕が逆方向へ吹き飛んだ。
「凄い………スピードもそうだけど、動きに一切の無駄がない。あんな動き………俺とは場数も違いすぎるな………」
蓮はラクレーの動きをじっと見ていた。
一切の予測をさせないので、目で追うので限界だ。
ほかの奴の剣なら、ある程度予備動作が入ってしまうので、予想は建てられる。
だが、ラクレーにはそれが全然見られないのだ。
「そんなにいっぱい魔力があるならもっと力を出せるはず。あたしを舐めてるのか?」
「………」
デスウェポンは何も言わない。
カチンときたラクレーはスピードを上げ、一瞬にしてデスウェポンの背後に回った。
「そう………なら、」
ザクッ!!
一本脚を斬り落とした。
警戒したデスウェポンはラクレーと距離をとる。
すると、傷口からボコボコと泡が吹き出し始める。
「あ、傷が!」
冒険者の誰かがそう叫んだ頃には、脚は元どおりになっていた。
「あの速度で再生されるとなると………一人じゃ火力が足りねぇんじゃねぇのか?」
「いや、だってあの“剣天”だぞ!? ダグラスさんですら足止めくらいで精一杯の強者が火力不足ってことがないだろ」
「今回は相手が相手だからな。流石に火力不足は否めないだろう」
周りで冒険者がいろいろ言っているが、助ける様子は無い。
いや、助けられないのだ。
SSランクにも、この戦いについていける程の実力者はそうそういない。
ダグラスも精々援護で精一杯だろう。
だが、
「私も出よう」
ニールだけは、この場で唯一隣で戦う資格がある。
「リンフィア様、最悪ハーフまでつかうかもしれません。そうなった場合、巻き込まれるものが出ないようにお願い出来ますか?」
「………最悪の場合、それも暴走したら。ですよ」
「ええ、心得ています」
ニールは大剣を抜いた。
その瞬間、ニールの姿が変化した。
クオータ化したのだ。
ここには幸いリンフィア達の種族を知っている人間しか周りにいないので見られる事は無かった。
「おぉ………スッゲェ………」
高橋が圧倒されたような声を出していた。
他の奴らも同じような反応だった。
「これが魔族………」
「でも、悪い感じじゃ無いよね?」
「うーん、ウチらこっちの住人じゃ無いし魔族が悪いってイメージあんまし無いんだよねー。最近のマンガとかじゃ人間の方が頭イっちゃってるやつ多いし。サイコロパスってやつ」
「サイコパスな」
「そうそうそれ」
にひひと笑う七海。
誤魔化してるが割とガチで間違ってたりするのだ。
「ニールさん、気をつけて。生半可な強さじゃ返って怪我をするよ」
「ふ、案ずるな。私にも奥の手はあるし、あれくらいならついていける。奴らはまだ本気を出していないらしいからな。それはなんとなくわかってるんだろう?」
「なんとなくはね………」
「ならば参戦するなら今しか無い。なぜ手を抜いているかは知らんが、一気に倒しきることに越した事はない」
「………だね。じゃあ、気をつけて。君達とはまだ話したいことが色々あるからさ」
「了解した」
ニールは振り返ってデスウェポンをへ向かう。
一瞬だけリンフィアの方を見ると、リンフィアは静かに頷いていた。
ニールも頷き返し、そして一気にラクレーの横まで移動した。
「ん?」
「悪いが、混ぜて貰うぞ。こいつを生かしておくのは危険だ」
「好きにしてよ」
割とあっさり許可を得たので、ニールは内心驚いた。
「結構簡単に許すんだな。戦闘狂な方だと思っていたが、私の勘違いか?」
「ん、合ってる。けど、」
デスウェポンが多方向から攻撃を放ってきた。
ラクレーはそれらを弾き、ニールと入れ替わると、ニールは黒炎一閃を放ち、デスウェポンがそれを全ての脚で防いだ瞬間再び入れ替わり、ガードに使っていた脚の先を斬り落とした。
「お楽しみは別にとってある」
「なるほど」
 




