表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/1486

第16話


 「魔族……この奴隷が例の魔族か?」


 本来魔族は人間の国には滅多に姿を現さない。

 ゼロでは無いが限りなくそれに近い。

 魔族の奴隷は更に数が少ない。

 そもそも生け捕りになることが無いからだ。

 だから、ウルクが言っていた魔族はこいつで確かだと思う。


 「いや、今はそれどころじゃない。この状態のまんまだったら死んじまう」


 俺はハイヒールを掛た。

 みるみる傷が癒え、顔色も正常になった。


 「これで良しと」


 とりあえずはこれで安心だ。

 あとは起きるのを待とうと思う。

 が、その間に解決しておくべき問題が一つ。

 

 「待つのはいいがどうしたもんか……」


 亜人の子供。

 減り込んでるこいつの奴隷らしい。

 耳や尻尾を見る限り猫の亜人だ。

 短髪で目が大きいのが特徴である。

 奴隷になんか落とされていなかったら元気な子供だっただろう。

 今は全く喋らない。

 先程からじっとこちらを見ている。

 

 「おい、言葉はわかるよな。自己紹介くらいしてくれてもいいんじゃねーのか」


 「……シャム」


 子供の亜人はそう答えた。

 

 「シャムか。俺はケンだ。よろしく」


 「………」


 仏頂面でこちらを見ている。

 こう言う場合は自分から話しかけないと向こうは話さない。


 「お前もそいつの奴隷なのか?」


 シャムは無言で頷いた。

 

 「そうか。………ここじゃなんだ、お前らの拠点まで連れてってくれ。奴隷の方の拠点でいい。お前もこいつをほったらかすのは嫌なんだろ?」


 「!」

 

 大きく目を見開いた。

 図星をつかれたからだろう。

 これは誰が見ても丸わかりだ。


 「見てりゃわかる。俺とこいつを交互にチラチラ見てただろ。何されるか心配で。治療後もそこでまごついてたし、こいつのことが大好きなんだな」


 「……場所言ったらどうするの?」


 少し警戒心を持たれているらしい。

 あの登場では無理もないか。


 「ほったらかすのは嫌かって聞いたろ。こいつを運ぶンだよ」


 俺は魔族を持ち上げ背負った。


 「ほら、捕まれ」


 手を差し出す。

 だが何故かもじもじして捕まる気配がない。


 「どうした、早く」


 シャムは手を後ろに隠した。


 「気になる事でもあるのか」


 「手が、汚れて……あ」


 焦れったいのでガシッと掴んだ。


 「はぁ、汚れくれー気にしねーよ。ガキがそんな事で気ィ使うな。もっとガキらしく空気読まねーくらいが丁度いいンだよ。シャキッとしろ」


 シャムを抱きかかえ足にゆっくりと力を入れる。


 「行くぞシャム。案内しろ。目立ちたくねーから屋根を跳んでくぞ。舌噛むなよ」


 「え……うわっ!」


 壁を蹴って上空へ飛び出す。

 見渡せる様に高めに跳んだ。


 「ここなら見えるな」


 更に全身を強化する。


 「お前らの拠点はどこら辺だ?」


 「えっと、あそこに見える塔」


 シャムが見た方向を見ると確かに塔が立っていた。

 あそこの裏路地へ跳ぼう。

 それにしても、


 「あった。うっわー、えらい趣味の悪りぃ塔だな。何でも金ピカにすれば良いってもんでもないだろ。それじゃ、行くぜ」


 屋根へ着地し直後、一気に蹴り込む。

 屋根の瓦が少し崩れる音がした。

 家主よ、すまない。


 出来るだけ注意しながら移動する。

 と言っても流石に無傷というわけにはいかない。

 俺は靴に屋根の瓦の破片をくっつけながら塔の下へたどり着いた。


 「ここからは歩くぞ。どれが拠点だ」


 「そこ」


 シャムが指をさしたのはまたもや塔だった。


 「あ? この塔か?」


 シャムは頷いた。

 なるほど、この塔が拠点か。

 こんな目立つところが拠点なら奴はこの街で結構な力を持った存在なのだろう。


 「さて、中に入るか」


 俺はドアノブに手をかけた。

 するとシャムに入るのを止められた。


 「待って」


 俺は思わず聞き返した。


 「あ? 何でだ?」


 「入り口はそこじゃない」


 シャムはそういうと足元の一つだけ色と形の違う石を持ち上げた。

 石を退けると出てきたのは、地下への錆だらけの梯子だった。


 「奴隷はそこや正面から入っちゃダメ。ご主人様がそう言った。その地下通路から出入りしないといけない」


 「……一応聞くが、何で?」


 「地下の部屋のゴミと……血がついて玄関が汚れるからって。血はご主人様が僕達を殴ってつけた血。ご主人様はイライラしたらすぐに僕たちの誰かを殴る」


 よく見ると服には所々血の様なものが付いている。

 血は古すぎてただの汚れと区別がつかない程だ。

 つまり、そんなに昔から殴られてるという事だ。


 「………」


 俺は眉をぴくりと動かす。

 気にくわない。

 あの男はそこまで威張れる様な奴なのか。

 もう少しボッコボコにしておけば良かったと思えてくる。


 「ホントは奴隷でも無闇に殴られる事はない。でも、ご主人様はここの領主だから、誰も止めない。止めた人が前にいたけど、どこかに行っちゃった」


 間違いなく消されている。


 「とんだクソ野郎だな」


 ここまでのクソ野郎は滅多に見ない。

 この地下にはそんなカスに虐げられた奴隷が大人数いるのだろう。


 「ぅ、ん……」


 「あ! お姉ちゃん!」


 シャムがここに来て初めて歳相応な声を出した。

 さっきまでの機械のような喋り方ではない子供らしく言った。


 「……ここは?」


 魔族の女が目を覚ました様だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ