第159話
「はぁ………また、マナですか。一体誰なんですの?」
また?
俺は無意識に蓮と琴葉を見た。
俺以外で愛菜知っているのはこの中ではこいつらしかいない。
「俺たちも同じことを思ってね。つい呼んでしまった」
「うん、本当にそっくりだよね、愛菜ちゃんに」
「ああ………」
こいつらもあれを覚えているんだな。
忘れられるはずもないか。
愛菜はこいつらと仲が良かった。
特に蓮は——————
「ねぇ」
「ん………ああ、聞いてる聞いてる」
ああ、ダメだな。
慣れろ、慣れるんだ。
「ンだよ」
「国の上層部がどうしたとか言っていましたけど、私はそれを見過ごすわけにはいきませんわ」
そういえばこいつ、格好といい、話し方といい、まさか王族か?
もし王女だとしたらかなりクレイジーな王様だな、あれ。
まあ、どこかネジ飛んでるのは間違いないか。
あれは。
「で、お前は何だ?」
「私は、ミラトニア王国第四王女 フィリア・ミラトニアですわ。蓮の未来の妻となる女ですの」
「ぶっ!! 妻! あっはっはっは!」
こいつ、なかなかぶっ飛んでンな!
「む、何がおかしいんですの」
「いや、そんなところまで一緒とは思ってなかったかンな」
この王女も蓮に惚れてんのか。
こいつも大変だ………
「何なんですの?」
「気にすんな。王女ってことはまぁ上層部か。そりゃあ気に食わなねーだろうな。いきなりこんなことを言われて。でもな、俺には俺の言い分があンだ。それを無視してこいつらを連れて行こうってことなら、俺も潰さざるを得ないっつー話だ。別に殺すって言ってるわけじゃねーだろ?」
「そうですわね。なら勝手になさい」
「ああ、勝手に………………ん?」
ん?
「どうしましたの? お行きなさいな。私はあなた達に危害を加えないし、あなた達も私に危害を加えない。完璧じゃなくって?」
「ちょっ、殿下! お戯れを!」
ルドルフは慌てふためいた。
「………いいのか? その、王女なんだろ? バレたらマズイんじゃねーのか?」
「ええ、でしょうね。でも構いませんわ。私も魔族に排他的なこの制度が死ぬほど大ッッッ嫌いなんですの。種族じゃ人の中身はわかりません。大事なのは、向き合ってその人を知ること。見もしないで悪いと決めつけるのを私は良しとしませんわ」
「………!」
「さぁ! 行きなさい!」
ああ、こいつはどこまであいつと似ているのだろうか。
口調も性格も違う。
でも、見た目だけではない。
芯が、人間としての芯が同じだからこんなに似ていると感じているんだ。
「フィリアちゃん、かっこいい!」
「流石リアちゃん! ウチらに出来ないことを平然とやってのける! そこにシビれる! 憧れるゥ〜!」
おい、それはやめとけ。
と、心の中で突っ込んだ。
「ふふふ、もっと褒めてもよくってよ」
「殿下………!」
ルドルフがいろいろ言っているが、聞く気は無いらしい。
「恩に着る、が、まだだ。この件はまだ終わっちゃあいない。だからアンタらにも動いてもらう」
「どう言うことですの?」
「コイツが話す。オラッ、出ろ」
俺は、小さい蛇になった状態でポケットに入れていたセレスを解放した。
「蛇?」
「こう見えて一応魔族だ。訳あってこんなナリにさせてる。こいつは今回の首謀者の1人で俺が閉じ込められた空間にいた」
「閉じ込められた?」
「ああ——————」
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「この空間の構造………ここが穴か? いや………」
地面に手を当てたり、魔力を流したりして試行錯誤中だ。
「何やってんだ、ボウズ」
暇を持て余していたダグラスが話しかけて来た。
「この空間を調査中だ。滅多やたらに破壊した場合、どんな不具合が出るかわかんねーから無暗に刺激は与えらんねーんだ。だから、ちゃんとした手順で壊すっきゃねー」
「何言ってるかよくわからんが、まあボウズが何とかしてくれるんだな。どんな感じだ?」
俺はニッと口角を上げて言った。
「ああ、今終わった」
俺はおもむろに立ち上がって、
「おっさん、離れてろ」
と言うと、そのまま高く飛び上がった。
ぐんぐん上空へ進んでいく。
最高到達点まで行く前に魔力を流した。
「余計な刺激は空間が歪んじまうから、………ッッ!!!」
俺は複合:風五級魔法【ガスト・ダブル】を使用した。
その風で加速しつつ、手に多めに魔力を流す。
「一点強化型の【クインテットブースト・ダブル】だッッ!」
風は俺を運び上空から一気に下降した。
ガスト・ダブル+クインテットブースト・ダブル。
実際の戦闘ではまあ使えない代物だが、動かないモノ相手ならこれがかなり有効。
俺の貫手が床を貫いた。
そこから空いた穴から風のようなものが溢れてきた。
「よし、空間の結合と安定だ………」
俺の魔力で空間を繋ぎとめ、元の場所に戻れるよう固定させる。
「よし、その前に………あの女引っ張ってきてくれ」
「わかった」
ダグラスに頼んで、セレスを連れてきてもらった。
ダグラスは捕縛されたセレスを引っ張って持ってきた。
「ほら」
「サンキュー」
セレスは不満そうに俺を睨みつけた。
「何?」
「ちょっと耳貸せ」
と、その前に魔法魔法。
俺は光魔法で自分の姿の虚像を作る。
そして移動する俺の姿を一時的に見えなくした。
そのまま、俺はセレスの耳元でこう囁いた。
「今から、お前を地上に戻してやる。但し、お前の処遇は態度次第だ」
体をビクッと揺らすセレス。
その目は恐怖に覆われていた。
「勝手な態度をとり次第殺す。向こうには見限られてるから戻れねーだろ? そうなりゃテメェはおしまいだ。いいか、殺すと言う言葉を忘れるな。今から会う奴らに余計な事を喋った場合も殺す。絶対に殺す。俺は俺の大事なモンに危害を与えられることを許さん。そこンとこ」
俺はセレスの頭を掴み、顔をこちらに向け、目を合わせてこう言った。
「よーーく、覚えとけよ………?」
セレスはガクガク震えながら首を縦に振った。
「死にたくなかったら小さくなれ。出来るだろ? 3秒後だ」
「え」
「もういい! 失せろ!」
と、少し声を大きめに叫んだ。
その瞬間、俺はセレスに手を向けて炎魔法で燃やした。
同時に魔法で作った幻覚と断末魔の声を流し、燃えそうになっているセレスを確保した。
そしてセレスをポケットに入れて、出来た穴から脱出した。
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俺は向こうでの出来事を、所々省いてざっと説明した。
「と言う訳だ」
「本当にお前が言った通りだったんだな。やれやれ」
そういえばニールには前もって説明していたんだった。
「一応言っとくが、リフィとラビを転移させた理由は、何が起きるか分からない街中より、保険をかけている会場の方が安全だと思ったからだ。お前らの修行ってのもあるけどな。誰かめちゃくちゃ強い冒険者とあった奴いる?」
「ああ、ラクレーと言う女の子に会ったよ」
蓮がそう言った。
「おぉ、マジか蓮。そうか、あいつ多分お前を気にいるぞ。剣術オタクっぽいからな。お前の変態的な剣術の腕なら間違いない」
「おい」
「ぬぐぐ、さっき言ってた女ですわね………」
横でフィリアがジェラシーを抱いていた。
「ちなみにもう成人だ」
「なっ! 嘘だろ………!? あんなに幼い感じなのに」
「お前本人にそれ言ったら斬り殺されるぞ。マジで」
さて、脱線もいい加減止めだ。
そろそろ本題に入る。




