第158話
「!!」
リンフィア達は何でバレたのかわかっていなかった。
勇者の鑑定でも、“鎖”を装備している以上、バレることはない。
しかし、綾瀬の“超鑑定”に誤魔化しは一切通じないのだ。
「だって………ツノも尻尾も羽も牙もないじゃないか。それなのに………ひょっとして、半魔族というやつか?」
蓮がズバリ言い当てた。
「リンフィア殿、そうなのか………?」
「………はい」
「!」
全員の警戒がマックスになった。
ニールは完全には回復していないため、助けられる保証はない。
しかし、リンフィアは嘘をつかなかった。
「ケンを騙していたのか!」
「っ………! 違うッ! ケンの奴は私たちが魔族だと知って………」
「ニールッッ!」
リンフィアが遮ろうとしたが、聞かれてしまった。
リンフィアは、ケンの立場が悪くなるのを防ごうとしたのだ。
「あやつめ………追放されたとはいえ、勇者の端くれだぞ!」
「!?」
ルドルフがそう言ったのを聞いてしまった。
「勇者って………ケンくんも勇者なんですか!?」
「そうだ。あの少年は、神からの授かりものであり、勇者の象徴たる力を持たなかった故に王から追放された勇者だ」
「っ………!」
リンフィアは、以前ケンが前いた場所から追放されたと言った事を思い出していた。
「魔族を庇うなど………勇者としてあるまじき——————」
「ケンくんを悪く言わないでくださいッ!!」
リンフィアは柄にもなく、 睨みつけながら吼えた。
滅多に怒鳴らないあのリンフィアがだ。
「ケンくんは、私が奴隷にされていた所を助けてくれたんです………それに、そこにいた亜人の奴隷の子達も助けてくれたんです! あの人は、私の命の恩人なんです! だから、そんな風に何も知らない人が勝手なことを言わないでください………!」
「………」
しばらくその場は静まり返った。
そして、沈黙を破ったのは、
「リンフィアちゃん」
琴葉だった。
「そっか、ケンちゃんはまたヒーローみたいなことをやってるんだね。そっか………そっか!」
琴葉はリンフィアの手を握った。
「ルドルフ先生、この子は悪い魔族では無いです。だから、一度だけ見逃してあげて」
それに対するルドルフの答えは、
「………すまないが、許可しかねる」
否、だった。
「全員、捕縛しろ。リンフィア殿、すまないが一旦捕まってくれ。私が進言して、国外追放だけで済むように頼む。この国では魔族は生きていけないのだ」
そう、人間の国であるミラトニアは法で魔族の侵入、及び在中を禁止している。
たまに入り込んでいるのは、奴隷や、半魔族、ここに古くから住んでいる魔族の子孫くらいだ。
今回の侵入者は、固有魔法で忍び込んだ。
ここまで極端に魔族に厳しいのは、遠い昔の戦争が原因とされている。
「先生!」
「コトハッ! 私もこんなことはしたく無いのだ………! しかし、君たちはいずれ国を代表する戦士となる。そんな君たちに法を破らせるわけにはいかないのだ!」
それでも琴葉が食い下がろうとするので、蓮が無理やり引っ張った。
「琴葉ちゃん、ここは先生に任せるしか無いよ。下手をすると君もあの子も無事じゃ済まない。わかってくれ」
「嫌!!」
ルドルフが手を挙げて捕縛の準備をする。
そして、捕縛の合図を出した。
「おい」
鋭く尖ったような魔力が全員を貫いた。
「っっ………!?」
一斉に振り返るが、誰もいない。
上を見るが、飛んでいる様子もない。
「大丈夫か? リフィ。悪りぃな、待たせて。お前の“虹”が見えたおかげで見つかった。それに、ニールはかなり無茶したっぽいな。お疲れさん。お前も大分奮闘したな、ラビ」
俺はギリギリで到着したのだ。
全員は再び振り返って俺の姿を視認した。
「よう、久しぶり」
「ケン!」
「ケンちゃん!」
「ケンケン!」
「聖くん!」
「………!」
「聖くん!?」
「聖ィ!?」
クラスメイトはみんな同じように驚いていた。
ああ、懐かしいな。
「最近こんな登場ばっかだな。それと、久しぶりだなァ、オッサン」
「ぐッ………」
思わずニヤニヤと笑ってしまう。
「琴葉、蓮。ん」
俺は拳を上げてグータッチをした。
「おぉ、なんか懐いな。へへっ。七海に涼子も久しぶり。つーか涼子お前、さっき1人だけだんまりだったな。久しぶりに驚いた顔は見れたけど」
「わぁ、ケンケンだ」
「ん………」
俺はチラッと美咲を見た。
「おっす、お前も来てたんだな寺島。あん時以来か」
「うん、そうだね」
この後美咲はみんなに色々聞かれる羽目になるが、それは別の話だ。
「よう、相変わらず委員長やってんのか?」
「出たわねヤンキー………」
そんな、親の仇を見るような目で見なくてもいいじゃん。
「お前はあんま話したこと無いよな、高橋」
「ああ、俺へのコメントは要らないよ」
大体これで生徒全員と会話はできた。
「さて、状況は大体わかる、お前らバレたな」
「すみません………」
「いいさ、謝んな。しゃーねーよ。そこまで徹底してなかった俺が悪い。………んで捕まりそうだったわけか。まぁ俺が来たからにはパクられる心配はねーけどな」
そういうと、ルドルフが噛み付いて来た。
「お前、この国の法を知って——————」
ザワッッッ!
今度は威圧の上に、少し怒気を混ぜた。
俺は声を低くしてこう言う。
「懲りろ、な?」
「っ………!」
ルドルフは反射的に一歩退がった。
「大体その法がオカシインだよ。人間様がそんな偉ェってか? バカも休み休み言いやがれ。………って、ンなゴミみたいな法律作った奴に言いたいね」
「貴ッ様ァ………王を愚弄する気か!?」
「言ったろ? 邪魔すっと潰すって。俺の仲間に手ェ出そうもんならこの国潰すぞ」
「「「なっ………!」」」
驚きの声が出たのは高橋と綾瀬と七海と涼子だった。
「お前何言ってんだ? スキル無しなんだろ?」
高橋はそう言った。
「あー、お前ら知らねーのか。いいや、鑑定してみ」
全員言われるがまま鑑定をした。
そして、今までされたようなのと同じような反応をした。
「あながちハッタリでもねーよ。あ、安心しろ。お前らに危害は加えねー。ただこの国の上層部を再起不能にするだけだ」
まぁ、今のところは本気で滅ぼそうとは思っていない。
まだ危害は加えられてないから。
「聞き捨てなりませんわ」
「ん?」
今度は完全に聞き覚えのない声な。
誰だ?
いや、待て………………何だ………聞き覚えがある、のか………?
少女はルドルフの背後から一歩前に出た。
「——————」
俺は絶句した。
その少女は、俺を見つめていた。
綺麗だから、とかタイプだから、とかじゃない。
俺はこいつを知らない。
知らないが、知っている。
その顔を、声をしっている。
「ま、な………?」
「マナ?」
王女、フィリアは以前蓮から本当に似てるな、と言われた。
そう、似ている。
それどころか、同じだ。
かつて死に別れた俺の妹、聖 愛菜と瓜二つだった。
 




