第155話
とっておきとは、ケンが渡した、ある魔法を込めた魔法弾だ。
「あいつの魔法なら………なんとかなるかもしれない」
「はい、だからお願いします。1分間戦って準備をさせてください。じゃないとこの魔法弾、かなり扱いが難しいので暴発もあり得ます」
かなり高位の魔法が入っており、扱いは難しい。
ケンはリンフィアの才能を信じて渡したが、ぶっちゃけかなり危険な魔法だ。
だが、この魔法ならニールの思う通りになる。
「………わかりました。お願いします」
ふぅ、とため息をついた。
結局頼ることになったか。
駄目だな、私は。
全然出来てない。
「任せてください………あっ、それと」
剣を構えようとしたらリンフィアが何か言おうとしていた。
「?」
「一人でやろうとするのは悪い癖ですよ。顔を見ればわかります。昔からそうなんだから。たまには頼っても良いんです。いや、頼ってください。私はもう守られるだけの弱い子供じゃないですから」
リンフィアは凛とした表情でそう言った。
「!」
リンフィアはわかっていたのだ。
切羽詰まったニールの表情を見て、また一人どうにかしていると気がついた。
駄目だとは思っていない。
それどころか感謝したりないくらいだった。
幼い頃から一緒にいて、自分を守ってくれているニールをリンフィアはとても頼りにしている。
だからこそ、今度は手伝いたいと思ってあんなことを言ったのだ。
「………流石ですね………ええ、わかりました。では、今回は頼らせて頂きます!」
すっかりお見通しか。
ふふ、すっかり大きくなられた。
なんだか昔が懐かしいな。
変わったきっかけがあいつだと言うのは癪だが、素直に嬉しいと思っておこう。
「ウウウ………」
「! 全く、成長を喜ぶ暇もないな」
向こうも何やら準備をしているようだ。
だったら今のうちしかない。
「ルドルフ殿、援護を頼む。今私は魔法が使えないんだ」
「なるほど、『我が肉体は限界を超え、強靭な鋼鉄と化し、敵を穿つ【トリオブースト】』」
ルドルフはニールに強化魔法をかけた。
「すまない、感謝する」
「この化け物相手では気休めにもならないかもしれんが………ニール殿、後方支援は私とラビ殿が。前衛は頼む」
「がんばれニールねえ」
ニールは静かに頷くと、ゆっくり深呼吸した。
「ふぉー…………」
もう力技ではいけない。
ならば、技術で勝負する!
1分、耐えてみせるッ!
「ッッッ………!」
ニールに5人が突っ込んだ。
「グオオオオオオオ!!!」
出来るだけここから動かない。
攻撃は後回し。
ただひたすら防ぐ。
先方からの攻撃は躱しつつ、左右の攻撃は双剣で受け流した。
後ろは攻撃の気配がしたら大剣を駆使して防ぐ。
それでも完全は防げず、背中に少し傷を負った。
「くっ………!」
すると、
「やあああッ!!」
上から急降下したダガーが、魔族の頭をかすめた。
「こっちにこい!」
ラビに反応した魔族2人がラビへ向かった。
そこにルドルフがやってきて、ラビと背中合わせになる。
「おじさん、あいずをしたらいっきにとんで」
「わかった」
魔族がラビとルドルフを挟むようにして一気に距離を詰めた。
そして、
「いま!」
ルドルフは足に溜めた魔力を放出して高く飛び上がった。
ラビは飛ぶと同時にリングに魔力を大量に流した。
それに呼応するようにダガーを中心とし、砂鉄が一気に集まり、巨大な塊となる。
「くぅらぁ、」
ダガーを上に振り上げると、砂鉄をバラバラの針に変形させた。
ラビはダガー振り下ろすと
「えッッ!!」
無数の針が魔族達に降り注いだ。
砂埃が起き、何も見えなくなる。
すると再び、ラビは魔力を流してリングを横に振り、ダガーを中心に巨大な球体を作った。
「そらっ!」
魔族達にその球体をぶつける。
だが、
「なっ!」
魔族は砂鉄の塊を蹴り砕き、落下してきたラビ達を突き上げた。
ラビはとっさにダガーを地面に刺し、磁力で引いて攻撃を躱した。
「助かる!」
「! おじさんみぎ!」
魔族は既にルドルフの目の前まで来ていた。
ルドルフはギリギリで防ぐが、力負けして剣が上に跳ね上げられた。
するとラビがダガーを飛ばして攻撃を邪魔して、 なんとか攻撃を回避した。
だが、
「ラビ殿!」
もう一方の魔族がラビを弾き飛ばした。
「うっ………あ、ぅ」
魔族はラビのダガーを拾い上げると、まっすぐラビに突き刺した。
ラビはリングで動かそうとするが、ピクリともしない。
「ラビど——————!」
ルドルフは視線の先に見つけた。
視線の先にいたのは人。
もはやこれ以外に手はない。
今ルドルフは一方の相手で手一杯だ。
だから、助けになる人間の名を大声で叫んだ。
「レェェェェェンンンン!!!!」
蓮は瞬時に状況を察し、固有スキル『逆転』を使う。
触れていない相手との逆転をした場合、しばらく使えなくなるペナルティがあるが、実行は可能だ。
そして、蓮は逆転を発動した。
もう、ラビの顔にダガーが突き刺さると誰もが思った瞬間、ダガーは剣で防がれた。
「『逆転』………間に合った」




