第15話
さっきの威圧以来少し距離を置かれている俺。
何もそこまで怖がらなくてもいいだろう。
「安心しろ。俺に敵対意思は無い」
しばらく警戒心を解いてくれなかったので一応言ってみる。
「……本当か?」
「ああ、だからそんなに警戒すんな。背中がチクチクする」
「一応殺気のつもりなんだが……まあいい。お前が殺ろうと思えばいつでもやれるのはわかった。それでもしてこないという事は本当なんだろう」
毎回こんなだといちいち疲れる。
今度から少し自重しよう。
「そんじゃ行こーぜ。日が暮れちまう」
「はーい」
ウルクだけが元気に返事した。
「えぇ!? 平気なのですか? 姫」
レトが不思議そうに聞いた。
俺にもうバレてしまったので喋り方が普段通りに戻っている。
「何が?」
「コイツにはこれっぽっちも威圧をかけてないからな。女を脅す趣味は無い」
威圧は対象を指定できる。
さっきはウルクを対象から除外していたのだ。
「それは良かった。あんなのは王族に向けて放つようなものじゃ無いからね」
今の発言に少し引っかかるものがあった。
俺は王族だから容赦したわけではない。
「あ? 何言ってんだ? 王族は関係ねーよ。男だったら王子だろうが王だろうが全く容赦する気はねーし」
「………」
あ、まずい。これはやばい奴を見る目だ。
「いいじゃねーか。お前らに何かするわけじゃねーんだぜ?」
投げやり気味に流した。
「ちなみに後どのくらいで街に着くんだ?」
「後1時間だ」
結構近いところまで来ていた。
「えー、ケンくんともうちょっとだけ一緒がいいー」
何を言ってんだコイツは。
「姫さま、駄々をこねないでください。ケンも困ってます。だよな、ケン」
バルドは下手くそなウインクで何かを訴えている。
つーかこいつウインク下手くそすぎンだろ。両目閉じちゃってるよ。
これ以上俺に迷惑をかけたくないのだろう。
義理堅い性格だ。
俺も少し手助けしてやりたい。
「いや、構わねーよ。ただなウルク、もうちょいコイツらの事を慮れ」
この様子を見てわかる。
振り回されているな、と。
俺も琴葉としょっちゅう一緒だからよーくわかる。
「はーい」
グッと親指を立てる2人。
「で、どこまで一緒に居ればいいんだ?」
「宿は一緒がいいなー」
「金がねぇから高ェとこは無理だぞ」
仮にも王族だ。
今の所持金でそんなとこに泊まったらたちまち文無しになっちまう。
「それなら心配ない。あの街にそんな高級な宿は無いらしい」
「ならいい」
そこから1時間俺たちは喋りながら街へ向かった。
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「ここか」
たどり着いた街はなかなか広い街だった。
城下町程ではないが、それなりに栄えていると言えるだろう。
「着いたな。ここがラクルの街だ」
城下町同様ヨーロッパ風の街並みだ。
レンガ造りの家が主で水車や風車も見られる。
城下町との大きな違いはない。
広さくらいだ。
「まず宿に行こうか。ここからは冒険者を装う。姫、くれぐれも、頼みますよ」
「わかってるってー」
わかってないな。
「早く行こーよ」
ウルクはずんずん進んで行った。
俺はとりあえずそれについて行く。
近くに王都があるということもあり、この街は国内でも人口や文化が発展している方だ。
門をくぐると人の多さを実感する。
そしてその次に目立つのは亜人の奴隷だ。
「広い街だな。奴隷もこれほどいるとは」
バルドは感心した様にそう言う。
だが俺は奴隷というシステムにまだ受け入れられないものがあり、やはり胸糞悪さはある。
「………」
「ケンは奴隷反対派か?」
「見ていて気分の良いものじゃあねーな。制度としちゃしっかりしてるがやっぱりヒトがヒトを使役すんのは胸糞悪りぃ」
奴隷は俺の嫌いな理不尽の極みみたいなものだ。
悪人を奴隷にするなら全然構わないが罪もない者を鎖に繋げるのは本当に反吐がでる。
「亜人でもか」
「それが魔族でもだ」
人間の国にとって最上は人間である。
亜人や魔族は敵対する国の住民であり人間より下の存在だ。
人間…が治めるさまざまな国がそう教えている。
だからこの国では俺の様な者は変わった奴だと言われる。
「俺は自由平等、戦争反対、平和主義の民主主義国家の国から生まれたからな。奴隷なんざ見たこともなかった」
「そんな国があるのか」
「とんでもなく遠い、東の果てのちっちゃな島国だ」
そういうことにしておこう。
「私も奴隷制は嫌いだなー。みんなと遊びたいのに奴隷だからダメっていうんだよ」
「王族でそれは珍しいんじゃないか?」
「みたいだねー。でもあんな感じになるなら変な方がずっといいよ」
「だな。いいねお前、好感持てるぜ。少なくとも奴隷賛成派よりは」
他2人の表情が曇った。
これが普通の反応だろう。
「宿屋ってここか?」
「ああ」
なるほど。
確かにそこまで高級ではなさそうだ。
「じゃあ俺は自分が泊まる部屋とって来る。その後俺は街を見て回るから集まるにしても後にしよーぜ」
「了解」
俺たちはここで一旦別れた。
俺は部屋をとった後街の観光をしに外へ出かけた。
「さーて、この街はどんなもんかな」
しかし、この後俺は観光どころではなくなるのだった。
それは唐突に起きた。
俺は今地図を探しに大通りをうろうろしている。
「地図を探すか。道具屋道具屋……」
「奴隷風情が! 調子にのるな!」
怒鳴り声と共に大きな音が聞こえる。
何かを壊している音だ。
「何だ?」
俺は気になって騒ぎの元へ向かった。
聞こえたのは裏路地の方だった。
「このッ! このッ!」
「うぅっ……」
女の奴隷が酒瓶で殴られていた。
庇う様に何かに覆い被さっている
「主様、どうかお許しを……」
女奴隷は必死に許しを請いている
「うるさい黙れ!」
それでもやめる気は無いらしい。
女はひたすらに許しを請いながら殴られ続けている。
「奴隷同士で馴れ合うなと何度言えばわかるんだ! お前らは俺の道具なんだから逆らうんじゃない!」
男は思いっきり手を振り上げる。
それでも女奴隷は庇うのをやめない。
「安心し、て、あな、た達は、悪くない、わ」
庇っているのは子供の亜人。
もちろん奴隷だ。
「どけ! そこのガキは半殺しにする。俺の服を汚した罪は大きいぞ!」
引く気は無い。
「どうか……ご容赦、ください……」
その一言で男の怒りがピークに達した。
「そうか……だったら死———」
「———ぬのはテメェだ」
俺は男の頭を掴んで壁に減り込ませた。
ミシミシと音を立てながら壁を突き抜ける。
「ホント胸糞悪りぃな。オラ、起きてんだろ」
壁から体を引っこ抜いて顔をこちらに向ける。
思った通りまだ意識はある様だ。
「何してんだ?」
「き、きひゃま、おえに、こっこんあ事して」
「質問に答えろ。殺すぞ」
思いっきり睨んだら急に大人しくなった。
どっかの金持ちのボンボンみたいなものだろう。
そしてそのまま訳を話し始めた。
「こにょガキが、おえの服にどおをふけやはっはんが。そのおんあはそえをかぶぁったからおえがひょういふひへやった、ぶ!!」
もいっかい壁に減り込ませたら今度こそ気を失った。
「くだらねーことで殴りやがって。クズが」
同時に女奴隷も、糸の切れた人形の様に倒れた。
「おい! 大丈夫か!」
俺は奴隷達の状態を見た。
亜人奴隷は無傷だ。
だが女奴隷はかなり危ない。
何より傷が多い。
俺は亜人奴隷を横にやって女奴隷の治療を始めようとした。
「しっかりしろ。今回復魔法を———」
俺は女奴隷を仰向けにさせた。
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「魔族見つかりませんね、姫。どうします?」
同時刻にウルク達は目的の魔族の捜索を行っていたが、手がかり一つ見つけられていなかった。
「そうだねー、ていうかどんな魔族だったっけ?」
「聞いてなかったのですか? また王に叱られますよ。人の話はちゃんと聞けって」
するとウルクは心底嫌な顔して、
「それはやだなー。父様面倒くさいもん。で、何だったっけ?」
結局聞くつもりだ。
バルドは仕方ないと言って教えた。
「仕方ないからもう一度言いますよ。今度は忘れないでくださいね」
「はーい」
返事だけは一丁前だ。
「まず外見は15、6でツノが生えており白髪の少女。そして———奴隷」
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仰向けになった少女に俺はこう聞いた。
「お前、魔族か?」
少女は気を失っており返事はなかった。
だが頭のツノと鋭い八重歯は間違いなく魔族のものだった。