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第1527話



 「だからとりあえずは、彼女らにはこの街で下積みを—————————」




 そう語るのは、このボルゾドの兵長。

 この街の事実上の長であるメデューサが、リンフィア達のへの協力もとい、国との戦いを宣言したため、急遽会議が設けられた。



 戦い好きな彼らだが、そうそう話し合いは進まない。


 それもそうだろう。

 これは国家転覆だ。


 現王権の打倒を、このスタート地点から始める。

 多勢に無勢なんてものじゃない。

 敵は帝国。

 こちらは街。


 戦力差は明らかだ。



 問題はそれだけに止まらない。

 まぁこれは、ただのマイナス要素というわけでもないが、とにかく時間がないという点だ。


 リンフィア達が仲間にした元敵幹部、シルエットから得た重要情報の一つ。

 首魁、エビルモナークの現状だ。

 現在、理由は不明ではあるが、エビルモナークは戦闘不能という情報が入っていた。

 妙な容器に入って、眠っているとシルエットは言った。


 詳細については、敵のごく一部しか知らない。




 これは好機だが、同時にリミットだ。

 確実に敵を倒すチャンスがあるのは、敵特異点が眠っている今だけ。


 故に、短期間で戦力を整えつつ、敵幹部のうち可能な者を寝返らせ、残りの主力を叩く。

 

 シンプルだが、これが目下の方針となった。

 しかし、



 

 「でも、精鋭でもない魔族を戦力に加えるくらいなら、俺が鍛えたほうが………」


 「いいや、戦争では頭数というのは思いの外役に—————————」





 そこから先で、意見が割れていた。

 それもそうだ。

 彼らは軍ではない。


 作戦参謀もいなければ、そもそも戦争の経験などない。

 まともな策がそう思い浮かぶはずもなかった。


 だが、1番の問題は—————————




 「信頼できるのか? 先代魔王は確か………」


 「よせ、長に聞かれた奴がどうなったか、貴様も知らぬわけではあるまい」




 不穏な視線と心無い声が飛び交っている。

 先代魔王。

 それが意味するものは、この国では小さくない。


 さて、そんな噂話の渦中である当人はというと、




 「どうしたんですか? ニョロちゃん」




 この通りケロッとしていた。




 「いえいえ、後で処刑を………というのは置いといて、まぁ現状このザマです。弱りましたね。ただ戦うだけなら、アタシらもプロには負けませんが、こう言った陣取りは苦手で」




 そう言いながら、会議の傍でメドューサは地図を広げながらそう言っていた。

 参加しなくていいの?と一瞬思うリンフィアだったが、吹き飛び出した椅子やテーブルを見て即座に諦めた。




 「見て下さい。現状、これがアタシら反乱軍の勢力図です」




 そう言われて、リンフィアとついてきていた琴葉は地図を覗き込んだ。

 広い地図の中、黒で埋め尽くされた中にポツンと立つ青い点を見て一言、




 「「シミ?」」


 「味方ですよ!!」




 しかしそう言われても仕方ないほどの小さな勢力。

 今から国と戦うにしてはあまりにも心許なかった。




 「ですから、今からこのシミをいかに大きくできるかにかかっているんですよ」


 「認めましたね」


 「認めたね」



 「そこ、私語は慎みなさい」




 コホン、と一つ咳払い。

 メデューサは黙って地図に印を書き足していった。


 主に中心である帝都から離れた数カ所。

 線で囲まれた小さなエリアを見て、リンフィアはハッとした。




 「ニョロちゃん、そこは………」


 「ええ、()()()です」


 「………外周区です」



 刺すようなその一言に、メデューサは肩をすくめながら訂正した。



 「おっと、外周区でした。失礼、出身地なもので」




 外周区。

 別名、醜外区と呼ばれる地区に、メデューサは線を引いていた。


 魔族の中にも、当然美醜は存在する。

 その感覚は人のそれに近い。

 そして、差別もまた存在する。



 この外周区は、ヒトの姿に近い種や、人外であっても整った姿をした竜人や鬼人、アラクネやメデューサのような種以外の、一般的に醜いと迫害された者達が集まってできた地区である。




 「幸というべきか、敵も彼らまで仲間に入れようとしてはいなかったようです。おかげで大体の地区は手付かずで、仲間の引き入れる余地はあるでしょう。というわけで、あなたの出番です」


 「私に、彼らを味方に引き入れろと?」


 「そういうことです。他はともかく、蛇から蛇人、そこからメデューサになったアタシはどうも歓迎されないみたいでしてね」




 メデューサは軽く口を言うようにそう言った。

 だが、リンフィアは知っている。


 はみ出し者の中でも迫害されてきた彼女がどんな扱いを受けてきたのか。

 その上でこれを提案するのにどれだけの葛藤があったのだろうか。



 しかし、そうそう簡単な問題でもない。

 外周区の魔族達が心を開かないのは、何もメデューサに対してだけではないのだ。

 世の中に対して募った不審というものは、余程のことが無ければ消えない。


 難しい問題だと眉を顰めていると、




 「ねぇねぇ、こんだけ仲間になったら私もなんか凄い役職もらえるのかな? 大将軍とか、大団長とか! “薙ぎ払え”とか出来るかな!?」




 琴葉のその脊髄から吐き出されたような言葉を聞いて、リンフィアはつい吹き出した。

 考えたところで馬鹿馬鹿しい。


 過去は消えないのだから、行ってみるしかないのだ。




 「そうですね。薙ぎ払えるように、仲間にしましょうか」


 「うん! そんで、みんなで行くの?」



 「いや6人で行ってこい」




 固まる二人。

 聞き間違いかと思って顔を見るが、メデューサはニッコリしていた。




 「ウチは圧倒的に組織としての骨組みが弱い。ゴロツキを軍に作り変えるというのは、なかなかに骨が折れる。カリスマというのは、こういう時にこそ欲しいものだが、現時点では………な?」


 

 淡々と話を進める。

 気がつくと、すでに号令はかかっていた。



 「そういうわけだコトハ。リンフィア様を連れて6人で行ってこい。形だけでも軍にしないと話にならんからな」


 「6人で?」



 琴葉がそう問うと、メデューサはニッコリと頷く。

 いやいやと再び問いかける。



 「街を?」



 やはり頷く。

 ダメ元でもう一度。



 「みんな仲間に?」


 「行ってこい。じゃあ、頑張ってください()()()()()。まずは一兵卒から始めましょう」




 そう言って立ち上がったメデューサは、暴れている部下達を沈め始めた。

 ドタバタとうるさい会議室(小戦場)の中、リンフィアと琴葉は見つめあった。


 そして、同じことを思ったのだった。





 「「厳しくない?」」






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