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第1524話


 策はひとつ。

 あえて動かない。


 周囲を敵で埋め、中心で的になり続けること。

 蓮はその詳細も意味も聞いていない。

 しかし、妙な説得力に思わず頷いてしまった。


 ただ、かなり危険だ。


 周囲には、遠距離攻撃をしてくる敵も多数いる。

 敵としても好都合だろう。

 

 が、




 「?」




 不思議と敵は前衛ばかり。

 遠距離で潰せばいいだろうにと、わざわざ寄ってくる敵に蓮が首を傾げていると、




 「もう遠距離は来ませんよ。ついさっきまでの戦闘であらかた潰しました。潜り込むのは得意ですので」


 「おお、やるね」


 「ただ、前衛相手では流石に一気に潰しきれなくて、追い込まれてしまいましたよ。それに、見て下さい」



 と、ランフィールが何を指してそう言っているのかは、一目見ればわかる。

 数名、固まっている魔族の中に明らかに様子がおかしい者がいた。



 「あれは………」



 知性を放り捨て、その代償に禍々しいほどの力を握っている。

 一見すれば自爆に等しい不等価交換。


 だが、不思議と隙がない。


 ここチグハグな状況に、蓮は思い当たる節があった。



 「何かしらの方法で、無理やり限界以上の力を引き出されてる………のか?」


 「ええ。余も同意見です。それに、技能もそのまま。まともな代償ではないでしょう」




 目を見合わせる。

 そしてお互い頷いた。


 シャクだと思いつつも、意見は合致していた。




 「「問題はない」」




 半狂乱の魔族を戦闘に、再び攻勢へ出る魔族たち。

 それに対する蓮たちの作戦は一つ。


 邪魔をしない。




 それだけでよかった。





 「「「!?」」」



 飛びかかった筈の魔族達が一斉に倒れ、背後に控えていた他の兵の表情に驚愕が窺える。

 何が起きたという疑問に足を絡め取られそうになるが、もはや勢いは止まらない。


 見極めるためにも魔族達は再び飛びかかった。



 彼らは、ひたすらにランフィールを警戒していた。

 元とはいえ、魔族の王。

 力を全てとする種の長。


 実際、目の前で見せられたその力を、正直に認めていた。


 故に隠れていた。

 1匹の人間、人間風情が隠し持った意外な懐刀に。


 死角に外れた場所から唐突に放たれた鋭い殺気に気がつくその一瞬、油断していた魔族の身体に、亀裂が入る。

 太刀筋を思い出す頃には既に痛みが線をなぞっていた。



 そして、痛みと共に理解する。

 この人間は、危険だと。




 「「ッ!!」」


 「む」




 致命傷ではない。

 なんとか踏みとどまった魔族達は、再び攻撃に転じた。

 以前までの蓮であれば、押し切られていたであろうの攻撃の雨。


 手に伝わる衝撃に、蓮は歯を食いしばった。

 だが、




 (これが、この前と同じ魔族の兵だって?)




 たった数日。

 にもかかわらず、既に力が以前よりもはるかに強まっていた。


 これが、ヴェルデウスの秘宝の力。

 この実感だけでも、希望が見出せる。


 だが、今だに攻勢に転じきれずにいた。

 



 「くっ………」




 流石に多勢に無勢。

 兵士に1人1人を凌駕しようとも、複数人でかかってこられれば防戦一方にもなる。


 それでも、負ける気はしなかった。

 それは、ほんの僅かに横を向くと見れるランフィールの目が、よく知っている目だったから。


 彼は、一番頼りになる友人と同じ目をしていた。



 ここまで来れば、蓮もこの作戦の意味を理解していた。

 ランフィールはずっと見ていたのだ。

 敵の種族、癖、連携、能力等。


 あの見透かすような目が、それを語っていた。

 であれば、もう安心だった。


 終わったと言わんばかりに、ランフィールの雰囲気が変わり、武器を持ち替えた。




 「レン殿。時間稼ぎ感謝します。お陰で、大体読みきれました」


 「そうかい。だったら、サクッと倒せそうかな?」


 「ええ。そこで見ていて下さい。あとは何とかしますから」




 翼を広げるランフィール。

 明らかに、目の前の魔族達が反応を示した。


 何か、怯えている。




 「魔族とは、この世界で最も奥の種を持つ存在。当然中には相性がある。だから魔族の兵は、シンボルとなる将も含め、全身を鎧で包む。その種を知られないように」




 大きく広げた羽根から、超音波が放たれる。

 数名の魔族が、わかりやすく地面に突っ伏した瞬間、魔力を込めて飛ばした斬撃が、その魔族の鎧を裂いた。


 割れる面の下から出てきた大きな耳を持つ獣の様な姿のそれは、まさしくコボルトであった。




 「相変わらず、耳のいい種だ。その強みは強化された聴覚によって聞こえる、敵の心音から得る情報を用いた戦闘。だから音に壊される。では、あなた方は?」




 問いかけは、上空から迫るもう二人の魔族へ。

 いつの間にか羽が消え、身体には氷が纏っていた。




 「っ!?」


 


 再び見える怯え。

 しかし時すでに遅く、石像の様に固まったその魔族は、自由落下と共に地面に叩きつけられた。


 戯れにランフィールが切りつけた面の下からのぞくのは、氷結したスライムの顔。



 液体の身体を持つが故に、一瞬で氷結した。




 「両者ともに一流の戦士。弱点の策くらい得ているでしょう。しかし、それらはある程度の質や量で結局は抑え込める。そして余はそれを用意できる」




 ランフィールには見えていた。

 蓮には見えない彼らの仮面の下の素顔が。

 その弱点が。





 「観察する時間を与えた時点であなた方の負けですよ。余の二つ名をお忘れですか?」


 「忘れるわけがないでしょう………………国に逆らう魔族の軍勢を、たった1人で壊滅させられる魔族殺しの魔王………壊王ランフィール!!」


 「まぁ、王は辞めるので元ですが。というわけで、おやすみ」









 —————————もはや戦闘にもならなかった。


 敵の弱点を全て把握したランフィールは、何の苦戦もなく敵を薙ぎ倒していった。

 だが、弱点を知るだけではないと、蓮はその太刀筋を見て思い知った。


 認めざるを得ない。

 まだまだ、力が足りないのだと。



 しかし、今は素直に喜ぶべきだと笑った。


 たった今切り伏せた魔族をもって、ボルゾドの防衛は完了したのだった。

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