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第1521話


 かつて、魔王だったリンフィアには、忠臣と呼べる者はそう多くなかった。

 偉大な王であったリンフィアの父、先代魔王の跡取りとして、リンフィアは十分な力を持っていなかったからだ。


 加えて、弟であるランフィールもまた優秀な魔族だったが故に、弱き王出会ったリンフィアは、民からの不満を、臣からの不評を買っていた。



 しかし、そんな彼女にも味方はいた。

 ニールをはじめとして、その師であるヴェルデウスやその部下は、彼女を王として陰ながら支えていた。


 そして、ここにいるメデューサもまた、リンフィアの数少ない味方の1人。






 というか、ペットの蛇だった。





 「いやぁ、ミミズみたいにちっちゃかったニョロちゃんがこんな立派なメデューサになってたなんて。私感動です」


 「っくぅぅ………アタシの恥ずかしい過去をバラさないで下さいよ、リンフィア様………」


 「あ、そういえば子蛇時代のこと知られるの恥ずかしいんでしたっけ、メデューサって」




 あはは、と軽く笑うリンフィア。

 くわっと目を見開きながら、メデューサはリンフィアに詰め寄りながら器用に敵の攻撃を躱していた。


 リンフィアの目つきが僅かに変わるが、会話は続く。



 「そりゃそうですよ!! あの頃アタシらは服も着ずに外を這い回ってたんですから! 思い出したくも、ないッ!!」



 会話をしつつ、平然と放たれる攻撃が、いとも簡単に敵兵を沈める。

 “むず” と。


 リンフィアの中で、妙な反抗心が芽生える。

 



 「うーん、なんべん聞いても価値観が不思議だなぁ」




 他種族特有の価値観に首を傾げながらも、懐かしさに笑みを見せ—————————




 「おっ、と」



 横からの一撃を避ける。

 ギョロリ、と。

 リンフィアの目は動きと、その“数手先の未来”を捉えた。


 その洞察とほぼ同時に背後に回り込み、魔力をこめるまで瞬きの一瞬、敵がギョッとした頃には、魔力弾数発を打ち込んでいた。



 そして、敵が倒れる前には、その目は再びメデューサへと向いていた。

 その意図に、メデューサもニヤリと笑みを浮かべていた。




 「アタシの記憶が正しけりゃァ、あなたはそこまで好戦的はなかった気がするですがね」


 「戦い自体が楽しいわけじゃないです」



 そう、そこは変わらないと、リンフィアは再度確信する。

 しかし、



 「でも、力を示した先のことを考えて楽しくなるって思ったら、結局はそうなんですかね?」



 今自然と浮かべている笑みは、間違いなく戦いがもたらしてくれるもの。

 これもまた、確信だった。




 「あっはっは。戦いを手段として見ますか。欲望のために回りくどいことをする。やっぱり、あなたは魔族らしくない。()()()と同じでね」


 「お互い、肩身の狭い血ですから」




 メデューサは、小さく肩をすくめた。

 そう、彼女もまた混血。


 メデューサは、頭部に魔族としての形質が強く生まれ、首より下からは人の特徴がでる半魔族。

 つまり、混血のみが存在する種族だ。




 「それで、リンフィア様たちは何しに来たんで?」


 「それは………」


 「もちろん、ボスの座を貰うためです!」




 はい、と手を上げて元気よく琴葉はそう言った。

 わざわざ被せてまで堂々と、そう言ったのだ。




 「………決めたってことかい」


 「はい。私が王にするのは、やっぱりリンフィアちゃんです。だから、成り上がって街の人たちに認めてもらうためのデビュー戦をここで飾ろうと思ってたけど、ボスってば結構倒しちゃってるから、困ってるんですよ」


 「あっはっは。そいつは悪いねェ。」


 「だから—————————」





 固まる。

 しかしそれは、言葉のみ。

 内容はともかく、穏やかな会話から一転、凄まじい緊張が走り、琴葉が反射的に武器を構えていた。

 敵意などない。


 これは、言うなれば防御反応。

 目の前の脅威から、自身を守ろうとしたのだ。




 「序列6位。ニンゲンにしては立派さ。だが、アタシから見れば、アンタは子蛇のようなもんさ」


 「っ………けど、子蛇でも牙はあるし、噛みつきもしますよ」


 「そう、だからアンタはここまでこれた。そうだね………じゃあ一つ、アンタとリンフィア様に大チャンスをやろうか」




 そう言って、メデューサは周囲を一瞥する。

 敵が蛇に睨まれたカエルのように、動けずに固まっていた。




 「今から、この兵士どもをどちらが多く倒せるかで競うのさ。アタシは1人だが、そっちは2人がかりでも構わないよ」


 「「!」」



 侮られているとは、不思議と思えなかった。

 あくまでも冷静に考えてそれを口にしているとわかる自信のようなものを感じたからだろう。


 しかし、それはそうと腹は立つ。



 リンフィアも琴葉も、黙って武器を構えた。




 「いいねぇ。無駄口がないのは好きだよ。それじゃあ、一つ学んでもらいましょうか、リンフィア様」


 「?」


 「一応、あなたのことは前もって聞いていたんでね。色々と見させてもらいました。その上で、あなたが魔族の王として不足しているものを一つ示しますよ。では—————————」




 突如振り撒かれた殺気に呼応するように、リンフィアたちは武器を構えた。

 そして、




 「始めだ」




 3人は、一斉に飛びかかった。


 そのはずだった。





 「「!?」」




 飛び出した3つのうちの一つ。

 明らかに飛び抜けたそれが、群れへと呼び込むと、その刹那、散らされた木の葉のように、兵士が吹き飛んでいった。


 それも、一人一人に動けなくなるほどの一撃を、丁寧に与えて。



 その光景は、どことなく異世界人を………否、ケン達特異点を彷彿とさせた。





 (まさか、ここまで—————————)





 「人間の王ならいざ知らず」


 「!」



 「魔族の王に求められるのは、ただただ強さです。政治も、名誉も、公正さも、財力も、清廉さも、誠実さも、あったらいいものであって、必要なものじゃない。我ら魔族が求めるのはただ1つ強さ。これに全てが優先される。これさえあれば、誰もが付き従い、ひれ伏す」




 鼓動がやけにうるさかった。

 それは、高揚だった。


 リンフィアの性格も、人格も、戦いを好んではいない。

 しかし、血は叫んでいた。


 あれこそが、王であると。

 だから、




 「リンフィア様—————————」




 何かを言う前に、メデューサが大きく目を見開いた。

 すぐ隣、敵の群れが吹き飛び、黒い怪物と怪物を宿す人間が拳を握って構えていた。


 続きは後だと、メデューサは笑った。

 そうでなくては、と。

 メデューサはたからかに笑い—————————




 「では、しっかりと思い知ってください。あなたがこれから歩む道のりの長さを」




 冷徹に戦いを、蹂躙を再開した。

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