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第1514話


 「こ、交渉?」



 と、尋ねながらも、シルエットの目はゲーム機の方へと泳いでいた。

 意識はもはや会話から離れつつある。


 しかし、リンフィアはほくそ笑む。




 「はい。条件次第では、これと“そふと”?っていうのもあげちゃいます」


 「なっ、なんだと!? いやしかし………はっ、そうか………知恵の神の………」


 「シルエット様!? 一体何を………」




 これがいい流れではないと、流石の兵士達も気がついた。

 だが、今ゲーム機に手を伸ばすのは悪手であり、そして同時にリンフィアにとって好都合だった。


 これまでに無いような顔を見せたシルエットは、血走った目で兵士を睨みつけ、殺気を撒き散らした。




 「消えていろ」



 は?と。

 そのたった一つ、意味のないひらがな一文字を口にする間もなく、影は蠢く。

 


 「!」


 「「「っ!?」」」




 地面から感じた妙な気配を察知し、リンフィアは即座に空中へと避難した。


 それも超速度、今の全力の反応でやっと逃げられたようなもの。

 兵士たちは、黒で埋め尽くされた床から這い出る黒い塊に引き摺り込まれていった。



 まるで蟻地獄。

 危機感を感じつつも、追撃をしてこないシルエットを見て確信した。


 彼はきっと、




 「貴方、エビルモナークの目的に興味ないでしょ?」


 「ない」




 即答であった。

 彼にはおよそ忠誠心や信頼というものを魔族に対して持っていない。

 そしてこの作戦………おそらくは命令や指示に対しても、とリンフィアは踏んでいた。

 まさかこうも簡単にそれがわかるとは当人も思っていなかったようで、目を丸くしていた。




 「あいつ、楽な生活、俺に約束した。全てが終わったのち、何もせず寝て過ごせる場所と環境くれる。そう言った」


 「………疲れてたんですね」


 「………………もう、どうでも良かった。この世界、俺には過酷。日本、全てが快適だった。だからせめて、あの頃に近い空間、欲しかった」


 「帰りたかったんですか?」


 「ああ」




 とても、あの強者の兵士たちを一瞬で消し去った力を持つ者とは思えないほど、その顔は疲れ果てていた。

 これはきっと、“その頃”のシルエットだったのだろうと、リンフィアは少し同情する。


 充実している異世界人がいると同時に、やはり帰りたいと思う者もいるのだと。




 「なぜ、俺にこれ、渡した。なぜ、これが俺に効くと思った?」


 「貴方が魔族だからですよ」


 「………何を言ってる?」


 「これでも私は王様だったんです。魔族の特性である強い欲がどんなものなのか、その人を見ればある程度わかります。あなたが欲しいのは、ぐーたら出来る場所と環境。そして、それが用意できるヒト」




 再びアイテムボックスを取り出すリンフィア。

 やはりシルエットに警戒はない。

 むしろ、どこか何かを期待しているように、目を輝かせていた。




 「今となっては昔のことなんですけど、私が王様だった頃やりたかったのは、棲み分けです。魔族が己の欲を満たせる場所を作って、そこに住んでもらう。そういう政策をしたかったんです。これもまぁ、似たようなものです」




 ふかふかのベッド、お菓子の山、移動型のエアコンに、テレビにゲーム。

 次から次に出てくるのは、ケンからもらった異世界の便利品。


 それらを携えて、リンフィアは手を差し出した。

 



 「全て私が用意しましょう。シルエットさん。裏切る準備はできてますか?」









——————————————————————————











 もはや、苦労はなかった。

 再びゲートを開いた先から出てきたのは、先ほどまで己の上官だったのだから、魔族らはさぞ驚いただろう。


 だが驚いたのは彼らだけではなかった。


 近くで見ていたフィリアも、駆けつけてきていたランフィールも唖然としていた。



 ランフィールは、たった1人で戦場の魔族を全てゲートへと追いやり、1人も殺すことなくこの場を収めてしまったのだ。




 「これでいいか?」


 「お疲れ様です。はい、“ぽてち”です」


 「おぉ………!! うすしお………!! お前、わかってる………………」




 完璧に餌付けを済ませたリンフィアは、隠れていたフィリアのところまで、すぐさま駆け寄った。

 異様な光景だった。

 当のフィリアは、やはりまだこの状況を受け入れきれないで立ち尽くしていた。




 「終わりましたよ、フィリアちゃん」


 「リンフィア、その人………」


 「大丈夫。味方です、確実に。それに、()()()()()()()()()()



 「!」




 黙るしかなかった。

 素人目で見ても貴重な戦力。

 それでも拒絶する理由を、先に消されてしまった。


 そして同時に、ホッとした。


 アジトで失ったと思っていた仲間も、他の者も、まだ無事だということだ。




 「そう言われれしまえば、何も言えないでしょう」


 「ダメです!」


 「!?」




 と、リンフィアはフィリアの頬を引っ張ってそう叫ぶと、




 「こちとら人手不足なんですから、ちゃんと働いて貰いますよ。これから先、フィリアちゃんも頑張らなきゃなんですから。仲間の意見はしっかり聞かせてもらいます」


 「!………ふふふ、そうですわね。失言でした」




 フィリアの笑顔に、リンフィアも笑顔で返した。


 こんな状況でも笑顔ができるくらいの頼もしさがそこにあった。

 ああ、同じだ、と。

 皆を引っ張っていたあの男と同じことをしているのだと、フィリアはそう思わされた。

 彼と彼女は、似た者同士惹かれあったのだ。


 だったら、希望はある。



 ヒジリケンがいなくとも、この戦い、まだまだ勝ち目はある。




 「じゃあ、帰りましょう。みんなのところに」




 考えなければ、と。

 フィリアは思考を張り巡らせた。


 自分にできることは何か。

 どうすれば役に立てるか。



 『焦らないで』


 (………ええ、わかっていますわ)



 そのためにも、芽生え始めた自分の固有スキル(ちから)の使い方を、知らなくてはならない。

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