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第1512話


 「!」




 気配の異変に、リンフィアは真っ先に気がついた。

 敵が移動を止め、影の周囲に止まる様になった。


 しかし、あくまで周囲。

 完全な位置の把握ができないよう、あえて気配を散らして守りを固めていた。




 「多分、向こうに気づいていることを気づかれました」


 「つまり………リンフィアが影を探してることに気づいたということでしょうか?」


 「はい。しかも、その上でじっくり私たちを潰そうとしてます」




 だが、まだ悲観するような状況ではない、と。

 あくまで冷静にリンフィアは答えた。


 リンフィアからすれば、影と接触出来さえすればそれでこの状況を変えるための条件が揃う。


 敵は大勢いるとはいえ、影を守り切る必要があるのだ。

 多勢に無勢ではあるが、勝利条件そのもの自分たちに利があると、リンフィアはそこに賭けている。



 ………とはいえ、いよいよリミットが近い。

 どれだけ冷静であろうとも、何かが追い立ててくるような感覚は、ずっと足に絡みついていた。

 

 


 「どうすれば………強行に出ますか………?」


 「いや、確証が欲しいですから、まだです」


 「待つのですか」


 「あはは、まさか。そんな暇ないですよ。だから、掴むんです」




 リンフィアは、アイテムボックスを開き、そこから大量の弾丸の入った箱を取り出した。

 ケンの作った、魔法弾ではない実弾。


 それを一体どうする気かと不思議そうに眺めるフィリアだったが、リンフィアはその弾丸にはまるで手をつけなかった。


 取り出したのは、箱の中にある火薬。

 それも、特殊調合された特別危険なものだった。




 「これ、特殊な物質で作った火薬だってケンくん言ってました。ミスリルみたいな魔法に適性のある物質が込められてるから、簡単な付与が可能なんです」


 「つまり?」


 「感知できないごく少量の魔力で付与をして、こうして小さな入れ物に入れると………ん、ほいっ!!」




 どの入れ物をいくつかに分け、リンフィアはそれを全て宙に放り投げた。

 少し強張った面持ちで大きく息を吐く。


 そして、フィリアに向かって微笑みかけた。




 「さて、どう動くか—————————」





 放り投げて数秒。

 放物線を描き、それらは飛んでいく。


 正体不明の飛来物。


 いくつかは敵の目にも止まる。

 またいくつかに敵は向かい、また別の数個は気づかれず飛んでいく。



 そして、そのうちの一つがまずなにかに触れ、衝撃を受けた、その瞬間、




 「!?」




 あらゆる場所から、爆撃音が聞こえた。

 驚いて振り返るフィリアだったが、リンフィアは耳を塞ぎ、目を閉じている。


 だが、これが単純に音を塞ぐためでないことは明らかだった。




 「リンフィ…………」




 声が、すり抜けた。

 聞いていない。

 いや、聞こえていないと言う方が正しいのかもしれない。


 息をすることも忘れ、何かに没頭をしている。

 あらゆる情報を遮断し、一つに集中している。


 その姿に、フィリアは畏れを抱いた。


 そこには隔絶があった。

 まるでここにいないような錯覚を覚えるほど、リンフィアの意識はどこかに行っていた。

 そして、ゆっくりと、意識が戻ってくると、




 「………うん、絞れた」


 「な、何が………?」


 「警戒心とか殺気、あと行動を見てたんです。そして数カ所、敵の中でも強い人が集まってる場所がありました」


 「!? 今それを感知していたんですか!?」


 「はい」




 感覚の鋭敏さは、魔族の特徴の一つ。

 種族的特徴に合わせ、どこか一つが特化して鋭くなる亜人と比べ、魔族というのは全ての感覚が平均的に高い。


 暗闇すら見通す目、煩雑な音を詳細に聞き分ける耳、元の位置すら嗅ぎ分ける鼻。

 肉体的特徴が人のそれより優れている魔族は、当然それを感じる感覚自体が優れている。


 それ故にできる芸当。

 あらゆる種族の中で最も優れた種と自負する彼らの誇りには、目に見える実態として存在していた。




 「よーし、次は………」




 ポン、と。

 フィリアの肩に手を置いてリンフィアはこう言った。




 「ちょっと待ってて下さい」


 「はい? ………って、ちょっと!? リンフィアっ………」




 止める間もなく、リンフィアは何処かへと飛んでいった。




 「何が何やら………」










——————————————————————————









 


 (………動きが急に止んだ)




 兵の被害が極端に減った。

 同時に、策を変えたことに気づかれたということにはシルエットは確信を持った。


 鋭いと感心しつつも、だがどこか不満げに眉を顰める。

 あまりにも、動きがなかったのだ。

 この状況で出来ることはあまりない。


 それでも、何かをすると言うのが少なくとも正解だった。



 逼迫した状況下で最も愚かな手は、慎重になり過ぎること、歩みを止めることだった。

 興醒めだと、シルエットは再び寝転がろうとした。


 すると、





 「………ん?………………何?」





 味方の反応がおかしいことに気がついた。

 炙り出しのために、戦いを扇動していた兵とは別の兵が、“大勢” 戦闘をしている。


 と言うより、ゲート周辺はほぼ全域で、だった。




 「………………盲点、だった」




 と、口に出す頃、シルエットは直立していた。


 考えればわかること。

 シルエットも町人を利用したのだ。

 敵も利用しないと言うことはない。


 つまり、今兵士たちが戦っているのは、




 「あの街の住民………戦いに飢えた魔族、利用した………面白い」




 当然、黙って見ているわけもなく、シルエットは次々に指示を出した。


 ひとまず、町民の制圧と、魔王リンフィアの捜索。

 比重を、捜索に偏らせ、指示を出す。





—————————






 それを察知したリンフィアは、シルエットが愚策と踏んだ行動に出た。

 息を潜め、その期を待った。


 ある意味、これは賭けだった。

 だが、ある程度確信もある。



 この待つ行為が、勝利につながると。





 「………ごめんなさい、街のみんな。でも、頑張って」


 「頑張ると言っても、皆さん嬉しそうでしたけれどね」

 



 歯を飛ばし、こぶをつくり、血を流していた街の住民は皆満足げだった。

 勝ったらなんでも言うことを聞くと言う単純な話に乗っかり、まんまとやられた町人だったが、流石は魔族と言うべきか、強者との戦いに満足していた。




 「勝ったらなんでも言うことを聞く代わりに、負けたらそっちが言うことを聞く………リンフィア、貴方もっと女性として自覚を持った方がよろしくってよ」


 「へへへ、ごめんなさい。これが一番手っ取り早かったもので。あ、これ戦ってた変なおじさんがくれた飴です。フィリアちゃんにあげます」


 「不良在庫を押し付けないでくださるかしら!?」




 勿体無いと言いながら終われた飴玉はもう食べられることはないだろうと思いながら、フィリアは話を変えた。




 「それで、扇動した彼らはゲートまで漕ぎつけそうですか?」


 「無理でしょうね」


 「は!?」


 「私が倒して言うことを聞いてもらってるのは、そこまで強い人たちじゃないですから」


 「だ、だったら、今味方がいるうちに戦った方がいいのでは!? だってつまり、まともに戦えるのは現状………っ!?」




 リンフィアはフィリアにまっすぐ指を指した。




 「それです。それなんですよ」


 「これだけ派手に暴れ回れば、意識が外れるかもしれない。そう思って、待ってたんです。そして案の定、敵に動きはありませんでした。来ますよ、最大のチャンスが。今から、ここに」










——————————————————————————









 戦力的にも、状況的にも、優位は覆らない。

 だが、数手前から後手に回ってしまっている点には、シルエットも警戒をしていた。


 読まれている。

 その上で、何かを仕掛けようとしている。


 ピンポイントで潰すのもありだろう。

 だが、わざわざリスクを負ってまで敵の手を潰すと言うのは愚策。



 ここまでくれば守りを固めればそれでいい。


 仮にゲートがバレたとしても、破壊は容易ではない。

 勝ち筋は見えていた。


 —————————ただし、何かが朧げに揺らいでいる。




 「俺、何かを—————————ぁ」




 強い衝撃が、脳に走ったような気がした。


 ほんの数分。

 意識を外してしまった敵がいる。

 ゲート周辺に意識をやったばかりに、見落としていた。


 遠く離れた場所にいるイレギュラーを殲滅しに向かっていた兵が、誰1人減っていなくなっていると言うことを。




 既に倒したと言う可能性も当然ある。

 だが、それにしては早すぎる。

 戦闘力から計算して、まだ時間がかかつ可能性の方がずっと高い


 つまり、その場から脱出したのだ。


 となれば、もはや取れるては一つしかない。





 「やってくれる………!!」





 ゲート周辺に、魔族達が集まり始めた。

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