表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1466/1486

第1510話


 「よっ、と」




 崩れ落ちる魔族を抱え、ゆっくりと着地するリンフィア。

 即座に気配を消し、街の闇に紛れる。


 フェアリアでは思うように気配の遮断も出来なかった事を思い返し、今の体の自由さを実感していた。




 「うん、順調ですね」


 「順調すぎるくらいですけれどね」




 フィリアの言葉にリンフィアは頷いた。

 そう、順調すぎる。

 これだけの手だれを相手に、確実に優位に立っている。


 激しい戦闘の後だというのに、リンフィアは難なく予定のルートを進んでいた。



 「道だけじゃなくて、敵の行動予測まで書いてますよこのメモ………というか魔法具」




 軽く魔力を流すと、紙切れから文字が浮かんできていた。

 そこには、紙にはとても乗り切れない量の文字が細かく刻まれていた。




 「どこかの誰かを思い出すような手際ですわ。出来のいい弟さんですのね」


 「そっかぁ………立派に成長したんだ、ランフィール」




 成長を見られないことを残念に思いながらも、リンフィアは確かに喜んでいた。


 しかし、それは一度頭の片隅に置き、再び現実に意識を戻した。

 切り替わったように鋭くなった眼は、袋小路のその奥へ。

 手元の魔法具を見比べ、拳を構えていた。




 「本当に、すごい………よッ!!」




 「!!」




 危機を察知し、慌てて壁から離れ、上空へ飛んだ青肌の魔族。

 見下ろし、体勢を整え、そして違和感を発見する。


 視認は心配、そして感知—————————それよりも早く、拳の触れる気配。




 “上だった”




 その思考と共に、男は地面に叩きつけられ、仲間諸共気を失った。

 悠々と、あえて隙を見せて歩くが、起き上がることはなかった。



 「瞬殺ですわね」

 


 メモを片手に物陰から顔を出すフィリア。

 まるで見て書いたかのようには敵の状況が予定どおりに書かれていた。

 


 「伏兵の位置に若干のズレはあったけど、概ね完璧です。このメモ、本当にすごい」


 「じゃあ………予定通りなら………」


 「はい、この場所ですね」



 フィリアが隠れていた物陰の奥、狭い路地を2人は進んで行った。

 突き当たり左にボロボロの扉があった。


 ここが、目的地だ。

 ここに何かがあると、2人は息を呑んだ。

 この絶望的な状況の中現れた唯一の希望に、期待を抱かずにはいられなかった。


 とりあえず、落ち着くために深呼吸、と。



 フィリアが大きく息を吸った瞬間。




 「たのもー!!!」


 「ゲホッ!?ごほふっ!?」




 リンフィアは勢いよく扉を開けて中に入った。

 しかし、誰もいなかった。




 「………誰もいませんね」


 「詫びなしですか。そうですか………………あら、これは………」




 不自然なほどポツンと設置された小さなテーブル。

 そのテーブルに組み込まれるような形で、受話器のようなものが置いてあった。




 「魔力の気配………魔法具ですね。おそらく通信系の………」


 「御機嫌よう」


 「すごいねフィリアちゃん、躊躇なしに出ちゃうんだ」




 さっきの怒りはなんだったのだろうというほどの堂々っぷり。

 次の瞬間にはリンフィアも耳を傾けていた。




 『当魔法具は録音機のため、使用者は聞き終えた後速やかに破壊してください』


 「「!」」




 聞こえてきたのは、ランフィールの声だった。




 『通信魔法であれば、傍受の可能性があるためこのような形を取らせてもらいました。今必要な全てをここで伝えておきます』




 やはり用意がいい。

 手際の良さには期待を、頼もしさを覚えた。

 不安はどこへやら、フィリアの話を聞き進める。

 



 『この街を支配するために必要なこと。………を説明する前に、なぜそうするのか、今後どうすればこの国を救えるのか、その根幹となる話をします』


 「「!!」」




 淡々と、録音は進む。

 心の準備など待つ間もなく、少し早口に、語られていった。




 『余らがやるべきは、元凶たる12人の異世界人の排除—————————では、ありません』


 「えっ………!?」


 『驚くやもしれませぬが、彼らの中で内部分裂が起きています。2名は既に脱出し………』




 ゼロとメルナだ、と。

 すぐさまリンフィアは思い立った。

 反逆者は2人だけではなかったのだと、希望を抱いた。


 が、弟の用意周到さはここでも目を光らせていた。




 『数名が疑念を持っていますが、離反によって彼らは弱体化ではなく、一層の力を得ました』


 「!?」


 『むしろ、彼らが積極的に止めていたことにも躊躇が消え、枷が外れてました。獣は首輪を失ったのです。お分かりでしょう、やるべき事はなんなのか』




 言われずとも、察しはついていた。

 わざわざこんな話を語った以上、2人はこの先の行動に察しがついている。


 問題点を解決しなおかつ、勝率を効率的に上げる手段………それは、




 「『クーデター、です』だね」




 言葉を重ねて、口に出して、胸にすとんと何かが綺麗に落ちてきた。

 ハマったようなこの感覚、これしかないと言う納得と理解だ。


 つまり、




 「国家転覆の足がかりとして、まずは敵の王の手にない地方の掌握………なるほど、侵略作戦ですね」


 「今はとにかく味方が欲しいところですわ。仮に一つの街といえど、そこから徐々に見方を広げれば………」


 「敵の中央にも手が届く」


 「ええ。そして、ナイトメアを倒して洗脳を解き、一気に戦差を逆転させられますわ」




 出来る出来ると、誤魔化す様に口にする。

 洗脳を解くために、自分に暗示をするこの状況を皮肉に思いながら、その思い込みを燃料に、2人は奮い立った。




 『まぁここまで言えばここで皆まで言う必要はないでしょう。それじゃあ本題………………この街の占領についてです』




 声色が変わった。

 重苦しく、どこか緊張感が漂っている。

 これはきっと、難題だ、と。

 2人は会話を止め、じっと耳を傾けた。





 『異世界人らが街に入れない以上、おそらく敵は魔族の送り込んで来るでしょう。であれば、我々の勝利条件は、ただ一つ。(シルエット)の攻略です。だから姉上』


 「うん………」




 録音だというのも忘れ、返事をする。

 そして待っていた指示は、




 「あとは、任せます」




 「………………え? ぅえええええええええ!??」





 なんと、丸投げだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ