第1509話
投稿が遅れてしまって本当に申し訳ありません。
再開します!
それが自分の手によるものなのか、フィリアには実感が湧かなかった。
しかし、間違いなく言えるのは、奇跡は起きたということ。
敵の一撃を受け止める銀髪の少年は、フィリアが見てもわかるほどの圧倒的強者。
戦況をひっくり返る逆転の切り札が、突然現れたのだ。
「ほ、本当に、ラン………フィール………なの?」
「他の誰に見えますか、姉上」
ランフィールは困ったように微笑みながら目線を落とし、ゆっくりと上へのあげていった。
そして振り返る頃には、その面には修羅が見えていた。
「貴殿らは、仮にも余の民です。王たるものとして、過ちに目を瞑る寛大さは見せてあげましょうぞ。しかし、」
「「「っ———————」」」
一振り—————————否。
一瞬で、受け止めていた剣に複数の斬撃を与え、魔族の持っていた剣を粉々に砕いた。
力の差に茫然自失となる丸ごしの男に、ランフィールはただ一言、指を差して、
「二度目はない」
倒れる魔族に向かうように、そう言った。
聞いてはいない。
男は既に、斬られていて、そのまま抜け殻のように倒れていった。
「ば、馬鹿な!?」
「死んではおりませぬ。もっとも、吸血族にも深い傷でしょうがな。疾く失せるとよろしいですよ」
「………っ、くっ………ここは分が悪い………撤退だ。下がれ!!」
敵の軍勢は、一目散に逃げ去って行った。
チラチラと背中を気にする彼らに、ランフィールは呆れたようにため息をついた。
「心配せずとも追わぬというのに………さて、再開早々ではありますが、姉上は先にこちらへ向かってください」
行ってこいと言わんばかりのメモを渡され、リンフィアは動揺した。
引き止めたい。
ずっと会いたかった、唯一の家族との再会なのだ。
しかし、それ以上に今リンフィアの頭の中のは大事なものが巡っていた。
今やりたいこと、そしてやるべきことが重なっていた。
「………ごめんね、ランフィール。今、私の仲間が戦ってるの。だから………」
俯いていたリンフィアは、恐る恐るランフィールの顔を伺った。
しかし、想像に反して、弟は笑っていた。
「ええ、それでこそ姉上です」
「え…...…」
「だからまずは、そこの彼女を連れてメモのところへ向かってください。」
「なっ、なんのために—————————」
「我らの国を、取り戻すために」
ドクン、と。
鼓動が、音を立てて強く脈打つ。
望みが、降ってきた。
—————————魔界は敵だと。
居場所を定め、覚悟を決めたリンフィアは、同族を、かつての民と戦うことに覚悟を決めていた。
代理戦争で国を滅ぼさないような選択を取ろうとも、不殺を貫ける状況ではないと覚悟をしていた。
だが、見えてしまった。
取り戻せる。
自分の居場所以外のものを、手に入れられる。
頭ではなく、血。
半身を占める、リンフィアの中の魔族が、望みに手を伸ばしていた。
「行って………どうしたらいい?」
「! ありがとうございます、姉上!」
「へへへ、いいよ」
浮き足だっているのがわかっていた。
ようやくの再会、ゆっくり話す暇も余裕もない。
でも早速、失った時間を埋められるような機会がやってきた。
仲間を救えて、弟も助けられる。
何より、この国を取り戻せる。
やる気を出す時は十分だった。
「けど、何をすれば、この国を取り戻せるの?」
「まぁまぁそう急かしなさるな。物事には段階というものがあります故。ひとまず我らがすべきことは一つ。この街を手に入れることにございます」
「勢力ってこと?」
「それもあります。けど、1番の目的は、この街そのもの。何故か、“終焉ノ十二”と呼ばれるこちらの異世界人が、この街には入れないのです」
「!」
影の能力は使われていた。
しかし、シルエット本人はこの街には来ていなかった。
否、来られなかったのだ。
「問題は山積みですが、少なくとも彼らが出張ってくることはない。この意味は大きいです。だからまず姉上は、この場所に向かいつつ、敵を撃退していって下さい」
「“倒せば”いいんだね」
「はい、それで構いませぬ」
わかった、と。
返事の代わりに、リンフィアは再び変身してみせた。
そして何も言わずに、フィリアを抱えて駆け抜けていった。
「い、いいのですか?」
「大丈夫。きっとまた会えるから」
そうフィリアに強がりながらも、見えなくなる前に、リンフィアは後ろを振り向いた。
ああ、生きている。
そうしみじみと、この幸福な現実をリンフィアは噛み締めていた。
「………本当に、父上そっくりですな」
そしてランフィールもまた、感慨深そうにそう呟いていた。
「おっと、物思いに耽っている場合ではありませんな。姉上にいいところを見せねば………」
ふと、目がついた。
そこにあったのは、髪留めだった。
目を凝らしてみると、銀髪が絡んでいた。
視線は、外れなかった。
ゆっくりと、こわばりながらランフィールは手を伸ばしていく。
手が震え、息が乱れ—————————
「………おっと、我慢我慢」
目を瞑り、そっと拾い上げた。
「………姉上は、あの異世界人どもにはやりませぬ。今度こそ、絶対に」




