第146話
これは、祭りの前に俺がラクレーを訪ねた時の話だ。
「お前、今日の祭り参加すんな」
「………?」
「いや、そのまんまの意味だ。祭りの本番に参加………ちょいちょおい! いきなり剣出すな! 店ぶっ壊す気か!」
ラクレーは物凄い仏頂面で剣を抜いた。
少しは聞く耳を持って欲しい。
「たまに壊してるからいい」
「そうか。たまに、って! 何言ってんのお前!? てんちょーよく我慢してんな!?」
「てんちょーの家はあたしの家。あたしの家は………特にないからこの家」
「独特なジャイアニズムを出してんじゃねぇよ!」
最近突っ込むことが多い気がする。
ヤンキーに突っ込ますな。
「理由を教えて」
「多分、この祭りは開催されない」
「?」
「ギルファルドあたりから聞いてないか? 魔族がなんか企んでるって」
「………おぉ!」
今思い出したらしい。
「俺の推測では祭りは潰される。それで代わりに向こうが用意したモンスターやら魔族が投入される」
「だったら尚更いっぱい戦えるから出たい」
「まぁ聞け」
推測通りバトルジャンキーだったか。
それは好都合。
だったらこの交渉は可能だ。
「とりあえず全部説明する。魔族の目的は多分町やら王都やらではなく、俺たち冒険者。つまり、人間サイドの戦力だ」
「………」
聞いてる………よな?
とりあえず続けよう。
「人間を滅ぼすなら真っ向から戦争するだろう。それがこのタイミング、この戦力が集まって向こうにとって厄介なタイミングで仕掛けてくるってことは目的は俺らだ」
「うん」
あっ、よかった!
聞いてた!
俺は続けた。
「そう簡単にはやられないだろうが、低ランクの冒険者達はぶっちゃけ死んじまう。だから、」
俺はこう言った。
「低ランクの冒険者を守って欲しい」
「? それなら参加すればいいだろう?」
「いや、お前はリストに載ってたから別の場所に転送される可能性が高い。俺ならそうする」
「転送?」
そうか。
言ってなかったな。
「この魔法具、 お前も貰ったよな」
「貰った」
ラクレーはポケットから点数集計の魔法具を出した。
「これには仕掛けがあって、タイミングがあったらどこかにワープされるようになってる。調べた感じだとSランク以上と未満は区別されて別の場所に飛ばされる仕組みになってんだ」
「だったら、みんなにバラしてこれをぶっ壊せばいい」
「いや、このままやってくれた方が被害が抑えられるからそれはしない。敵が別プランを用意していて無駄な犠牲が出るのだけは避けたい」
「………」
これで大体必要なことは全部言ったが、納得してない様子だ。
「そこで、お前に朗報だ」
「は?」
「お前は強いやつと戦いたいんだろ?」
「うん」
「多分今回の敵にお前を満足させる奴は出てこねー。だからな」
俺が何を言いたいのかわかったラクレーが先に答えた。
「お前が戦ってくれるのか?」
「ああ」
その瞬間、ラクレーは全身から吹き出すように圧を発した。
流石は三帝。
やはり今まで感じた中でも屈指の重圧だ。
しばらくすると、ラクレーは気を鎮めていった。
「………いいね。わかった。その話、乗ってあげる。ただし」
「ああ。満足させてやるよ。まぁ俺が勝つだろうが」
「そう言う事を言ってくれる敵が最近いなかったから嬉しい。わかった。ならこっちも本気で働く」
———————————————————————————
「………ン………レン………レン!」
「!」
蓮は飛び起きた。
「生きてる………のか?」
横を見るとフィリアがいた。
目をパチクリさせて蓮を見ている。
するとすぐに目に涙をためて蓮に飛びついた。
「レン〜〜!」
「っと。殿下………」
蓮は飛びついてきたフィリアの頭を優しく撫でた。
——————前にもこんな事あったなぁ。
この世界に来る前のぼやけた頭で思い出していた。
とある人物と、フィリアの姿が重なる。
そして、思わずこう呟いた。
「………本当に似てるな」
「え?」
蓮は自分が言ったことを思い出して首を大きく横に振った。
「あ、いえ、何でもありません」
そして徐々に頭が回るようになり、記憶がはっきりしてきた。
そうだ………俺は確か助けられて………!
「あっ! あの女の子は!? ここに………いたたた!!」
女の子と言う単語を聞いてムッとしたフィリアが蓮の頰をつねって横に伸ばした。
「私に抱きつかれてよく他の女の子の事を話せましたわね。レン?」
「いはいれふ、 へんは」
フィリアはパッと手を離した。
「いててて………訳は今からちゃんとお話します。実はあの後デュラハンが現れて………」
「デュラハン!?」
フィリアは驚愕した。
「デュラハン?」
美咲が頭にはてなを浮かべた。
それを見た綾瀬が簡単に説明した。
「確かデュラハンって、馬に乗った首のない騎士のことよ。強かったの?」
「控えめに言って、僕ら勇者が一対一で戦ったら瞬殺されるレベルだと思う。俺は剣があるからギリギリ生き残れたけど、腕一本奪って後はボコボコだよ。ほら」
蓮は上着をめくって傷を見せた。
「そ、それ………」
「この傷はかなりやばかった」
綾瀬と美咲は顔を青くした。
フィリアは顔を赤くしながらガン見していた。
筋金入りである。
「で、何でまだ生き残ってるの? 獅子島くん」
「そこだけ聞くとすごいセリフだね」
「あら、ごめんなさい」
「あはは、冗談だよ。さっき言った女の子が助けてくれたんだ。ものすごい強さだった。一瞬でデュラハンを倒して、そのあと回復ポーションをくれて、そのままどこかに行っちゃった。確か名前は………そう、ラクレーだ」
「ラクレー!?」
再びフィリアが驚きの声をあげた。
「如何されましたか? 殿下」
「その子多分………三帝の“剣天”、ですわ………」
「え、ええええええええええええ!!!!?」
蓮は珍しく驚きの声を上げた。
———————————————————————————
「仕事は面倒だったけど、あの子はいい拾い物だった」
ラクレーは蓮を少し観察していたのだ。
たまたま見かけた時、蓮は既に体力的な限界を迎えている様子だった。
すぐに助けようとした。
しかし、蓮の戦いを見て、少しだけ待とうと思ったのだ。
地力の差は圧倒的。
普通は戦っても10秒と持つまい。
だが、蓮は違った。
その差を縮める驚異的なまでの才能。
蓮はそれを武器に戦い、生き残ったのだ。
助けようと思えばすぐにも助けられた。
しかし、それをやってしまったら、蓮の中の何かを壊してしまうような気がしたのだ。
だからラクレーはギリギリに助けた。
ラクレーはあのタイミングで良かったと思っている。
最後の最後に見せたあの底力。
あれは、才のある者の持つ奇跡だ。
「レン、か。あの技術、磨けばあたしを超えるほどのものだったな」
滅多に笑わないラクレーはほんの少しだけ笑った。
 




