第1494話
1日遅れて申し訳ありません!
「リンフィア! 帰ってたのですね!! 無事でよかったですわ!!」
王女とは思えないほど豪快に握った手を振るフィリア。
この元気は間違いなく彼女のものだと、リンフィアも次第に再会を実感していた。
「フィリアちゃんも変わりないみたいで安心しました」
「私はいつだって私ですわ! ところで、仮兄さんたちは………」
期待した様子でキョロキョロとあたりを見回すフィリア。
リンフィアはどこか申し訳なさそうに事情を説明し始めた。
「あの、色々あってケンくんたちとは別行動に」
「あらそうですの。それじゃあ仕方ありませんわね!」
が、切り替えは早かった。
フィリアはすぐに会話をやめ、リンフィアの手を引いて………あくまでもう片方の手で蓮を離さず、奥へと歩いていった。
「まぁ、何はともあれまずは中でゆっくりしましょう」
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「あ! リンフィアちゃん!」
と、一番最初に向かい入れてくれたのは、琴葉だった。
「コトハちゃん! 皆も!」
琴葉だけではない。
蓮や琴葉といつの行動を共にしている七海、美咲、颯太、優の面々が並んでいた。
「すずっちもいるから安心してねー」
涼子がいないことに一瞬ドキリとしたリンフィアだったが、心配なさそうで胸を撫で下ろした。
少なくとも、蓮達の一派は1人残らず無事だった。
「本当に良かった………無事だったんですね」
「蓮と連んでる俺らは基本無事だよ。レイとかルイって奴知ってるだろ? ラクレー先生のとこで合宿してたやつはみんな無事さ」
颯太の口から思いもよらない人物の名前が出て、リンフィアはついそう聞き返した。
レイとルイは、学院の生徒会メンバーの兄弟であり、ラクレーに仕えていたルーテンブルク人の兄妹だ。
しかし、学園と勇者とは交流はなかったので、意外な接点にリンフィアも驚いていたのだ。
「いつ魔界が攻めてくるか分からないからね。本来対軍事用の訓練をしている学院と勇者とで合宿をしてたんだ。学院長と師匠は旧友だし………………いや、すまない」
「気にしないで下さいレンくん。避けられないことを避けようとしたって無意味ですから。でも、だからみんな強くなってたんですね」
「ひっひっひ。リンフィアちゃんに負けるわけにいかないからね!」
おちゃらけてピースサインを見せる琴葉だが、その魔力は魔法に優れた他種族のそれと大差ないほどに洗練されていた。
しかし、負けん気からか、リンフィアも不敵な笑みを浮かべていた。
「私だって、結構すごくなりましたもんね。負けません!………それで、他の方は………」
「「「………」」」
返答はない。
この無言は、何よりも雄弁に現状を語っていた。
「………………そうですか。状況はそこまで………」
冷静に考えれば考えるほど、この状況は最悪だった。
洗脳にかかっていないミラトニア側の人間は、現在たったの11人。
リンフィアを加えて12人となるが、数字で見れば誤差もいいところだった。
敵は一国。
そして、ミラトニアは事実上敵側。
援軍となり得る国はもう何処にもない。
どう見ても、詰みの盤面だった—————————
「でも、最悪じゃないわ」
「!」
と、優の一言に、リンフィアは面を上げる。
そして蓮は優の言葉に続いた。
「そう、手はある。敵の誤算は2つ。まずは俺の固有スキル、【逆転】。これがあれば、洗脳状態を逆転が出来る。だから、もしもミラトニア側の人間が敵兵にされるようなことがあっても正直怖くはない」
「そ、それじゃあニールも戻せるんですか!?」
「うん。俺が彼女に固有スキルさえ使えれば即座に洗脳が消える。正直、彼女の力は今かなり欲しいところだよ」
そしてもう一つ、と二本指を立てて蓮は続ける。
「委員長の【超鑑定】から割り出した、洗脳能力者の情報をこちらが握ってる。だから、こっちさえ倒したら、状況は5分とは言わないけど、それなりにマシになる」
「でもやっぱりどの道厳しいって事ですよね………」
「そう。だから、こっちもちょっと乱暴な手を取る」
拳を合わせながら、ラクレーは魔力を流していった。
随分とやる気があるのは、きっと敵が敵だからだろう。
故郷の仇である魔界相手に、もはや手段を選ぶつもりはなかった。
「あたし達の作戦は、誘拐」
「誘拐!?って、まさか………その例の洗脳の能力者を………」
察しの通りだと頷きながら、あえて蓮はそれを言葉に出した。
「俺たちの目標は、術士を攫って、無理やりにでも解除させること。もう、手段は選べない」
そう口にする蓮からは、現代日本人としての甘さは消えていた。
殺意すらあるその覚悟を、止めるものは誰もいない。
これは既に決まった作戦なのだ。
「協力してくれる? リンフィアちゃん」
そしてリンフィアもまた、覚悟を決めていた。
「はい、もちろん。もう、情の一つで状況を左右していい場面じゃないですから」
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ご無沙汰キャラ紹介
・異世界人
獅子島 蓮
ケンの親友で幼馴染の美少年。
剣の天才であり、ケンをして敵わなかったとするほど。
現在はラクレーに師事し、鍛錬を積んでいる。
王女フィリアに好かれており、当人も受け入れている。
七峰 琴葉
ケンの親友で幼馴染の美少年。
頭のクローバーの部屋ピンが特徴。
三馬鹿と言われるほどのお馬鹿キャラだが、たまにハッとする事をいうと評価を受けている。
谷原 涼子
ケンの数少ない日本にいた頃からの友人の1人
不良から救われたことがきかっけでケンに懐いた。
口数は少なく、物事をズバッという。
山本 七海
ケンの数少ない日本にいた事からの友人の1人
涼子同様、不良から救われたことがきっかけで交友を持った。
快活で明朗な少女。
あだ名をつけるのが好きで、仲のいい人物には皆つけている
寺島 美咲
人見知りで怖がりな少女。
異世界に来て初めてケンと交流を持った。
きかっけは、フェルナンキアで勇者としての挨拶回りをしている時にチンピラに絡まれた際、ケンから助けられたこと。
不良は苦手だったが、この件をきっかけに心を開いた。
高橋 颯太
面倒くさいが口癖の、陸上部の少年。
異世界に来てからケンやこのメンバーと交友を持ち出した。
癖の強いメンバーの中を必死に生き抜いている。
綾瀬 優
おさげ眼鏡のこれ以上ない委員長。
鼻から偏見を持たず接していたことから、ケンに一目を置かれていた。
現在は、このメンバーの引率的な立ち位置になっている。
・ミラトニア人
フィリア
ミラトニア王国第四王女。
ケンの妹である聖 愛菜と瓜二つで、愛菜と同様蓮に好意を持っている。
お嬢様口調で気品はあるものの、普段は豪快で自由。
また愛菜に似ているのは愛菜の生まれ変わりであるが故であり、まれに意識の混濁が見られる。
ラクレー
ルーテンブルク第一王女
本名は、ベラクレール・ルーテンブルク。
三帝の一角、天剣の称号を持つ剣の達人であり、蓮の師匠。
マイペースで食いしん坊な性格をしており、フェルナンキアのギルドマスター、ダグラスの弟のサクラスがやっている飲食店で居候していた。
ミラトニア人の母とルーテンブルク人の父を両親に持ち、呪文と呪印双方を継承した特別種、天人の1人。
レイ・ウェルザーグ
魔法学院・戦闘魔法科の生徒。
ミレアを補佐する生徒会副会長。
一つ結びが特徴の男装の女性であり、幼い頃はミレアに使えるメイドであった。
また、今は亡きファルグの弟子であり、剣術の弟子でもある。
実験によって天人となった数少ない1人。
ルイ・ウェルザーグ
魔法学院・戦闘魔法科の生徒
ミレア所属の第一生徒会ではなく、第二生徒会に所属する。
ローテイルが特徴の女装の男性、そしてドM。
妹のレイ同様に、ミレアのメイドであった。
彼もまた、レイと同じ経緯で天人となっている。