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第1492話


 伝言というのは、主に3つだった。


 一つは、先に出発したということ。

 もう一つは、今後の集合場所。

 そして最後が、休息を取れというものだった。



 ゼロ達も、さすが疲弊したのだろうというのは想像に難くない。

 流石の難敵だ。

 身体は十分でも、心を休めないまま挑める相手でないことは理解していた。


 だから、まずはミラトニアへ帰る事にしたのだ。






 「さてと………それじゃあ、伝言ありがとうございました、イーボさん。あと、本当に無事でよかったです」


 「………コウヤが、助けてくれたんだ」


 「コウヤ君が?」


 「よくわからんが、意識はコウヤだが、身体の主導権を持っているのが管理者だったんだろう? だがあいつ、俺を逃すときに一瞬だけ本当のコウヤになったんだ。いずれ一瞬でも身体を奪うような瞬間が必要な時のための練習だと………アイツは、無事なんだろうか」




 まだ、リンフィアは何も知らなかった。

 今後どうなるのか、戦いの行方は、コウヤが外界に来られるかどうかは。


 心配はある。

 しかし、あとは託すしかなかった。




 「信じて待ちましょう。心配して曇ったって、何にもなりませんから」


 「………そうだな………その通りだ。引き止めて悪かった。気をつけて行け」


 「はい! イーボさんもお元気で。また会いましょう!」


 「ああ、またな」




 コウモリのような羽を広げ、リンフィアは飛び立った。

 かつて街を救った恩人が見えなくなるまで、イーボはその背を見守っていたのだった。










——————————————————————————————












 久方ぶりの、本当の身体での飛行。

 違和感は思ったよりもなく、むしろ肉体としてはより力のあるこちらでは、気持ちよく空を飛べていた。


 戦力的にも問題はない。

 むしろ、神威をより使いこなせるようになった事で、今まで以上に強くなっていた。




 (久しぶりのミラトニア………)




 どれだけの戦いが待っているかはわからないが、しかし楽しみはあった。

 実に暫くぶりの仲間や友人との再会は待ち焦がれていたイベントではある。


 何より、今真っ先に会いたい人物がいた。




 (ニール………)




 リンフィアにとって、一番の幼馴染であるニール。

 生きているのなら、真っ先に会いたい人物だった。

 わざわざ飛んでいるのは、見つけてもらいたいという意思もあったからだ。


 ニールならば、リンフィアの魔力に気づくだろうと信じ、わざわざ形態変化してまで空を飛んでいた。




 (どこにいけばあるかな………お屋敷かな………王都かな………あ、学院かな?)




 幸い、拠点はそう多くない。

 今想像しているところ以外でならば、精々フェルナンキアにあるマイ・メイの宿屋か、その養父でありギルド総長のダグラスのところくらいなものだ。


 まずは、妖精界からはいちばん近い、ケンの屋敷に向かう事にしていた。




 (………それにしても)




 と、ふと街道に目を落とした。

 何故だろうか、人の気配がまるでなかった。


 それ以前に、妖精界方面の関所に、人が誰もいなかったのだ。

 カラサワの件もあり、かれこれ使われていないという話はあったが、捨てられているとは流石に思っていなかったのだ。




 (これから国交も増えるだろうし、大丈夫かな?)




 と、関わらないであろう国政の心配をしてみる。

 ただそれも、とめどなく出てくる考え事の一つの過ぎないと、頭の奥へどんどんとしまいこまれていく—————————その、矢先の事だった。








 「………………ッ—————————!?」







 下方から、凄まじいプレッシャーを感じ、リンフィアは咄嗟に拳銃を構えた。

 魔力も神威も問題無く巡っている


 戦闘準備は万端だった。


 しかし、




 「………………こ、この魔力………」




 リンフィアはすぐに拳銃を下ろした。

 人目もはばからず、魔族そのままの姿のまま雲を抜け、涙を浮かべながら真っ逆さまにその魔力の主の元へ落ちていった。


 心臓が、バクバクと激しくなっていくのがわかる。

 死んでたらどうしよう、もう2度会えなかったらどうしよ。

 そんな不安が杞憂かどうか、ここで決まる。


 でも、希望に溢れていた。

 間違えるわけがない。


 ずっと隣にいた、最愛の友人の魔力を。


 そして、その姿を目の当たりにし、リンフィアは叫んだ。




 「ニール!!」



 「!」




 なんて声をかけよう。

 どんな顔をしよう。


 でもきっと、最初に飛び込んでくれるのは、自分じゃないと、色んな再会を頭に浮かべるリンフィアに飛び込んで来たのは—————————







 にげろ







 と、そんな自分自身の本能の鳴らす警鐘と、身を翻した自分の肩をかすめていった、黒い斬撃だった。




 「………………………ニール?」




 そこにいたのは、愛用の双剣ではなく、己を解放する大剣を手にし、殺気を振り撒く1匹の獣であった。

 信じられず、一歩前へ進む。



 「!」



 しかし今度は、自分の目を見て、自分の意思で次の一撃を回避した。

 疑いは、自分の中で膨らんでいく。

 何かがおかしい。


 でも、目の前にいる彼女は間違いなく、自分がよく知っているニールだった。




 「わ、私ですニール!! リンフィアです!! あなたとずっと一緒にいたリンフィアです!! 友達の、仲間の!!」


 「………」




 返事は、ただただ殺気混じりの構えだった。

 意味がわからなかった。


 でも、怒ったり戸惑ったりはしない。

 それは、ニールの目を見ればわかること。


 彼女は今、間違いなく正気ではなかった。




 (私がいない間に何が………どうしてニールが………)




 「ぐ………」


 「!? ニール、私………っ!?」



 勢いよく顔を上げられ、つい身構えるリンフィア。

 しかし、今この時だけ、ほんの一瞬だけ目つきが変わっていた。


 今は、ニールだ。


 そして何かを訴えかけようとしている。

 耳を傾け、ようやく放った言葉は、




 「に、っ………………………げ………て………………すぐ、に………っ!!」


 「!!」


 


 すると、今度は別方向から強い魔力を探知した。

 しかも、ごく近くに。


 どれだけ自分が取り乱していたか、今だにそれすらも自覚しないまま、リンフィアの近くにその主は………いや、既にその主は、後ろに立っていた。





 「誰—————————」


 「逃げるぞ」




 聞き覚えのある声の主は、煙幕を放つと、リンフィアを抱えてすさまじく上空へ跳躍した。

 




—————————



————








 再びの浮遊感。

 ぐっと目を瞑っていたリンフィアの瞼に、強い光が差し込む。

 ここは雲の上。

 しかしそう時間はない。



 「おい」


 「!?!?」



 声の主はペチペチと何度もリンフィアの頬を叩き、何かを催促した。

 そしてようやく、驚きながら顔を上げたリンフィアの目に映っていたのは、意外な人物だった。




 「いはは(いたた)………………って、ラクレーさん!?」


 



 三帝—————————国を代表する3人の超人の一角にして、ミラトニア最強の剣士、天剣。

 そしてルーテンブルク王国の王女にして、希少な力を持つ天人。

 本名ベラクレール・ルーテンブルク………ラクレーであった。




 「あたし飛べないから、頼んだ」


 「へ?」




 相変わらずのマイペースさに目を丸くしたが、すぐにリンフィアは羽を広げ、今度はリンフィアがラクレーを抱えた。

 急展開に目を回しているが、しかし少なくとも、自分が救われたのだということは、よく自覚していた。



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