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第1486話


 「ゲロさんッ!!」




 既にカラサワの手は、背中から直接心臓を貫いていた。

 言わずもがな致命傷。


 カラサワの背中に回されていたゲロさんの手は、だらんと垂れ下がっていた。




 「な、で…………」


 「兄さんの………兄さんの匂いじゃない」




 赤く染まった手は即座に引き抜かれ、顔を見るまでもなく、カラサワはゲロさんを蹴り飛ばした。


 もはや受け身を取る力も残らず、投げ捨てられた人形のように、ゲロさんは横たわった。



 自分でもわからないうちに必死になり、一心不乱に伸ばしたコウヤの手は、ついぞ彼に触れることなく、彼はそのまま光となって消えてしまった。





 「…………………………………」





 ここは精神世界。

 死ねばその痕跡すら残らない。


 もう、ここには誰もいなかった。




 「下らない嘘をつきやがって、ペテン師が………」


 「………おい」




 返事をしようとするとカラサワの口を塞ぐように、血の滲んだ拳は、鋭くカラサワの顎を突き上げた。


 暫くぶりの痛みに驚きながら、カラサワはようやく正気を取り戻していた。




 「くっ………ふはは………我ながら馬鹿な事をしたもんだ………君を解放してしまうとは………………」


 「ぶっ殺してやる………!!」


 「兄さんはそんな事言わないから………口を慎めよ!!」




 







——————————————————————————————














 「………金髪」


 「!」




 まさか、成功したのかと口を吊り上げそうになったその瞬間、目の前に剣が飛んできた。

 笑顔を直す間もなく間一髪で躱しながら、完全ではなかった事を把握した。


 だが、あいつは間違いなく何かを起こしてくれた。

 あれは、確実にコウヤだ。




 「時間がねぇからよく聞け」


 「ああ」


 「とりあえず、俺の拘束は解かれた。けど、まだアイツを潰したわけじゃねぇから、肉体の支配権はあっちだ。だから、俺があの野郎をぶっ殺すまで耐えろ!」



 猛攻を仕掛けてながら勝手な奴だと心底思う。

 だから、こいつはコウヤなのだ。

 お人よしで、ちょっと過保護だけど、案外勝手で無茶苦茶。

 それがこいつだ。


 だから、俺も遠慮なく勝手できる。




 「じゃ、競争だ」


 「あ?」


 「先に、こいつぶっ倒した方が勝ちだ」




 そりゃあ呆れるだろう。

 お前のその顔は何遍も見た。


 そして、乗ってくることも知っている。




 「………………へへ、そりゃいい。ここで蹴り付けようぜ、金髪!!」


 「俺が勝つけどな」


 「言ってろ馬鹿野郎!!」



 思い切り剣を叩きつけ、テンポが変わる前に距離を置いた。

 着地して瞬きをする頃には、既に顔つきは変わっていた。




 「この………小細工を………!!」


 「小細工じゃねぇ。俺のダチの恩人が、命張って喰らわせた渾身の一撃だ。効いただろ?」


 「君は、どれだけ邪魔をすれば気が済むんだ!!」



 「お」




 地面が激しく揺れる。

 いや、浮かび上がっている。


 浮島には夥しい数のモンスターと凄まじい魔力の籠った魔法具がちらほら見えた。

 どうやら知能のあるモンスターには魔法具を持たせ、他のモンスターには物量で攻めさせようというわけらしい。


 どうせコイツらも死ねば湧いて出るんだろう。



 なので、こちらも一つかましてやろう。




 「複合魔法—————————オール」




 複合魔法。 

 それは、いくつかの魔法を掛け合わせる魔法のこと。


 詠唱魔法とは基本、破壊の魔法だ。

 展開魔法や古代魔法のような複雑さを持ってないが故に、それ自体をぶつける魔法が多くなる。


 故に、混ぜやすい。

 とはいえ普通魔法を複合させることは出来ない。

 それを莫大な数でやろうとすれば、不可能という結果に終わるだろう。


 これは、俺が神の知恵を鍛え、事象の改変という領域まで登り詰めたからこそ作れた出鱈目な魔法、全攻撃魔法の融合だ。




 「な、何………………っ」




 だから今、きっと奴はありえないものを見ているだろう。

 俺の周りをぐるぐると回っている、触れるだけでモンスターに穴を開けるその玉は、まさしく破壊そのものであった。




 「大掃除だ」


 「クソッ、バグどころじゃ………」


 「そいっ」




 と、掛け声と共に、それは数メールにも膨らみ、触れた全てのモンスターをかき消した。

 そしてぐるぐると、迷宮中をくまなく駆け回り、そして、俺の手に収まる頃には、戦場には俺とカラサワだけになっていた。




 「爽快、とは言え魔力量自体が多いわけじゃないから、お前の得意な分身の魔法連射で簡単にかき消されるだろうなぁ」


 「っ………」




 魔法を使うには駒が邪魔。

 しかし駒を置けば魔法が邪魔。


 駒が通じない以上、どうするかという話。


 これで、奴から余計な駒を増やすという選択肢は消えたことだろう。

 単純な心理戦だが、おそらく有効。

 別にカラサワは、戦いのスペシャリストというわけではない。


 だからこれでいい。

 一対一。

 死ぬまでとことん殺し合う。


 それが、有限が無限に立ち向かいうる、唯一の道だ。




 「勝負が掛かってんだ。さっさと始めねぇとな?」


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