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第1485話


 「………? 武器が折れた? さほど強いわけでもないし、本当に何がしたかったの?」




 一撃を受けた場所をさすりながら、カラサワは不思議そうにこちらを見つめていた。

 達成したと理解しているのは、()()()()()折れた剣を持っている俺と、あいつだけだ。




 「今にわかる。精神世界と言えど、状況は共有されるだろうからな」


 「意味がわからな—————————」




 どうやら、異変に気がついたらしい。

 だが、取り乱したりはしない。

 それが精神世界のおかしなところだ。


 精神世界には現実とは別に意識があるのに、身体を同時に動かすような器用さは要さない。

 彼方は勝手に行動をしているが、その記憶は本体に蓄積される。


 だが、気が散ったりすることもない。

 そこでのことはまるで過去の記憶だったかのように、そういうものとして自然に本人へと帰属する。




 ただし、精神が死んだり、強い動揺を見せたりすると、本来に影響を及ぼす。

 その強さはピンキリだ。


 だから、あとはあいつに任せるしかない。





 「さっさと続きやろうぜ。俺ァまだ元気なんでね」


 「このイカれ野郎が………」









——————————————————————————————









 奇妙な光景だった。


 そこにいるのは、異なる人生、異なる人格を持った3人。

 しかしその声も、その顔も、3人は僅かな違い無く全て同じであった。




 「や、お久し」



 「「なっ………」」




 侵入できるはずのない場所への侵入者。

 コウヤはともかく、カラサワは当然敵意と警戒をむき出しにした。


 しかし、ゲロさんは何もしない。

 降参したように手を挙げ、淡々と話を始める。




 「酷いな、オイラだって君の兄の候補だったろうに」


 「ゲロさん………」


 「そ、ゲロさん。君がくれた名前さ」


 「………………?」




 少し切ない間だった。

 しかし、心に積もったそのモヤを払い、今はするべきことに向き合った。


 仇だ。

 名をくれた彼の仇が、今目の前にいる。

 口を閉じていなければ、今にも恨みを吐き出しそうだ。


 でも、グッと堪えるんだと言い聞かせる。



 何でこれから、この口から吐かれるのは、恨みとは程遠い言葉の数々なのだから。




 「プロトタイプ………君、なんのつもり?」




 ここへ来たこと、そして今、仮面で顔を覆ったことにカラサワはそう言った。

 しかし、ゲロさんは動かない。




 「コウヤ。君は最後まで、オイラのことは思い出せなかったな。でも、それでいい」


 「!」


 「君はもう、あの時の彼じゃない。あの時の彼と、オイラが望んだ新しい命だ。だから気に病むな。“兄”では無く、君として、君の思うがままに生きろ」


 「お前………」


 「後は全て、()()引き受ける」





 顔を隠し、話し続けるゲロさんの面を、痺れを切らしたカラサワは強く払いのけた。

 カラン、カラン、と。


 仮面の音がよく響くほどに静まったこの場所で、少し遅れて息を呑んだ声が聞こえた。



 声にならない呻き声。

 弱々しい声を出していたのは、カラサワだった。




 「兄、さ………ん………………?」


 「よ、エイ」




 顔色も、顔も、全て変わっていた。

 しかし、冷静に見ていたコウヤは、それが雑な魔法で作られたハリボテの顔だと気づいた。


 だが、それは実によく出来ていた。




 一眼見て、彼の兄弟だとわかる顔、声色だった。

 これは、プロトタイプとして試験的に渡されていた兄の情報をもとにゲロさんが作成したもの。

 そしてこの声は、声帯を魔法具として指定し、変声の魔法を付与したことで発動した音魔法であり、その顔も低位の魔法で再現したものだった。


 これが限界とは言え、ケンは心配していたが、ゲロさんは確信を持っていた。

 伊達に付き合いは長くない。

 兄への狂気がそれだけ目を節穴にしているのか、ゲロさんはよく理解していた。




 『ったく、無茶苦茶してんなぁ。俺がいない間に神様になろうって? ははっ、すげぇな。流石俺の弟だ』


 「兄さん………兄さんだ!! 兄さ—————————」




 手を前に出す、戸惑いながらもカラサワは足を止めた。

 従順度合いに花で笑いそうになるをも堪えながら、兄はすぐ笑顔を作った。




 「折角の再会なのに、こんな奴近くにいちゃ落ち着かないだろ? 解放しとけ」


 「あ、ご、ごめん兄さん!」




 なんの躊躇もなく、コウヤへの拘束は解かれた。

 それを確認し、コウヤを一瞥した兄は、満面の笑みを浮かべ両手を広げた。


 挙動も、声色も、完璧だった。

 節穴に違和感は映ることなく、長年、多くの者を苦しめ、傷つけてまで求めたその再会を噛み締めるように、カラサワはまっすぐその上へ飛び込んだ。




 「おおっと、はは。デカくなったわけじゃないけどさ、ちょっとお前も—————————」







 ずぶっ。


 そんな音だった。

 何度も戦ってきた。


 だからそれが、皮膚を突き破り、何かが突き刺さった音だと、コウヤはすぐに気づいた。


 そして、それが致命傷だとも。

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