第1483話
お待たせしました!
無事退院出来たので、投稿頻度を3日に1話に戻します!
これからもよろしくお願いします!
理不尽、という他ない。
分身は出せる、ワープはし放題、魔法の制限はなく、ステータスはいわゆるカンスト。
どうやら、本体を得た俺の肉体に影響は及ぼせないらしいが、それが以外の全てにおいて厄介だった。
「とでも言いたげだね」
「実際厄介だろ?」
涼しげに………というより、対応に必死になって流しで会話をしている感じだ。
気を抜けば、死角から一撃。
制限のない空間転移は、精神面にもなかなか悪い。
だが、防げない訳ではない。
探知—————————そして空気の揺らぎを感知と同時に抜刀。
一呼吸もない間に迫るカラサワの………ついでに透明になってるこいつの攻撃位置に剣を添え、流れに逆らわずに受け流す。
これを繰り返せばいい。
「透明化、音の遮断も効かない。君、一体何?」
「バグなんだろ? お前の天敵だよ」
「天敵か………そうだね。君は僕の天敵だ。だから僕は、君に興味がある。君の物語にね」
気持ち悪いと蹴ってやってもいいが、気になっているのはお互い様だ。
「なんで、そうも物語にこだわる」
「うん?」
「ミッション、異界童話、レッドカーペット、やたらとストーリーを重要視してるよな、お前」
「重視じゃないさ。このゲームに、様々な物語が散らばってるのは、みんなこのノートに乗っていたネタ帳だからって話。ただそれだけだよ」
そう言いながら、カラサワは攻略本をさすっていた。
ノートというにはあまりに分厚いそれ。
………いや、厚みはそうなのかもしれない。
そうなるほどに重ねたノートが、あの本のモデルだったのかもしれない。
それはきっと、兄とゲームを作るためのネタ帳だったのだ。
健気な話だ。
だからこそ、許してはいけない。
「…………………それだけ夢を大事にしてるくせに、なんでそんな簡単に、他人の夢を踏み躙れるんだ。あいつらも、お前と同じなんだぞ!! あの玉座に、夢を託そうとしていたんだぞ!!」
「同じなもんか。彼らの夢は、僕の夢じゃない。だったら僕には大事じゃない」
そう言い切ると同時に、再び分身で俺を取り囲みながら一斉に魔法の構築を始めた—————————直後に、術式を全て破壊。
その瞬間、本体諸共分身の姿が消え、視界からは全てが消え去る。
“知る力”—————————左上空から迫るカラサワを察知。
武器を短剣に切り替え、首元に添え、剣を滑らし、すれ違いざまに首を掻っ切る。
だが、手応えはない。
分身。
実験的に斬ってみたが、本体への影響はなし。
と、考えてる暇はない。
続け様に降ってくる無数の透明な爆撃アイテムに魔法をぶつける準備をしつつ、本体の位置を確認し、持っている短剣を構える。
「………」
しかし取りやめ、魔法だけを放ち、派手な花火を頭の上で弾けさせた。
不思議に思ったのか、カラサワは姿を現した。
「なんでやめたの?」
当然の疑問だろう。
理由はシンプル、仕切り直すため。
「埒が開かねぇからさ。なんで、もう本気だす」
この閉じられたダンジョンなら、精度高めに使えるだろう。
【悪魔ノ道化】を。
「! 天輪………………本当に本気かな?」
悪魔ノ道化。
隔たれた空間でのみ使える神象魔法。
ラプラスの悪魔よろしく、その空間における分子の位置や魔力を完璧に把握することで、未来を予測するという魔法。
反則みたいな能力だが、使わなければ勝てない。
そして勝てる保証もない。
「さて………来い」
「じゃ、遠慮なく」
空間転移—————————座標把握。
察知ではなく予知。
神の知恵が示した出現点に足を向けて、身体を放った。
剣を抜き、まだ誰もいない場所に向かって放ったその剣に、
「!?」
吸い寄せられるように、カラサワは現れた。
「ぐっ!? マジでか………!?」
「チッ、固過ぎンだろ………」
右手、反撃を予知。
魔法をぶつけ、始動を阻止する。
その途端に、初めてカラサワは焦ったような顔を見せた。
「こ、これはいくらなんでも………っ!?」
「ズルいなんて言うなよ? 斬って死なねぇなら同じ事だろ」
剣を振ろうとした矢先、転移を予知。
出現点は背後。
先回りして、斬撃を返し、突き刺す。
漏れ出す呻き声に混じる微かな苦痛の色が、無駄ではないと教えてくれる。
反撃を予知し、更に連続で回避しつつ、死角からの魔法を射出。
躱す方向に剣を置き、また一撃。
止まってはいけない。
思考の隙を与えるな。
絶えず予知し続け、攻勢を絶やさない。
それだけが、おそらく唯一勝ちうる手だ。
「無駄とわかって何故抵抗する!! 諦めてしまえよ!!」
「斬ってしなねぇからって、お前が負けないってわけじゃねぇだろ。だったら、お前が消えるまでやればいいだけだ」
「往生際の悪い………そろそろ、諦めろ!!」
「!」
速度全振りの猛攻を仕掛けて来た。
なるほど、ゴリ押しもいいだろう。
これではこちらも攻撃の隙はそう作れない。
だが、予知と最小限の剣裁きで、タイミングを測りつつ待つ事はできる。
「忌々しいよ、君さえいなければ全てうまくいっていた。この国は僕らだけの世界になって、兄さんも隣にいた!! こんな出来損ないじゃなく、本物になれたんだ!!」
「………出来損ないだと?」
「そうだ!! 僕の兄になるために生まれたんだ!! だからそうなるべきだった………なのに………」
「死人は生き返らねぇよ。どう足掻こうとな」
そう言うと、カラサワは納得できずに俺を睨む。
受け入れられないからこそ、こんな大それた事をしたのだ。
今更言葉一つで動く訳もない。
しかし、言葉は止まらなかった。
「いや………たとえ生き返るにしたって、あいつはもう、コウヤなんだ。その意思と命はあいつのもんなんだよ。お前の兄貴じゃねぇ!!」
「僕が作ったんだ!! だったら僕のものだろう!!」
「命はものじゃねぇんだ!! 生まれたら、そいつのもんなんだよ!! これ以上、勝手にあいつを縛るな!!」
感情が見せた僅かに隙、そこに剣を差し込み、詰める。
猛攻は止まり、カラサワは正面から俺の剣を受け止めた。
「記憶がなくて、誰も頼れないことをあいつは苦しんでたんだ。それでもどこかにいると思っていた弟と記憶を求めて足掻いたんだ。結果は散々だったさ。でも、あいつはあいつなりに何か見つけたんだ!! それを出来損ないだと? テメェのものさしでふざけた事ぬかすんじゃねぇ!!」
「だから役目を与えてやると言っているんだ!! 過去がないから、僕が未来を作るんだ!!」
「生き方を決めるのはお前じゃない!! この世界はお前の作ったゲームじゃねぇんだぞ、カラサワァッ!!!」
「うるさいッ!!」
勢い任せに振るわれた剣は確かに重かった。
しかし、負ける気はしない。
こんなやつに、負けてはいけない。
「もういい!! バグだろうがなんだろうが関係ない。君はここで確実に殺してやる、ヒジリケン!!」
「だったら来いよ。俺は俺のダチを取り戻して、とっととこんなクソゲーやめてやるよ!!」