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第1479話


 遥かに頭が冴えているのを感じる。

 魔力や神威、身体能力だけではない。


 あらゆる能力、ステータスが格段に上昇している。


 澱みなく流れる神威が、どうしようもなく猛っていた。




 「戦いたくてウズウズしてるって顔だ」


 「………実を言うとな」




 図星も図星だ。

 まぁ仕方あるまい。


 頬に触れて俺も今気づいた。

 どうしようもなく、笑顔になってしまう。


 だが、まだ抑えられる。

 それは、一番重要なものがまだないから。

 そして、楽しんで戦おうとは思えないクズが、まだ俺の前にいるからだ。




 「でも、お前はお呼びじゃねぇ。引っ込め」


 「は、僕以外に誰と戦おうって?」


 「決まってんだろ。さっさと失せろ、時間の無駄だ」



 「っ………」




 眉を顰め、おずおずとなんともいえない反応を見せるカラサワ。

 一見すると苦しんでいるような、躊躇っているような、そんな少し調子の悪いものが見える。

 だが、これは決して俺に怯えてるわけではない。


 きっと、アイツも暴れてるんだろう。

 だから、俺は待ってるんだ。










——————————————————————————————











 「俺に………戦わせろ!!」




 これまでにない抵抗と共に、コウヤはカラサワにそう叫ぶ。

 カラサワとしてはまるで理解のできない行動だった。


 いわば同士討ち。

 にも関わらず、同じ肉体を通じて流れ込んでくる闘志は、紛れもなく本物だった。

 ともすれば、敵として向かう己以上の意志を、コウヤは持っていた。




 「わからないなぁ。なんでまた、わざわざ友人同士で殺し合うの?」


 「………証明だ」


 「は?」


 「お前と一緒にいられる奴はいるんだって、俺は金髪に証明するんだ。それが、親友である俺の役目なんだよ」




 なるほどと、頷くところでカラサワは待ったをかける。

 そんな理屈では到底説明のつかない奇妙な高揚感が、ずっと着いて回っていたからだ。


 ケンのためだけではない。

 役目ではなく、そこには望みがあった。




 「その割に楽しそうじゃないか。どうして?」


 「こういう喧嘩に、理屈が通るかよ。お前、()()のくせにそんなことも理解出来ねぇのか」



 自信満々に、なんの影も見せず、堂々とコウヤはそう言い放った。

 偽物だと己の存在に疑問持ち、価値を貶め、迷いを見せていたコウヤにとって、その友情と時間だけは、胸を張って本物と誇れるものであった。




 ——————しかしそれも、カラサワには刺さらない。

 ただ、いずれ兄になる虚像が、また人に近づいたと、それを喜ぶのみであった。



 「言うじゃないか、()()が」



 そうやって見せる笑顔の裏、カラサワは冷静に状況を考えていた。


 手加減はどの道出来ない。

 そう言う肉体の仕組みなのだ。


 だから、カラサワに止める理由はない。




 「じゃあ、好きにしなよ」




 むしろ、これは彼にとって大好物だった。


 夢のため、物語に執着するカラサワは、その戦いにドラマを見ていたのだ。









——————————————————————————————










 「む………………」





 気配が変わった。

 わかる。


 支配された違和感も何もない。

 そこにいるのは、正真正銘の本物だった。




 「よう」


 「おう」




 言いたいことはいろいろある。

 そもそも久しぶりでもない。

 カイトでは戦った相手だ。


 でもあれは、記憶と人格を寄せただけの偽物。

 だが、こいつは本人だ。


 なんの縛りもない、魂の底から、コウヤだった。




 「よーいどんは必要か?」


 「いらねぇ」


 「じゃ、【ぶっ飛べ】」



 「っ!?」




 改変された重力が上空方面へ力を持ち、コウヤは抉れた地面ごと彼方へと吹き飛ぶ。

 そして、一呼吸。


 拳に力を注ぎ、構える——————その瞬間、




 「!」




 気配は、一瞬にして背後に。

 体を捻り、風魔法で加速しつつ重力を再改変。

 最高速度で後方に向き直り、そのまま拳を放つ。


 視界に映るコウヤも、奇しくも拳を放っていた。

 拳はお互いの人ならざる力を乗せ、まっすぐに衝突する。

 割れるような音、そして0コンマ間もなく衝撃は彼方へと放たれた。


 ぶつかり合う拳から、指から、痺れるような痛みを感じる。

 ああ、違う。

 やっぱり、強い。



 笑みが、溢れる。




 「「………………は」」





 お互いの拳同士を弾き、装填するように腕を引く。

 目視———急所を確認し、拳を2つ構え、放つ。


 乱打は、絶え間なく鼓膜を弾くような凄まじい音と衝撃を放ちつづけた。




 拮抗すること数秒。

 飽きはお互い様。

 息を合わせたように、最後の一撃を撃ち合い、それを皮切りに距離を取り、全神経を感知に注ぐ。



 目で見る、心で観る。


 視界の敵を、打ち砕くべく、背後に氷槍の軍勢を用意する。

 迎撃体制があるのはもはや観るまでもない。

 

 軽い挨拶という名の氷の雨に、コウヤは丁寧に炎の槍で返事を返した。

 そして、空中では次々に戦いが巻き起こる。


 現実がどんどん改変され景色が移り変わる中、俺たちは黙ってお互いを見ていた。

 



 「………妖精と、生物迷宮の命運がかかった戦いだ」


 「ああ」


 「だから、後であいつらには謝るよ。不謹慎な話だけど、今、俺は最高の気分だ」


 「奇遇だな。そりゃ俺もだ、金髪」




 炎が、氷が、雷が飛び交う中、俺たちは無防備にその身をさらした。

 一歩二歩と足を進め、防御もなくお互いに放ったその拳は、




 「おかえり」


 「ただいま」




 たった一言の挨拶の後に両者の頬に突き刺さり、開戦の狼煙を上げるのだった。

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