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第1427話



 次代の罪の神。

 その継承は避けられない問題であった。



 「そんなこと言うけどな、ワタシが引き継がなきゃ、1人ずつしか子孫繁栄できない生物迷宮は全滅だし、ダメじゃないのか? いや………というか、ワタシが神になったら力を失うわけには行かないから、子供は作れないし………ここで途絶か?」


 「いや、それについては心配いらん。そもそもお前さんらが子を儲ける時に母体から力が消えるのは、神人一体という現象のせいでな。命の神の死で、ルナラージャ人が滅びたのは覚えておるな?」


 「うん」




 それについては嫌というほどに記憶にある。

 師であるケンが珍しく本気で苦しんだ問題の一つだ。




 「ワシが消滅したわけではないから、生物迷宮が消える事はなかったんじゃが、影響はあった。その影響というのが、力の継承の不安定化………つまり、ワシの封印がきっかけで、子への力の継承が、遺伝ではなく譲渡になったわけじゃ」


 「じゃあ、ワタシが神になれば、他の種族みたいに普通に子孫を残せる?」


 「そう言うことじゃ」


 「………」




 大きく運命が変わろうとしている。


 ラビにも思うところはあった。

 これで、一族は復活するかもしれない。


 ただ、今思えば、この繁殖の欠陥に、ラビ自身命を救われていた。



 ラビの母の迷宮が攻略されても、母が死なずに死んだのは、母のお腹にラビがいたからだった。

 遺伝ではなく、譲渡であったため、力を渡しかけのラビの母は、迷宮を攻略されても死なずにすんだのだ。


 不完全な生物迷宮であったために、命を救われたのだ。



 無論、そのせいで母は想像を絶する痛みとと共に、二度と消えないトラウマを植え付けられた。

 ラビがカラサワを恨んだ原因だ。


 こんな欠陥はない方がいいが、それでも消えるとなると、妙な懐かしさを感じる。

 言い表せない、足が浮くような不思議な感覚だった。

 でも、惜しくはなかった。

 



 代わりがいないとて、それは決して軽々しく座っていい椅子ではない。


 罪の神というのは、単なる神の一柱ではなく、神々の裁定者であり、また一つの種族を率いる存在なのだから。


 しかし、覚悟は出来ていた。

 気の迷いでもなんでもない。

 これは、王となる期待を獣たちから受け、ずっと考え続けた結果出した、ラビ自身の結論だ。




 「決まったのか」


 「うん、決まったぞ」




 頼もしい顔つきだった。

 答えは出ている。

 でも、どこかでその口から答えを聞きたかった罪の神は、その覚悟を問うた。




 「ワシの後継者に………なってくれるか」



 「やだ」



 「ぁっ…………て…………………ぁぉ………え?」





 予想外の答えに、そして見たことのなかったそのリアクションに、みな固まった。




 「いや嘘だぞアホか」


 「ぶっ殺すぞこんガキャァアッ!!!」



 「信じてんじゃねぇよ!! こう言う空気苦手だから和まそうとしたんだよ!! あいすぶれいくだ! あいすぶれいく!! 師匠が言ってたぞ!!」


 「お前がアイスにしてどうすんじゃ!!」




 なんとも閉まらない空気の中、しかし大きく運命が変わった。

 ラビは、神の座へつく権利を、人の身でありながら得たのだった。





 「もういいカナ?」



 「「!」」




 お互いヒゲと頬っぺたを引っ張りあっていた2人はようやく放ったらかしにされている人物………神様がいるのを思い出した。




 「神の継承とは思えないほど見るに耐えなくてね」


 「神の座へなんぞこんな程度のもんだよ。で? お前から話しかけるって事は罰を受ける覚悟が決まったのかよ」


 「くっははは………まぁいっか。天化人というのは業腹だけども、神に裁かれるのであれば億歩譲ってよしとしよう」


 「全然口減らねーなこいつ」




 とても負けたとは思えない。

 ただ、反省の色も見られない。


 気持ちの悪いその余裕に、ラビは心当たりはあるが、しかし無視してするべき話に踏み込んだ。




 「幽閉は当然として、こいつの首の処遇だよな?」


 「うむ。そうじゃ、じゃから………」


 「じゃあ、残りの力をミレア姉に全て譲渡させるってところ以外は、全部じっちゃんに任せるよ」




 初仕事は、最も簡単に返上された。


 これには罰の神も目を丸くしていたが、ラビにも理由はあった。




 「今後のことを考えて、絞れるもんは絞るけど、でもこの因縁にケリをつけるべきはじっちゃんだとワタシは思うぞ。じゃないと、アンタは一緒この失敗のケジメをつける機会を失う」


 「!!」


 「てなわけだ。先出てくから、あとは兄弟同士腹割って話せ」




 そして、なんの躊躇もなくラビは姿を消して見せた。

 そして牢の中、二柱の神は取り残され、並び立った。


 2人の記憶にある、過去の光景のように。






 「………結局、兄者が(おれ)を裁くか」


 「裁き、か………」




 遠くを見るようなその目。

 弟のように振る舞っているとき、何度も見た目だった。

 次に吐くセリフは、なんとなく罪の神には読めた。




 「そんな大袈裟なものではないって? また人間のようなことを」


 「ようなではない。どれだけ力を持とうとも、ワシらは結局人間じゃよ」


 「違うッ!! (おれ)たちは絶対者なのだ!! 支配する者として、その責務を果たさなければならないんだ!!」



 罪の神は変わらない。

 その思想には、一片の疑いもない。


 相変わらず。

 そう考える事は容易い。


 だが、決着をつけ、一歩引いた彼には、少しばかり違う見え方も出来ていた。




 「ワシは、私欲と自尊心から、お前さんが暴れているものとばかり思っておった。しかし、きっと下界を思う心があるのも確かなんじゃろう」


 「無論だ」


 「しかし、ヒトの犠牲を是とするやり方は見過ごせん」


 「犠牲なくして為せることではない!! そこから目を逸らすから、いつまで経ってもこの世界は………!!」




 罪の神は、指を差されていた。




 「それが答えじゃよ。犠牲はさけられん。神であろうとも」


 「!」


 「結局、神も人の延長戦だと、お前さん自身理解しておった。目を逸らしたのは、他でもないお前さんじゃ」




 指の先に突きつけられたその事実に、罪の神は目を離せなかった。




 「ヒトも神も同じ欠陥品。ならば、可能性を持ち、先に進みうるヒトにこそ、この世界の運命を握らせるべきじゃ。ここは、ヒトの世界なのだからな」




 反論は出てこない。

 いくらでも思い浮かぶのに、それが口に出せなかった。


 口を塞いでいるのは、自分自身。

 人の可能性をたった今身を持って知ってしまった罪の神自身であった。




 「お前さんへの罰は、ここで世界が変わる様を見届けることじゃよ。自分が操り、進もうとした未来よりも、遥かに幸福な未来をヒトが築く様を、そこから見ておくのじゃ、弟よ」




 ある意味は特等席。

 その場所からはきっとよく見える事だろう。


 最も可能性を持った人間、その弟子のまなこは、きっと全てを目にしていく。

 この戦いの行く末、代理戦争の果て、そしてこの世界の運命を。

 

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