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第1426話


 「がっ、ハァっ………………ハァっ………………」




 殴り終えたラビは、フラフラと足元がおぼつかない様子でミレアのそばへ駆け寄った。

 緊張が解けたのか、辿りつくと糸が切れたように膝から崩れた。



 「おっ、と………お疲れ様、ラビ」


 「へへへ………………どんなもんだ………」




 一時的に子供の姿に戻り、満足そうな顔でラビは倒れ込んだ。

 崩れかけた妖精界の空は、どこか不安定だったけれど、それでも清々しさはあった。


 ラビは、3人は、神を打ち倒したのだ。




 「やっと、おいつけ………た、ぞ………………」



 「!! ラビ………!」




 地面を這いながら、慌ててラビの元へ向かうレギーナ。

 しかし近づいてみると、小さく寝息を立てていた。


 そばにあるその日常を見て、レギーナはようやく実感した。

 大きな壁を、一つ壊したのだと。




 「倒せてよかったのです」


 「エル、あなたは平気なんですか?」



 身体を膨らませ、ラビのベッドがわりになりながら、エルは元気よく返事を返した。



 「はいなのです! 同化はしてたけど、エルはパワーアップの材料なだけだから、全然へっちゃらなのです」


 「そう、よかった。それで、戻るんですか?」


 「いえ、ご主人様からは絶対に戻ってくるなって言われてるのです」



 「何故だ? 仮にも使い魔だろう? いれば戦力に………」




 レギーナの問いに、エルは強く首を振った。

 その表情は、暗かった。




 「エルじゃもう、ご主人様についていけないのです」


 「………それほどなんですか?」


 「はい。こっちの肉体の力を元の肉体に取り込んで、前よりうんと強くなったのです。もう、ヒトの力とは呼べないレベル………それこそ、神様みたいに………」




 人間離れしている事に対して、ミレアはなんの反論もない。

 しかし、神と言われれば神妙にならざるを得なかった。


 神………今まで深く考えることのない存在であった。

 しかし、ここに来てその存在がだんだんと近づいてきていることをミレアは感じとっていた。


 代理戦争然り、ラビの一族の使命も然り、妖精王という存在もまた然り。

 神の代理者である妖精王に最も近いミレア自身も、神に近づいている。



 この世界は想像以上に神の思惑が働いていた。

 この戦いが終わろうとも、代理戦争で魔界との戦いが始まる。

 その行く末、勝ち残った先に何があるのか、ミレアは不安を感じずにはいられなかった。




 (絶対神の選出………それだけで済むのでしょうか………それに、)




 色々と考えたが、やはりこれは思わずにはいられなかった。




 (また、遠くに行くんですね。あなたは)




 力を得て、近づいたつもりだった。

 しかし、ヒジリケンはまた先へ進んでいった。


 道のりは、果てしない。

 それでも、ミレアは諦めるつもりはなかった。


 1番の友人に、そう誓ったのだ。




 「それはそうとロゼルカ嬢」


 「はい?」


 「なんか光ってるが、あれ大丈夫か?」




 平然とそういうので、惚けた様子でミレアはそちらを向いた。

 すると、何故か倒れ込んでるラビの顔が発光していた。




 「いやダメでしょう!? なんで落ち着いてるんですか!?」


 「いや、苦しんだりはしてないし、あいつなんかそういう奴だったのかと」


 「なんで個性みたいにしてるんですか!? 明らかに異常事態ですよ! ラビ!! 起きなさい! ラビ—————————」









———————————————————————————











 「ぶははは!!すまん。魂を頭に集めようとして今お前さんの頭が光ってる」


 「何してんだくれてんだテメェ」




 ゲラゲラと笑う罰の神の胸ぐらごと持ち上げるラビが今いるここは、罰の神が住んでいるラビの精神世界。

 しかし、以前とは異なり部屋としての様相を持ち始めていた。



 「にしても、えらい洒落た部屋になっちゃったな。どうやったんだじっちゃん」


 「お前さんが罰の神としての力をつけ始めておる証拠じゃろう。魂のある空間が迷宮になりつつある。つまり、監獄としての能力が備わってきておるのじゃよ」



 迷宮ではなく監獄。

 それが、罰の神本来の役割であり、ダンジョンの本質であった。



 「ダンジョンの語源だったっけ、たしか」


 「そうじゃ。じゃから、今後は此奴もここに収監される」


 「こやつ………………って!?」




 取り込んでいたのは魂。

 そしてそれは、つい先ほどやられたはずの、罪の神の魂だった。




 「クソっ、こいつまた………」


 「落ち着かんか。こいつの魂を取り込んだから、今お前さんの顔面光っとると言ったじゃろう」


 「それについちゃ後で文句言ってやる。なんでワタシの精神に………………いや、」




 何も不自然な事はなかった。

 この精神世界の本質を考えれば、それは何もおかしくはない。

 機能しているからこそ、罪の神はここにいた。




 「そっか、牢獄になってるんだったっけ。でも、じっちゃんそうやって閉じ込めたから力失ったんじゃなかったか?」


 「ワシの場合は封じ込めるためにワシ自身の力を消費したから、結果的にダメになったんじゃよ。ボロボロにされてもう、ハナクソくらいの力しか残っとらんコイツなら、なんの苦労もなく閉じ込められる。“削り”は収監の基本じゃ」


 「そうかぁ、ハナクソかぁ。おいハナクソ」




 「その呼び方はやめてくれないカナ?」





 話しかけた罪の神は、どことなく憑き物が落ちたような顔をしていた。

 以前、似たような状況があったとラビはケンに聞いている。


 倒した後の命の神と、こんなふうに対話をしたと。

 目的を失って、大人しくしてるのだろうか。


 いずれにしろ、暴れる気配はもうなかった。




 「さてラビよ」


 「うん?」


 「正直、先刻の戦いは前哨戦ですらない。結局はギルヴァーシューの息子らの戦いが全てを決めるじゃろう。しかし、これもまた一区切り。お主は二つ決断してもらうことがある」




 罰の神は指を2本立て、ラビにこう迫った。




 「まずは、此奴の処遇。そして、ワシの跡を継ぐかどうかじゃ」






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