表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1428/1486

第1422話


 巨大な拳が迫る。

 大きく、強く、そして速さもある。


 しかしミレアにはラビほどのパワーもなければ、レギーナのような速さもない。

 まして、接近戦は範疇になかった。

 肉弾戦において圧倒的に不利。


 だからこそミレアが狙われた。

 



 「………これなら、外れませんね」


 


 銃のように指を構える。

 それは最大のライバルにして、友人の得意武器。


 相打ち上等の一撃に乗せるのは、そんな友人から託された願いだ。




 雷属性の特質はその速さ。

 発動速度、射出速度、共に最強の属性。

 故に、身動きが取れず固まってしまい、そしてサポートと言うには範囲の広すぎる“この技”は、後衛であり、雷属性を得意とするミレアにとって相性が悪かった。



 しかし、ラビが弾き飛ばされて、その救助のためにレギーナが離れ、ルドルフは上空にいる今、邪魔は入らない。




 雷二級魔法レールガン


 その理論をもとに、妖精の属性操作、神威による自然操作、砂鉄を利用した磁力の増幅、そして限界まで練り上げた雷が、今ミレアの指先に溜まっていた。


 罪の神は回避しない。

 わかっていて拳を向けた。


 そして諸共受けるつもりで、その拳を放ったのだ。




 食らってもいい。

 それはミレアも同じこと。


 敵のように怪我は治らない。

 しかしそれも構わず、ミレアは一才の防御を捨て、攻撃のみに全力を注いだ。



 狙いなど定めない。

 その指先に、ただただ力を込め、恐怖も怒りも勇気も、全てを乗せた光が溢れ出す。

 拳が指に触れるその直前、光は質量を持ち、雷を走らせながら、その拳に突き刺さり、そして、





 (!!………………ああ)

 




 拳は、止まらなかった。

 拳は膨大な光を押し除けながら、勢いは死ぬことなく、地面へと突き刺さる。


 そして、割れる。

 衝撃に耐えきれなかった大地が、悲鳴を上げる。

 果てまで続くほどの亀裂が、その威力を物語っていた。



 圧倒的な破壊の光景。

 それを、ラビは上空から見下ろしていた。




 「ミレア姉………」


 「愚かだねぇ。差し違えて一体何に—————————?」




 拳が上がらなかった。

 大木の腕には痛覚がない。

 だから、異常としてそれを感知するのに、時間がかかってしまった。


 そして、それすらもミレアの策略。


 大地に突き刺さる拳の、()()()中で、ミレアの笑い声はこだました。




 「ふふ………さぁ、行きなさい」


 「最高にやってくれたな!!」




 血反吐を吐きながら、ラビは動かない肩に一撃を加えた。

 剣のように変質した両腕は、休むことなくその木を刻み、そして、

 



 「レギーナァッ!!!」




 最後の一太刀は、再びその腕を体から切り離し、




 「今度こそ、壊し尽くす!!」




 レギーナはまたも、その腕を粉々になるまで破壊をした。

 きっと治されるだろう。


 しかし、問題はない。

 その確信は、神威を感じ取れるものならわかっていた。



 腕を切り取られ、破壊した罪の神からは、確実に神威が減っていた。




 これこそが、この空間を維持するためのリソース。

 減るほどに、終わりは近づき、そして減るほどに、弱くなる。

 


 


 「どんどん削りましょう!!」


 「「おおッ!!!」」



 「くッ………」





 すぐさま腕を生やし、攻勢へ転じる罪の神。

 しかし、ここへ来てその巨体が仇となっていた。


 巨体故に、敵の動きの把握が難しく、また逃げ回る的が小さいせいでうまく当たらない。


 攻撃が、ブレる。

 そしてそのブレは、同様は心にも影響する。

 そして削られるほどに、リソースが消え、身体能力が下がっていく。


 攻撃力、速度ともに、既に2割以上削られてしまっていた。

 維持をするためには、この巨体を解除しなければならない。

 しかし、通常状態では、攻撃の用いる自然がリソースになり、壊されるほど削られていく。


 だから巨大化し、新たなリソースを出現させずに戦っていたのだが、このままだとそれは負け筋に繋がる。



 罪の神は、着実に崖へと追い込まれていた。





 「こんなはず………………こんなはずが………」





 追い込まれ、やがて正気すら差し出しそうになってくる。

 呻きながら振るう拳には、もはや恐怖だけが残っていた。


 冷静であれば、この戦いは何の苦労もなかっただろう。

 しかし、ここにいるのは戦いとは無縁の存在、神。



 人の土俵に立ったという最大の失敗が、とうとう残った正気を奪った—————————

 



 「………………………」




 しかし、それは決して、ラビたちにとって都合のいい話ではなかった。


 戦いにおいて、リソースの削り取りは自殺行為。

 だから、保守的な罪の神が正気のときには絶対にとらない行動がある。


 その最後の手段を、神は取ろうとしていた。




 「!」




 そして、それを誰よりも敏感に察知したのは、ルドルフだった。

 行動は迅速に、そして最善を。


 今彼は、誰よりも先を見て、駆け出していた。




 「殿下!!!」


 「!!」




 ルドルフは叫ぶ。

 この戦場で、あらゆる面において劣るルドルフが、唯一勝るもの。


 それは、戦の経験であった。


 決闘や討伐ではない。

 人を敵にして戦う戦争。


 ルドルフは、その面において、多くの経験があった。



 だからこそ、巨木の上で浮かべた神の表情を見て、悟った。



 あれは、自爆の兆候であると。

 そしてそれは正しく、急激に魔力と神威が膨れ上がり、罰の神の幹から、光が溢れ始めていた。

 諸共を消しさろうとする意思を、その経験は嗅ぎ取った。





 思考も、行動も早かった。

 譲り受けたグリフォンを手放し、ラビの元へ向かわせたルドルフは、端的に指示を、最後の言葉を主人に遺した。




 『殿下、2人の保護をお急ぎ下さい………自由を得たあなたを、お待ちしております。レギーナ様』


 『っ、ルドルフ—————————』




 国の威厳など、彼にとって二の次であった。

 彼の使命であり望みは主人を護る事。

 そして、ただひたすらに彼らの幸福だった。


 姉の不幸を嘆く妹を、ルドルフは見過ごせなかった。

 国を想い、家族を想い、命を懸ける姉をルドルフは見過ごせなかった。



 なんということのない、そんなありふれた事が、ルドルフがこのフェアリアにかけた願いだったのだ。





 勝利は叶わなかった。

 だが、希望は見えた。


 あとはただ、役目を果たすのみ。





 『後は任せた、お前たち』





 ブツン、と。

 凄まじい衝撃と魔力が、通信を断ち切った。

 そして、レギーナに護られたラビ達を、爆炎が飲み込んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ