第1418話
最近前書き後書きで連絡が多くて申し訳ありません!
1月は私用が多く、明日より少し投稿頻度を落とさせてもらいます(主に大学の試験や就職前の準備)
おそらく1月は4日に一度、場合によっては5日に一度に投稿になります。
妖精編終盤にも関わらず、投稿頻度を落としてしまって本当に申し訳ありません。
投稿はどうにか続けるので、何卒よろしくお願いします!
「さっきレギーナにボコボコにされたせいでモンスター達がぐったりでな。ワタシは現状1人なんだ」
「あ、謝らんぞ」
「別に怒ってなんかないですけどねぇ」
ぐるぐるとレギーナの周りを回りながら煽るラビだが、正直煽っている余裕はない。
しかし、特別余裕がないわけでもなかった。
切り札のないはずのラビはこうも余裕なことに、ミレアもレギーナも違和感を覚えていた。
「何か策があるんですか?」
「策略はないな。正面から倒すぐらいしか思いつかん。けど、それを可能にするかもしれない切り札を、たった今手に入れた」
レギーナを見ながら、ラビはそう言った。
十中八九経験値のことだと、レギーナは察しはつくが、切り札というほどには思えなと、怪訝そうな顔は消えなかった。
「勿体ぶらずに出してしまえ。時間を置くほど、奴が何をしてくるかもわからん」
「だな。そんじゃ、エル」
「はいなのです?」
「憑依召喚のその先、“魂合召喚” をする。そのために、師匠に送られたんだろ?」
目を丸くしたエルは、静かに頷いた。
聞き覚えのない言葉に、2人は首を傾げているが、説明の時間はない。
ラビはすぐにエルに手を差し出した。
「お前の魂、ワタシに預けてくれ」
「はいなのです!!」
その瞬間、ラビの手に触れたエルは、光となってラビの体に溶け込んでいった。
魂合召喚。
それは、罰の神直々に生み出した五色獣のみに許された、特別な憑依召喚。
肉体の強化を終え、外界では本来耐えられないほどの神威を扱える様になった今だからこそ、使う事を許された技。
『おかーさんが言っていたのです。これを使いこなせる生物迷宮が現れた時、私達の役目は終わるって』
「仮ものの身体だけどな」
『でも、可能性を見つけたなのです』
「ああ、そうだ。遅くなったけど、今こそ、ロゼルカ邸で叩き込まれた神威の修行の成果を見せてやる」
「—————————」
—————————ふと、寒気を感じた。
それはまだ不完全だった。
しかし、予兆は見えた。
かつて見た、不遜ながら神の座に手を伸ばす強欲で傲慢な人間の、その力の片鱗を。
罪の神が警戒を持つには、十分過ぎる動機だった。
「こんなところにもまだ湧いてくるか………天化人!!」
「動きだしたな………ラビを死守するぞ、ロゼルカ嬢!!」
「ええ!!」
天が轟き、大地の裂け目から凶悪な生命が、危険因子を刈り取るべく、その姿を見せる。
絶え間なく現れるそれを、稲妻と蒼い光が、瞬く間に切り裂いていった。
ついては消え、消えてはまた光が生まれる。
雄叫びと共に振るわれる細身の剣が木々を切り裂き、雷鳴が悉くを燃やし尽くす。
しかしなお植物達は止まらない。
異物を飲み込むべく増え続け、時には大炎を、時には激流を纏いながら、破壊を生み出した。
「さっきのは本気ではなかったか………温存しつつじゃまずいか?」
「いえ、まだ信じましょう。この鬱陶しい景色も、なんだか晴れそうな予感がしてます」
「はは、なるほど。では私の期待も気のせいではないらしい」
笑みはまだ消えない。
しかし、高みよりそれを見下ろす神は、次第にその笑顔が視界から消えていくのを見ていた。
再生が、創造が、破壊に優っていく。
弾ける様な裂創も、雷鳴も、木々の隙間からどんどんと見えなくなっていた。
取り囲まれ、音も薄れ、気配が遠のいていく。
「ヒトが神になるなど、あってはならないんだ。触れられないからこそ神。本来ならば、謁見することさえ叶わない存在なんだ」
そして、音は消え、植物たちのうねりも止まった。
捕食の後には何も残らない。
敵の消えた戦場を見て、罪の神は自覚せず安堵をしていた。
「絶対的存在でなければ、統治者としての役割は果たせない。その構図が、君達を守っているんだ。得られるはずの幸福を自ら捨てるのなら、死んじゃいなよ」
まるで言い聞かせる様に、祈る様に口にしたその言葉は、誰もいなくなったはずの戦場に静かに溶けていった。
しかし、願いは届かない。
神々の願いを届けるものなどいないと知っているのは、他でもない、彼自身なのだから。
「絶対的だって言うなら、今頃誰も彼も笑ってるだろ」
「!!」
覆い被さっていた植物から光が漏れ出す。
それは次第に溢れかえり、そして瞬く間に、全ての植物達を光が飲み込んでいった。
「くッ………」
驚きはなかった。
不完全とはいえ、彼は神を目指すヒトの執念とその力を、追われるものとしてよく知っていた。
彼の心はすでに、ラビを認めていたのだ。
「ヒト風情が………」
「口癖みたいにそう言うけど、そんなに変わんないんじゃないのか? ヒトも神も」
「何ィ………っ!?」
光を振り払い、炎を吐きながらその内から出てきたラビの口元は、龍のような鱗が浮かんでいた。
その竜の名はカイザードラゴン。
グリフォン同様、人間たちの中では討伐の記録すらない伝説の獣。
しかしその鱗はすぐさま水のように溶け、身に纏った法衣に溶けていった。
「神の法衣………兄者の衣か………しかし紛い物」
「そうだ。でも、真似はできた。ヒトは神に手が届く。じきにお前の喉元にも、ワタシの手は届くぞ」
「愚か者が………どうして君らは? 分不相応な力を得ようとする? 神の統治こそが安寧に繋がるのだと、何故理解出来ない!?」
やはり、罪の神は何の疑いもなくそう言った。
これに返答をする義理はラビにはない。
しかしヒトとして、治められるべきだと言われている立場として、真正面から言わなければならないことがあった。
「お前は本当に、神がヒトを完璧に導けると思ってるのか?」
「当然だ」
「それを本気で言ってるのなら、そんな神はいらねぇ」
「………………………本気で言ってるのか?」
それは罪の神にとって、初めてのことだった。
神を知っている人間に、真正面から神が不要だと言われた。
何の躊躇もなく、下と思っている人間に、存在を否定されたのだ。
ラビだけではない。
レギーナも、ミレアも、向ける刃下ろす気配はまるでなかった。
彼女たちに、迷いはなかった。
「治められないから誰かが傷ついてる。だからヒトには、神になる可能性が残ってるんだと思うぞ、私は」