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第1417話



 再び姿を見せた純白の世界。

 無の世界から木々が息吹き、天地が生まれ、それらは全ての罪の神の意のままに生き、意のままに死ぬ。


 まさしく神の権能と言うべき力だった。




 「コウヤ君の下位互換、と言ったところでしょうか」



 しかし、ミレアが操っていた力よりは遥かに強い力。

 強がり混じりの挑発にほんの一瞬反応を見せるが、罪の神もいい加減落ち着いていた。



 「………業腹だが、否定は出来ないねぇ。奴は不遜にも世界そのものを生み出し、操る力を持っている。しかし、重要なのはそこではないよん」


 「上に立てりゃそれでいいんだろ? わかりやすい神様だな」



 ケッ、と吐き捨てる様に言ったラビのセリフを肯定するように罪の神は手を叩いた。




 「その通り。重要なのは、(おれ)が絶対であり、君らが下にいること。この構図だ」




 陶酔する神を、誰もが冷ややかな目で見ていた。

 しかし、彼は気にしない。

 高いところから彼が見ているのは、その景色の高さだけであった。


 そして、そんな罪も神を、人一倍睨みつけている人物がいた。



 「だとよ、レギーナ。王族的にどうよ」


 「論外だな。我らが民の上に立つ理由は、その声を届けるためだ。誰もが見える場所で、誰しもを見守り、導くために我らは上に立つのだ。殻に篭った玉座など、形骸もいいところだ。それを貴様は…………恥を知れ、愚か者が」



 「神の価値観などヒトにはわからんさ。それに、じき君らは死ぬ」



 「っ………来ます!!」





 実感の籠った死の宣告。

 ハッタリではない。

 何かを間違えば、それは即座にミレア達の命を奪うだろう。


 だが、それを理解した上で、彼女たちは進む。


 間違えてはならないのならば、間違えなければいい。

 それをこなせるだけの修羅場は、とうに潜り抜けてきたのだから。

 




 ——————正念場じゃな、ラビよ



 「ああ。わかってる」



 ——————確実に、仕留めるのじゃ。




 ラビの眼を通して、かつての兄弟の()()()()()姿を見た罰の神は、淡々とそう告げた。




 この戦いの、二つの始まりのうちの一つ。



 罪の神と罰の神の争い。

 この争いが元で、妖精も生物迷宮も神を失った。


 共存していた彼らは、新たな日常へ進道と、新たな神を求める道へと別れ、交わることはなかった。

 それが、カラサワ・エイトの登場により、奇しくも交わった。


 そして、そのカラサワを生み出した元凶こそが罪の神。



 その神を前に、新たな罰の神の候補である生物迷宮の王、ラビが立っていた。

 罰の神も運命を感じずにはいられなかった。




 自身の犠牲の結果、後継ぎを決めるべく王の力が受け継がれ何百年と経つ。

 罰の神が知る限り、最もその座に近いものが、因縁の相手と戦おうとしていたのだ。




 ——————わかっておるか。此度の戦い、主役はそこのお嬢ちゃんだけではないぞ。



 「? まぁ、一族ぐるみに迷惑を被ったっていえばワタシもミレア姉同じだけど、流石に今度は主力をミレア姉に譲ってサポートに集中しないと………」



 ——————馬鹿者。気づいておらぬのか? お主も、ついでにそこな青髪のお嬢ちゃんも、経験値がだいぶ溜まっておるぞ?






 「な、に—————————」


 「ラビッ!!!」



 「!!」

 




 ミレアの叫び声でハッと気がつくと、ラビの視界は植物に覆われていた。


 尋常ではない速度の植物の生成。

 それはもはや、既にそこにいたかの様な異常な速度で攻撃を展開していた。


 しまった、と。

 動き出すにももう遅い。


 表情のみが動き出し、遅れた体は植物に絡め取られ—————————








 「!!」


 





 —————————そして、突如天へ駆け上る流星に、気がつくとラビは身を任せていた。


 超速度を感じ取り、開けた視界に映っていたのは、遙か地上にて引き裂かれた無数の木々。

 見上げると、凛々しい顔の少女が、微笑みかけていた。




 「全く………そそっかしいな、お主は」


 「レギーナ、今のは………」


 「私は君の配下を、君は私を倒し続けて、どうやら経験値が入っていたらしい。使わせてもらったよ」


 「おお………その様子だと分配は………」



 もちろん、と。

 レギーナはそのこだわりを口にした。




 「全ブッパ。フルスピードだ」




 抱き寄せているその腕に力が入り、ラビはドキリでもビクリでもなく、ギクリとした。

 ひたすらに、嫌な予感だ。


 レギーナはニヤリと笑いながら剣を掲げ、そしてラビの予測を証明する様に、動き始めた。




 「では試させて貰おうか」




 その瞬間、ラビの視界はひっくり返った。

 それはページの抜けたアニメーションの様に、空は地面へと変わり、恐ろしく巨大な植物の群れは、木屑へと変わっていた。

 人智を超えた超速度。

 植物達の再生速度を、その“無限”すら上回ると言わんばかりに、レギーナは瞬く間に地上を更地にしていった。




 「ああ、やはり良いな、速さというのは」


 「楽しいか?」


 「不謹慎ながらな」


 「うはは、まぁ世界を救ってんだ。多少は多めに見られるだろ………どの道、今のでも厳しそうだしな」




 そう、植物だけではない。

 土や岩、火や水も操る罪の神からすればこれは序の口。

 まるで探られているような気味の悪さが、2人には嫌に不快だった。




 「いかがでした? 殿下」




 地上にいる間、ルドルフに詳細を聞き、対応を改めたミレアは丁寧な口調でそう言った。




 「殿下はよしてくれ、ロゼルカ嬢。王族とて、ここではただの一戦士だ」


 「そうするべきと思っているまでです。祖国のため、自ら戦われていることは誰がなんと言おうとご立派なことです」


 「………ふふ、そうか。では、王族としての命令だが、せめて普通に話せ。むず痒いのでな」


 「!………これは、一本取られましたね。であれば、従いますよ、レギーナ様」




 仕方ない、とミレアは再び対応を改めることを決め、余裕綽々な罪の神に注目をした。




 「あの速度を見ても、あの余裕です。多分何かあるんでしょう」


 「ああ。薄気味悪い」


 「んじゃ、まずそれを引き摺り出すところから始めるか。おっちゃん」




 そうルドルフを呼びつけると、ラビは百鬼夜行の中で唯一まだ動けるモンスターをルドルフの傍に呼び出した。




 「な、なんだ?」


 「ああ、こいつはグリフォンのフォン太郎だ」


 「ぐ、グリフォンだと!?」




 空を翔ける獅子、グリフォン。

 近接、遠隔共に優れ、目立つ弱点のないモンスター。

 しかし器用貧乏ではなく、均一に伸びるステータスのいずれもがモンスターの中でも非常に高い数値を持っている。


 要するに、化け物だ。




 「上空からサポートを頼む。攻撃よりは補助に回ってくれ」


 「機会を与えてくれるのは願ってもないが、しかしお前はどうする? モンスターを使役して戦うのだろう?」


 「いや。事情が変わった。たった今経験値を割り振ってな、良いこと思いついたんだ」




 子供の様に笑い、しかし大人どころかどんな戦士も顔負けな凄まじい魔力と神威を放ちながら、ラビはそう言った。




 「やるぞみんな。まずは、あいつの力を引き出させるんだ」

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