第1416話
あけましておめでとうございます。
桐亜です。
今年も張り切って頑張って行こうと思います!
というわけで、投稿再開です!
「師匠達の気配が消えた………………この感じ、ダンジョンに入ったな」
目を瞑り、周りに意識を集中させていたラビはカラサワやケン達の異変に気づいていた。
まだまだ不可解なこともあるが、少なくとも、この戦いにはまだ勝ち目があることは疑うべくもない。
希望はあると、小さく笑っていた。
「ラビ、そなた気づいているか? やたらと大きな気配がきているぞ」
「当然。そんで、アレはワタシらが倒すべき敵だ」
「アレをか………」
小さく汗を滴らせるレギーナ。
その隣にいるルドルフは、顔を青ざめさせていた。
騎士道を理由に剣を掲げるのは簡単だ。
しかし、それに意味がないことを、彼自身すでに悟ってしまっていた。
「申し訳ございません、殿下。私が出来るのは、精々レッドカーペットの身代わりしか………」
「そいつも不確実だぞ、おっちゃん。管理者に逆らってるってのに、レッドカーペットのペナルティが来てない以上、能力もどうなるか………」
「それは大丈夫だって、ご主人様言ってたのです」
「「「!」」」
言葉よりも先に、殺気を感じとり、3人は振り返った。
着地と同時、人間体へ即座に変身するエルだが、振り返ることはなく、敵の方だけをまっすぐ見ていた。
「エル………何かあったのか?」
「ほんのちょっぴり、大事なことがあったのです」
少し赤くなったエルの目と合い、ラビは少し言葉を詰まらせた。
そしてそのエルは、まっすぐ、自分に託された使命を見据えていた。
難しい話を聞いた。
それは大事な話だった。
しかし、それが何かを変える事はない。
自分のやるべきことに、わずかに願いがそえられた。
ただそれだけのこと。
でも、決して忘れてはいけないことだった。
「ラビお姉ちゃん」
「ん?」
「頑張って、みんなで生き残るのです」
「………ああ。もちろん」
生き残る。
それを口にはするが、果たしてそれは叶う願いなのか、それを疑ってしまいそうになる災いが、次第に姿を見せ始めた。
驚くのは一瞬。
その姿が、見知った妖精のものとなって、ラビもエルも目を見開くが、そんな事がどうでも良くなる程に、脅威が全てを凌駕した。
圧倒的な魔力と神威。
人間離れしたその威圧感は、まさしく異次元のもの。
「化け物だな………」
「違う。神さァ」
言葉を受けるだけで、一斉に武器を取り出してしまう。
攻撃ではなく、防衛。
本能がとる、身を守るための行動だと気づき、一同は絶望的なまでの差に戦慄した。
「しかし、格上ということを認めているそのわずかな賢さに免じて許してあげちゃおう。神は寛大なんだ」
「格上か」
「そうさァ。だから安心して跪くといいよ。そうすれば、神の治める世界の、栄えある最初のヒトとして君らを………」
「これはいわゆる下剋上って奴だな」
張り付いたような笑顔の端に、青筋が浮かんでくる。
もう何度目だろうか。
今日だけで彼は何度人間にコケにされただろう。
言葉はどうでもいい。
しかし、従わないことだけは許せなかった。
何故なら、その従わない人間のせいで、彼は長きに渡って苦渋を舐め続けたのだから。
「あっはっはっはっはっはっは!!!! あああああああああああああああああああああああ!!!!!! もう沢山だ!!! 最初のヒトなんぞもうどうでもいい!! そうだ………ヒトの雌はただの子を産む装置にすればいいだけのことだった。そうだ。ハナから間違えていたのだ。教育を失敗した奴らなどこの先の世界に不要なんだ。ははは、何で神ってばこんなことに気づかなかった? 妥協する必要はないんだ。神は神なんだ。神が、神こそが………この世界の、絶対なんだ」
笑顔が戻り、そこには穏やかな顔をした神がいた。
「遺言は唱え終わったか?」
「弔辞の間違いだろう? たった3人で何が出来る?」
小物臭の強い発言とは裏腹に、その言葉には確かに説得力があった。
敵はあまりにも強い。
分不相応な力を持ちながらも、油断なく殲滅することを決心されてしまった以上、隙はない。
だが、それでも希望がないわけではなかった。
「では、4人ならばどうでしょう?」
「「「!!」」」
「………………ミレアァ!!」
「あら、これは嬉しい誤算ですね。あの気色の悪い喋り方が消えてくれています。それに………」
ミレアは、ジッとラビを見据えた。
凄まじい神威と魔力を感知し、その才能にはやはり舌を巻かされていた。
神の力を借り、仲間を裏切ってまで力を得た自信とは違い、彼女は真っ当に強くなり、そして同じ高みまで上り詰めた。
だが、もう嫉妬はしない。
元より、なりふり構わず嫉妬をする訳ではない。
絶対に負けたくない相手を自覚し、醜さも、自分の持つ妬みも受け止めたミレアは、穏やかな顔でラビにこう言った。
「本当に………見違えました。強くなったんですね、ラビ」
「ミレア姉!!」
「ふふ、嬉しいですが、再会を喜ぶのは、後にしましょう。談笑は、神殺しの余韻に浸ってからでもいいでしょう」
物騒なことを口にしながら、ミレアは砂鉄を操り、無数の球体を作っていた。
外界にいた頃の戦闘スタイル。
既に、ミレアは臨戦体制だった。
しかし、それも決して早いわけではない。
ミレアの“眼”は、罪の神のどす黒い殺気の中で動いている策略を、しっかりと感知していた。
「アルティマシード………でしたっけ?」
「! そうか。妖精王の眼があったんだったね、君」
「どうせ免れませんからさっさと出して下さい。一刻も早く、この不愉快な戦いを終えたいので」
真価を発揮することなく役目を終えたアルティマシード。
今度はそう上手くもいかないだろう。
ならば早めに出させるのみ。
そして罪の神としても、もはや出し惜しみする意味もない。
両者の意思は奇しくも合致し、それは間違いなく地獄へと向かっていた。
「じゃあ………………今度こそお望み通り見せてあげるよん。全ての自然の、祖となり得るその力を」