表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1419/1486

第1413話


 身体がふわふわ浮いている。


 身体は動かないし、動かそうとも思わない。

 ひどい倦怠感が、全身を絡め取っている。



 そうしているうちに、気がつくと自分を見下ろしていることに気づいた。

 本当によく出来た身体だ。

 でも、もう消え掛かっている。

 本当の私に帰る時が来たらしい。



 仲間はまだ戦っているけど、ここで退場だ。

 “お土産”を受け取ってくれるか心配だし、この先どうなるかもわからない。



 でも、不思議と満足していた。


 やっと、やっと救えたんだ。

 負けちゃったのは悔しいけど、でも、それ以上に嬉しかった。

 ミレアちゃんは、あの時からやっと本音を見せてくれた。

 そして、その上で私を守ってくれたから、私は妖精たちに殺されずに、ミレアちゃんを助けることが出来た。



 認められたみたいで、すごく嬉しかった。





 もう、きっと大丈夫。

 後はみんながどうにかしてくれる。


 コウヤくんは気掛かりだけど、それでも、私は胸を張ってこのフェアリアを去れる。






 弱くなるだろうか。


 ………ううん。

 多分それは大丈夫。


 これまでの私の力は、神威の力。

 扱い方さえ覚えていれば、元の身体なら今まで以上に使いこなせる。


 切り替えないと。

 休めないのはちょっとだけ辛いけど、そうも言ってられない。



 私にはまだ、助けなくちゃいけない人たちがいるんだ。




 「………私も頑張るから、だからミレアちゃんも——————」









——————————————————————————————











 「リン………フィア………」




 気がつくと、その名前を口にしていたことにミレアは驚いた。

 そして思った方に手を伸ばすが、そこには誰もいなかった。


 しかし、




 「………!」




 やたらと重い体を引きずって、世界に空いた穴のそばに向かう。

 そこには、見知った魔力の残滓と、文字が書かれていた。




 「これ………」




 そこにはただ一言だけ、アイテムボックスと書かれている。

 そして、その意味はすぐに理解できた。


 もしやと思い、魔法でボックスを開いてみた。

 すると、




 「………あった」

 



 そこには、外界で使っていた数々の魔法具その他アイテムが収納されていた。

 外とのつながりが出来た為に、リンフィア同様アイテムボックスが使えるようになったのだ。



 これは戦利品。

 因縁の対決の末得たのは、勝利への快感でも、敗北への屈辱でもない。


 この手のひらにあるものが、この戦いの全てであり、答えだった。

 ミレアは託されたのだ。

 あれだけ酷い事を言って、あれだけ傷つけてなお、リンフィアはミレアを友人だと慕った。

 

 力では勝つことが出来ても、ついにミレアはリンフィアを打ちのめすことは出来なかった。




 「私は………負けたんですね」




 口にして、ほんの少し死にたくなる。

 そんな凄まじい喪失感の後に現れたのは、暖かさだった。

 

 突き放し、刃を握っていた筈の手には、いつの間にか暖かい手が握られていた。




 

 「諦める気はないけれど、でも………………今は、私の負けよ、リンフィア。後は、任せなさい」





 最後の敵に目を向ける。

 地団駄を踏み、子供のような癇癪を起こす神の前に、カラサワは立っていた。




 「くそッ!!クソォオオッッ!!!! ヒト風情が、ヒト風情が!! ヒト風情がァアッッ!!! この(おれ)に向かって!!!」


 「君の負けさ。受け入れなよ」



 表情はなかった。

 嬉しいとも何とも思っていない。

 カラサワにとって、罪の神はもはや心を動かしえない端役であった。


 しかし、そんな端役でも役割はあるのだと、その利用価値に対して、再び笑みを浮かべた。




 「………受け入れ難いよね。誰しも、許容できない事というのはある」


 「ァア!?」


 「すぐにでも僕に力を返してくれるなら、助けてあげるよ」


 「だっ、誰がヒトなんぞに………」




 明らかに歯切れが悪い。

 何かを探るようであり、すがる様にも見えるその目を見て、カラサワはニタァっと笑みを浮かべた。


 では、こうしよう、と。




 「だったら、契約はどうかな?」


 「け、契約?」


 「うん。力さえ与えてくれれば、僕は君を神として奉ろう。力を振るうのは僕かもしれないけれど、しかしいずれ生まれるこの地の人々の信仰の対象は君だ。全ての信奉、全ての崇拝は君のもの。僕はその影に徹するよ」


 「誰が信じ—————————」


 「僕は兄と、兄と共に作るゲーム以外以外どうでもいい。だから裏切ったんだってことを知っている君に、それ以上の説明がいるかな?」

 



 罪の神は、何も言えなかった。


 否、言わなかったのだ。

 ここで否定する事を、罪の神は拒絶した。



 罪の神はむしろ、言い訳を探していた側だった。

 どうすれば、この男の協力を得られるのか、そして同時に、神としての威厳を守れるのか。

 それだけが、頭の中を巡っていた。


 体裁さえ守れれば、それでよかったのだ。

 この神に取って、プライドとは本質ではなく、見てくれなのだと、カラサワは十分に理解していた。




 ではなぜ、そんな回りくどい事をカラサワはやったのだろうか。

 殺して奪えばそれでしまいだ。

 そうすれば、簡単に力が手に入る。


 なのにこんな事をした理由は、間も無くやってくる敵に脅威を感じたからに他ならなかった。



 何より、今ミレアと罪の神が手を組めば、瞬殺は叶わない。

 そして、その上でケンが来れば、流石に詰む。



 これは最適解だった。

 この弱みを握るほどの余裕が今の罪の神にはないと理解した上での、完璧な策であり、そして、魚は餌に食いついた。




 「………いいだろう。その契約、結んでやろう」


 「ふふふ。そう来なくっちゃ—————————」





 その一言を皮切りに、管理者カラサワ・エイトは、復活を果たす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ