第1411話
遅れてしまい申し訳ありません!
「移す、か。可能なのかな?」
と、罪の神に尋ねるカラサワ。
何事もなかったかのように、平然と聞いてくるカラサワを睨む罪の神だが、渋々といった様子で答えていた。
「………可能ではあるさ。何せ、神を祀る種族の王であり、かつて直接神威を授けた数少ない存在だ。でも嫌だねぇ。羽を失い、格落ちした王は、神に相応しくない………!!」
投げつけれる敵意に、うんざりするようにクルーディオはため息をついた。
予想通りであった。
徹底した差別主義。
外見や形式というものに囚われた、人間嫌いの人間らしい神。
それが、クルーディオから見た罪の神の評価だった。
「やれやれとんだ厄病神だ。………と言うのに、そう嬉しそうな顔をするものではないよ。リンフィアちゃん」
「すみません。でも、このリベンジの機会は、私にとっては朗報ですから」
ギロリ、と。
カラサワを睨むリンフィア。
すると、
「ははは。邪魔なんかしないよ。僕どっちでもいいから。ミレア・ロゼルカの肉体であろうとも、クルーディオの肉体であろうとも、何も関係ない。楽しく観覧しておくよ」
そこまで言うと、カラサワは何処かへと姿を消した。
「あれは警戒はしなくてもいいですか?」
「問題ない。だから、今は集中しなさい。すぐに倒してすぐに戻らなければ、間に合わないよ—————————」
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これは数分前、コウヤたちの元へ向かうリンフィアに、クルーディオが合流した時の話だ。
再開に驚き、挨拶もほどほどに軽く言葉を交わした後、リンフィアはクルーディオから衝撃の事実を聞いた。
「………………………エヴィリアル帝国が、進軍を!?」
故郷である魔界の帝国が、人間界への軍事作戦を展開しつつあると、聞いてしまったのだ。
「そんな、早すぎます!! ここでの時間は外よりずっと早いって………」
「システムとやらが壊れて異常が起きたのだろう。既に外では1年半が経過している」
「1年半も!?………………………っ、でも………」
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すぐに行くことも出来た。
しかし、見過ごせないものが目の前にあった。
本音をぶつけ、ようやく分かり合えた大事な友人。
追い立てられてもなお、愛おしい家族との思い出のある大事な故郷。
天秤は釣り合う。
でも、目の前で救えるものがあるのならばと、リンフィアはまず、ミレアを救うことを決めたのだ。
「………わかっています。ミレアちゃんも助けて、帝国も止める。だから今度こそ、正真正銘の全力であなたを止めます。神様」
黒紅の魔力が、昂る。
殺気は踊り、狂ったように辺りを巡る。
只人であれば、存在すら叶わないその空間に立つのは、王と王。
しかして、友。
向けられた殺気はただ一点に向かい、研ぎ澄まされる。
そして舞台は、整った。
「その子は………あなた如きには勿体無い」
「ヒヒハハハハハ!!! どいつもこいつも不遜!! 神は、この世界の絶対者だぞ!!」
無邪気に、邪悪に、神は力を振るう。
天変地異………ではない。
ミレアの時とは異なり、静かに、しかし劇的に環境は変わる。
自然の操作ではなく、創造。
2名を取り囲む環境はみるみる形を変え、崩壊した世界の影すら残さない。
取り囲むのは純白の壁面。
漆黒の大地。
禍々しいまでの魔力と神威を放つ、その小さな闘技場を指し、神はこう言った。
「これはかつて、神々がこの世界の自然を生み出した際に生み出した空間。あらゆる自然の情報を持つ一つの大きな種。始祖の種。その内部だ」
「すごいこと、なんでしょうね」
「だから一介の半魔如きがお目にかかれたことを光栄に思うといいよん」
「なんだか粉々にするのが申し訳ないですね」
くすくすと、笑いながら飄々としているリンフィアが、罪の神は気に入らなかったのか、あからさまに笑みが消えた。
「いちいち腹を立てて………難儀な性格ですね。神っていう自負があるからですか?」
「自負? 違う。摂理だ。ヒト如きが神を前に嗤うなど、世の理に反している。だから不遜だと言ってる」
話の通じなさ、否。
根本から有りようが違うのだと、リンフィアはここで諦めた。
神とヒト。
所詮は相容れない存在だと諦めるのは早計だが、少なくともこの神については、もはや分かりあうことはない。
ゆえに、決別と敵対の意を込め、リンフィアは拳を構えた。
「世界にも、神にも、勝手振る舞ってこその魔王だと、そう思ってください。少なくとも、今から私はそうします」
「………………? なんだ、それは」
リンフィアは決めていた。
戦うつもりはない。
ただ、一撃だけを当てると。
全力でも倒しきれないのは、これまでの経験上理解していた。
しかし、致命打に限りなく近い一撃を与えられることも確信していた。
そのために必要なのは、武器。
素手では弱い。
魔力を収束させ、一撃を増幅出来るような圧倒的火力が必要だった。
—————————ふと、それはよぎった。
心当たりはある。
しかしどうだ?
手に入りそうか?
否と首を振るも、偶然にも世界が壊れかけてると来た。
だから、もしかしたら、と。
リンフィアは一か八かをかけ、とある魔法を使った。
それは単なる思いつきだったが、しかしなんと、“空間は”繋がった。
唱えた魔法は別の空間を開き、“それ”を取り出した。
それは異世界の武器。
そして、この逆境をひっくり返しうる鍵。
魔法銃だ。
「ごめんなさい、ケンくん。また、もう2丁作ってください」