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第1404話



 「ば、か………なァ」



 満身創痍のピクシルは、変異したジルの腕の中でうめき声をあげていた。

 カイトの民は既に亀裂から脱出し、スプリガン達も逃げ去っている。


 廃墟となり、原型すらないカイトに残っているのは、ジルとピクシルのみであった。




 「貴様ノ敗因は、そのプライドの高サ故ニ、デバッガーとなることヲ拒んだ事ダ」


 「誰がそんな醜い姿を望んで得るものか!!」


 「ククク………よく言ウ。中身は既に醜く汚イというのニ、今更外面ヲ気にすルとは、滑稽極まりナいな」



 「なに、ィあがぁあああああああああアアアアッ!!!?」




 巨大な手に握り潰され、みっともなく涙も涎も撒き散らし、ピクシルは絶叫した。

 こだまするその悲鳴を聞いて、ジルは心の底から満足そうの笑っていた。




 「はっはっハ、悪党に相応シい末路ダナ」


 「ぁ、あ………悪、と………だと………………このゴミムシが………正義の味方でも気取ったつもりかァッ!!」


 「いいヤ別に? むしろ立場だけデいえば、曲がりなりニも一族の繁栄のため戦う貴様ノ方がずっと正義ジャないか? そして俺はそんナ正義もドキの悲鳴を聞イテご満悦だ」



 再び握りつぶす。

 まるでおもちゃのようの握って音を鳴らしては、ジルは壊れたように笑っていた。


 そして、



 「あ、そウだ」


 「………………?」



 ポリゴンの肉体から、スッと小さな手が伸びる。

 その手はピクシルの背に乗った羽根を握った。


 悪意の蔓延するこの場にいおいて、この先にとる行動が一つしかなかった。



 「や、やめ………」



 「俺はもウじき死ぬ。ダから、お前の悲鳴をレクイエムにして、せいぜイ安らカに死ぬトすルよ」



 ぶちぶちと、引きちぎれる音が聞こえる。


 そして数秒後、悲鳴と共にちぎれた小さな羽が空を舞うとき、再びジルはピクシルを握りつぶした。






 「あと数十分、冥土の土産を豪華に盛り付けてくれよ。クソッタレ」












 ここが、フェアリアにおける前哨戦、残る一戦。

 長であるコウヤとの決戦を除いた、この戦いにおける最後の一戦であった。

 各地で巻き起こっていた戦いは既に終わり、残すところはコウヤのみ。


 今、戦いを続ける全ての勢力は、コウヤと罪の神が集う場所に向かおうとしている。




 そして奇しくも、各地に残った歴史の生き証人達が、このフェアリアの過去について、口を開こうとしていた。








——————————————————————————————









 「ふぅ………やっと逃げましたか」




 スプリガンの軍勢と交戦していた生物迷宮の老婆は、逃げ去っていくスプリガンを見て、ようやく一息ついていた。


 白紙化以前、力が統合する前に名を奪われている老婆は、名の復活を果たしたわけではないが、変わりゆくフェアリアを見て、状況を理解していた。




 (コウヤが解放された………と思いたいところですが。あちらから漂ってくるこの魔力………そう上手くはいきませんね)




 しかし、状況の好転に変わりはない。

 敵は軍勢を失い、味方は同じ場所に集結しつつある。

 老婆の向かうべき場所も、自ずと決まっていた。



 「向こうまで、少しかかりそうですね」


 「退屈かしら、カドラ」



 老婆を乗せている竜はあくび混じりに頷いた。



 「ふふふ。じゃあ、退屈凌ぎに、少し昔話でも聞かせてあげましょうか—————————」











——————————————————————————————
















 「よし、出るか」




 スプリガンの山の上で、無傷のベヒーモスは仁王立ちしていた。

 人格があるとはいえ、ベヒーモスも大別すればモンスター。

 脳ではなく魔石で思考する体質ゆえに、幻覚が効かないのだ。




 「うぅ………」


 「運が悪かったな、スプリガン共よ。お前達では私には勝てんよ」


 「ベヒーモス………」




 お。と感心するように声を上げるが、有名なのも当然の話。

 五色獣ベヒーモスは、主神がいないとされる妖精にとっては、妖精王と同じく信奉の対象なのだ。




 「何故………テメェみてぇなのが………俺たち妖精に………」


 「ん? ………ああ、そういえば、我ら五色獣は妖精の守り神だと妖精界では伝わっていたんだったな。では休憩がてら、少し面白い話を聞かせてやろう—————————」










——————————————————————————————













 「お?」




 体力を使い方したラビは、ルドルフに背負われてコウヤの元に向かっていた。

 ルドルフの負担を減らすためだが、子供の姿に変化していたラビは、少しばかりその姿を懐かしんでいた。


 この、夢の世界で。




 「きをうしなったとおもったら、よびだしか。じっちゃん」


 「おぉ、懐かしい姿じゃのう。じゃが聞き取りずらいから少しばかり成長させるぞ」




 罰の神が指を振ると、3歳前後であったラビの姿が、10歳ほどにまで成長した。




 「で、どうしたんだよ」


 「なぁに。この戦いも佳境じゃ。この戦いに繋がる昔話をかたるにはいい機会と思うてな」


 「寝てていいか?」


 「1人で喋れってか!?」




 そう言われると、面倒くさそうにしながらもラビは罰の神の前に座り込んだ。


 ああはいったが、全く興味がないわけではない。

 疲れた身体を起こすくらいには、重要だと理解はしていた。




 「昔話ってのは?」


 「罪の神の誕生。そして、今記憶がリンクしている故得た新たな記憶………コウヤにまつわる話じゃ」


 「!」




 始まりは数千年以上にも遡る。


 それは生物迷宮の隠居や、妖精王の誕生、そしてこの戦いの始まりとも言える、カラサワ・エイトとコウヤの話、そして今にまで繋がる、長い長い歴史の話であった。





 「まずは、ワシの弟………今は罪の神となってしまったあやつについて語ろうか」

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