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第1403話


 本心は隠さなければならない。

 自分の中にあるあまりにも利己的なものを隠さなければ、全てが崩れるような気がしていた。


 曲がりなりにも王女として、レギーナは正しくあろうとしたからこそ、本心を隠したのだ。



 だが、今目の前にいる友人は、そんなこともお構いなしに、本心を引き出そうとしてきていた。



 邪魔だった。


 不快だった。


 折角してきた我慢が台無しだと—————————そう思った時には思い知らされる。





 それは所詮、【我慢】だったのだと。





 「下らない理由で閉じ込められて、誰も味方をしてくれなくて、そんな場所から抜け出したいから戦ってきたんだろ!? それの何が悪い!!」





 それでも、簡単には引き下がれない。

 レギーナは、ラビの肩を掴み返して、ボロボロと泣きながら叫んだ。






 「だって………………そうしないと、王女という立場がないと、誰も私を必要としてくれないじゃないか—————————!!」














——————————————————————————————















 初めは何も感じなかった。


 上も下も知らないから、現場が不遇かどうかの区別はつかない。

 ただ、自分は厄介者で、王家に守られているという自覚はあった。

 だから、そんな自分を守ってくれる王家に、レギーナは少なからず恩を感じていた。



 王家を守りたい。

 これは本心だ。




 でも、それ以上のものを望むようのなったのは、きっと—————————



















 —————————お姉様!






 目を瞑れば、未だに思い浮かぶ妹の姿。

 私にとって、始めて対等に接した相手。


 不思議な生き物だった。

 自由気ままで、わんぱくで、いつもニコニコしていた。


 無愛想で最低限の会話しか交わそうとしない従者たちとは似ても似つかない。

 でも、不快ではなかった。




 むしろ、楽しいと思えた。







 だが………同時に嫉妬もした。

 なぜ、自分はこうじゃ無いんだろうか。


 こんな出会いを、妹は自分よりももっと多くしているのだろうか。


 妹だけではなく、外の世界はみんなそうなのだろうか。





 自分は、もしかして不幸なのだろうか。







 動物は、一度人の血の味を覚えれば、人を襲うようになると言う。


 知らなければ、その先はない。

 でも、知って仕舞えば、嫌でも求めてしまう。



 そんな飢えを覚えてしまってからは、この生活は地獄だった。





 恩を返したい—————————そして触れ合いたい。


 役に立ちたい—————————そして褒めてもらいたい。




 正しさに欲がついて回るようになって、自分が嫌になった。

 でも、求めずにはいられず、しかしその渇きは籠の中で満たされることは一切なかった。




 だから、このフェアリアはオアシスだった。





 ようやく役に立てる。

 人と触れ合える。

 褒めてもらえる。


 望んだものが全てここにはあった。




 王になって何かをしたいわけではない。


 それを叶えるために、王になりたかった。


 私にとっては、なんでも良かったのだ。





 でも、それだとみっともないから、苦しくなるから、いつの間にか、本心だったものを建前として、全てを心にしまいこんだ。




 けれど本当は、もしも叶うのならば—————————












——————————————————————————————










 「どうして誰も、私を見てくれないんだ!!!」


 


 振りかぶった拳を見て、ラビは静かに目を瞑った。

 そして、微動だにする事なく、それを頬で受け止めた。




 「!」


 「やっと、本心を話したな。馬鹿野郎」




 ラビは腕を掴み、それを下ろさせると、そっとレギーナを抱きしめた。




 「お前は、自由に生きるために戦っていたんだな」


 「………王家を救いたいのも嘘じゃないんだ。父にも、妹にも、私は報いたいんだ」


 「そっか。それもいいじゃないか。やりたい事、いっぱいあるんだろ? 隠さず言えよ。そうすれば、ワタシもお前に手を貸せる。友達だろうが」


 「!………ぅ………ぁ」







 壁は、ようやく崩れ去った。


 既にそこには戦意はなかった。

 この戦いの決着は、静かについたのだった。




 「で、ルドルフのおっちゃん。この後どうする?」


 「………ぇ」




 泣き腫らしたレギーナが振り返ると、陰で2人を見守っていたルドルフが、バツの悪そうな様子で姿を見せた。




 「お前ぇ、騎士なんだからもっとちゃんと支えてやれよな。本心には気づいてただろ?」


 「そう言われると弱るな」


 「え、な………」




 というのも、ルドルフが見抜いていると知っていたのは、ケンが最初だった。

 ユグドラシルの拠点で顔を合わせて、ケンは既に殆ど確信していた。


 王家の威信を取り戻すなど、二の次でしかないと。




 「フィリア様は、いつも殿下の話をして下さっておりました。いつか、外で自由に2人で遊びたいと、寂しそうな顔で申されるのです」


 「あの子が………だが、もう………」


 「私のような者ではお心を支える事は出来まいと思い、せめて王の座を手に入れようと戦いに挑んだのですが………全ては私の力不足ゆえの敗北。死ねと申されれば、この命、喜んで差し出す所存です」



 「そう深刻に捉えんなよ、2人とも」




 頭の後ろで手を組み、のほほんとした様子でラビはそう言った。




 「要するに、力を得てそれを持ち変える事で、表に顔を出せるくらいの功績が欲しかったんだろ? だったら師匠がどうにかしてくれるさ」


 「!? そ、それは本当かッ!?」




 ルドルフはものすごい形相でラビに詰め寄った。

 流石にうっとおしかったので、ラビはその顔面を押し除けながら、その問いに答えた。




 「ああ。今師匠は、コウヤが外界で暮らせるようこの肉体を外に持ち出そうと頑張ってる。何でも、現実を改変する力ってのを手に入れたらしい」


 「現実を改変とは………あの少年、もはや何でもありだな………しかし、それが本当なら、」


 「レギーナは今の強さのまま人間界に帰れる。三帝クラスの力があるんだ。国も手に終えんだろ。唯一制御し得るうちの師匠らはどうせお前に付くだろうしな………だから、」





 ラビは遠く離れた場所にいる凄まじい力の気配を感じる方角を向いた。


 そう、全てはこの戦いに無事勝てばの話。

 逃げろとゲロさんは言うが、間違いなくケンは逃げないと、ラビは確信を持っていた。




 「あの大馬鹿野郎を、みんなでぶん殴りに行かなきゃだな」




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