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第1402話



 「………………」


 「もうそろ終わりか。ディアブレイズの方もサラマルのおっちゃんが名前を取り戻したから、今すごい勢いで敵がやれててるっぽいし」




 ほいっと、ラビは指を振って展開していた暗闇を解除した。

 周囲の敵も、ようやく出てきたラビ達に気づいて急いで構える。

 しかし、それも数人。

 押され気味のディアブレイズの救援に向かったのだろうと、ラビは推測する。


 そして残ったのも、構えの遅さから取るに足らないとラビは判断した。




 「お前ら、ここで死にたくないならさっさと消えろよ」


 「「!!」」



 ラビ自身から放たれる異常な魔力と、周囲に侍られている明らかに強い魔物数匹。

 レギーナにとっては十分倒せるモンスターであっても、他からすればそうでもない。


 魔獣の人睨みに足を竦ませ、みっともなく背中を向けて一目散に消えていった。




 主人が負けた軍などこんなものだろう。

 そもそも戦意は消えていた。

 フェアリアの惨状から、彼らも負けは理解している。


 が、それはそれとして逃すつもりはないので、背中を向けて無防備になった瞬間、ラビはモンスターを差し向けてレギーナの方に向き直った。



 だが、レギーナに反応はない。

 遠くで味方の悲鳴が聞こえても、抜け殻のようにただただ俯いていた。




 「やめるか?」


 「………」


 「この通りワタシはまだ戦えるけど、お前はどうしたい?」


 「………」




 これ見よがしにため息をつく。


 動かない理由を、ラビはわかっている。

 既に世界は壊された。

 ゲームは成立せず、ミラトニアに持ち帰るものは何もない。


 ここで得た力も、じきに消えていくだろう。



 異世界人に奪われた、王家の威厳を取り戻す。

 その夢はもはや潰えた。





 「はーあ。戦わないならもう行くぞ。コウヤをぶっ飛ばさないとだからな」


 「………………コウヤ………」


 「そうだ。お前も来るか? 賭けに負けたって認めるなら、約束通り連れてくぞ」




 声を出したと思ったら、再び黙る………が、どこか何かを言いたげにも見えた。

 だから、少しだけラビは歩み寄った。




 「行くか?」


 「………………行っても、何も変わらぬだろう。既に私は全て失った。もはや戦う理由はない」


 「そうなのか。ま、いいや。どうせ賭けもうやむやだし。後で迎えに来るから大人しくしてろよ」




 魔法具を取り出して、とりあえず連絡の確保を図るラビ。

 すると、ここにきてレギーナは自ら言葉を発した。




 「羨ましいよ。そなたが」


 「? なんで?」


 「その自由さがだよ」


 「そうかなぁ。ワタシもここじゃお前ものびのび出てたと思うぞ」


 「そうだな………でも、もうじき消える。そうすれば、私はまた籠の中だろう」


 「………………」




 妖精の血を引く王女。

 字面でもわかるスキャンダルの塊のような存在だ。


 籠というのもわからないでもない。

 しかし、




 「本当に抜け出せないと、お前は思ってるのか?」


 「………どういう」


 「王家の威厳は、異世界人の出現で弱まった。そしてその原因筆頭のウチの師匠はといえばたまにだけどお前のところに来てた。よくよく考えれば、助けて貰おうと思えば、助けてもらえる状況だろ?」





 発想がないとは言わせない。

 城の情勢を知っていると言うのなら、思いついてもおかしくはない手だ。

 そして何より、ケンのお人好し加減を考えれば、それを提案していてもおかしくはなかった。




 「師匠から、助けてやるとか言われたことは?」


 「………ある」


 「でも、出てないじゃん」


 「それは………………私が王家の者としての責任を果たすために—————————」





 レギーナの目には、これまでにないくらいに、強い目で睨むラビの姿が映っていた。

 怒っている………いや、それ以上だろうか。

 そんなふうに、己の目に映るものを、どこか他人事のように考えてはぼーっとするレギーナを見て、とうとうラビは限界を迎えた。





 「いい加減にしろよ、おまえ」





 つい先ほどまで殺し合いまでしていたような相手のところに、武器も従魔もつれずに歩いていく。

 そして、思い切り胸ぐらを掴み、顔を思い切り引き寄せ、心の底から叫んだ。





 「いつまでワタシに、嘘をつくんだ!!!」


 「!!」




 それは核心だった。

 でも、隠そうとする心との乖離が、表情を歪ませる。


 今更素直に吐き出すことなど出来ない。


 だから、出まかせを吐き出す。




 「嘘………なんて、私は………」


 「たった数日、それでもワタシはお前と友達になったと思ってる。お前は違うのか!? その程度もわからないようなやつだと、お前はそう思ってるのか!?」




 違う。

 でもそれは出てこない。


 長年誤魔化してきた嘘の心が、やはりが口を動かす。




 「私は………王族だ!! 王の血を継ぐものとして、その責務を全うすると言ってる!! それの何が………」


 「いい悪いの話じゃない!! どうしたいかを言えって言ってるんだ!!」




 ラビはそのまま、強くレギーナを地面に倒し、馬乗りになって肩を揺さぶった。


 ラビの目は、すでに建前には向いていない。


 


 「お前が言わないんだったら、ワタシが言ってやる!!」


 「やめろ………わかっても無いくせに!!」


 「じゃあ………………………なんで、そんな顔をしてるんだ!!!」




 —————————そう。

 建前には向いていない。


 王族として、正しいことをしようとしてる虚像の王女には目もくれない。


 ラビは見ているのは、今、泣きそうな顔で助けを求めている、ただの友人の、レギーナだった。



 

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