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第1399話


 「それじゃあ、まずどこ見たい?」



 当たり前のようにどこでも見られる罪の神に辟易しながら、コウヤはとりあえずポイントを指定した。



 「じゃあ、とりあえず各地のスプリガンの様子かな。とりあえずカイトのピクシルのところがいい」


 「かしこまりーからのへいお待ち!」



 

 画面はすぐに切り替わり、市街地が映る。

 カイトでは、無数のゴーレムとスプリガンが戦っていた。

 幻惑メインのスプリガンでは、デバッガーの力を使うジルのゴーレムに勝ち目はない。


 事態の鎮火はかなり早かった。

 その手際に罪の神は素直に感心するが、コウヤとしては当然面白くない。




 「チッ、裏切りもんが。ピクシルもピクシルだ。あんな簡単に金髪の奴を逃しやがって」


 「まぁそう言ってやるなよ。あ!見てみ、あの子マジも大マジな顔でデバッガーを殺してくれてるよ」


 「遅いんだよなぁ」




 やめだやめだと画面を消させるコウヤ。

 勝っているとはいえ、失敗の証をむざむざ見せつけられているようで気分が悪かった。


 しかし、罪の神はどこか嬉しそうにしている。




 「覚えてるかい、コウヤきゅん。こうやって映像を見せて、君に力の使い方を教えたよねん」


 「記録にはあるな」


 「素直で可愛らしかったなぁ。日がな一日狂ったように力の使い方を学びながら、汚いノートに必死に何かを書いていたねぇ。丁度、その攻略本みたいな表紙の本さ」


 「………」




 返事はしない。

 それはコウヤのものではないけれど、あまりいい思い出ではなかった。


 兄の死後、迷子としてこの世界に落とされたカラサワが持っていた、唯一の兄の形見。

 いつか作るゲームのためだけの、辞書みたいに分厚いノートにこちらでも毎日ネタを書いていた。


 一人でに、どこかへ話しかけながら。




 「(おれ)ァ幸運だったなぁ。ボロッボロの(おれ)の像の前に、あんなにも狂気に染まった異世界人が降りてきてくれるなんて。覚えてる? 異世界人は人の手じゃなく、世界が肉体を生成するから、それだけ肉体のポテンシャルが上がるんだ」


 「………だから、それを応用して自ら肉体を作り上げるよう、このフェアリアにもシステムを組み込んだ。しつこく教え込まれたよな」


 「すんばらしい!! そう、教えた!! この(おれ)が!! 君に!!………なのに裏切られちゃったよん。かなちぃねぇ」




 わざとらしいにも程がある泣き真似と、水の生成を利用した過剰演出な涙が、どうにもうっとおしかった。


 カラサワからすれば裏切ったつもりはない。

 元より信用の信頼もなかった。

 ただ利用した。




 そして、罪の神は罪の神で、常軌を逸していた。

 裏切る、離反するのはあからさまに見えていたのに疑わなかった。


 それは、人が神を裏切るなんていう冒涜行為をしていいはずがないと思っていたから。

 裏切られた日のこれは、それは大層怒りを撒き散らしていた。




 「でもでもぉ、(おれ)ももう大人になったってわけよ。だからミレアたんが裏切ったときのための保険が効いたし、今こうして自由にしてるってわけ。という事でおしゃべり終わりー!! 続きを見よう」





 有無を言わさず画面を映す。

 しかし、今度はカイトではない別の場所。


 砂漠が端に見えているので、ノーム領だというのはわかった。

 とはいえ都市圏ではない。

 映っていたのはどこでもない場所。



 きっとスプリガンたちだろうと思い、コウヤも改めて座り直した。




 特徴的な黒い羽と、幻惑しよう時に見られる特徴的なもや。

 やはりとホッとしたのも束の間、コウヤは頭の中で待ったをかける。



 何故、こんなところで幻惑を?








 『—————————悪いが、幻惑は効かない体質でね』


 「!!」




 身を乗り出すコウヤ。

 バカなと思いつつ、その光景に目を疑う。


 その姿を見て、コウヤは自分が犯した大きな失敗にようやく気がついた。




 『幻惑というのは、対象の魔力に作用し、血中から脳を汚染する力だ。魔力を自己生成できない人間ならともかく、魔石を核とする我らモンスターには通用せんよ』


 「あいつは………………!!」


 「へぇ、まだ生き残っていたのか。五色獣・ベヒーモス」




 ケンたち以外の主戦力の存在を、コウヤは失念してしまっていた。


 というのも無理はない話だ。


 コウヤがベヒーモスと会ったのはアクアレアが最後。

 その後話題にも出なかったベヒーモスの存在を忘れていてもなんらおかしくはなかった。




 『戦闘力皆無のスプリガン相手というのは些か生ぬるいが、憂さ晴らしには丁度いい。八つ当たりをさせて貰おうか』




 もはや結果は見るまでもない。

 コウヤは変身するベヒーモスの戦いを見ることもなく、罪の神に画面の切り替えを急かした。




 「早く!! 急げよ!!!」


 「せっかちだなぁ。慌てなくてもすぐに変わるって………っと、ここかな」




 言われるまでもなく、今度はエルフ領に向かうスプリガン達が映る。

 そしてやはり、都市や街ではない、ただのだだっ広い平原で足止めを喰らい、戦闘体制をとっていた。


 唖然とするコウヤ。

 こちらはどこかで大丈夫だと思っていた。



 何故なら、もうケン達には主戦力になり得る味方がいないからだ。

 いや、居ないはずだと今でもコウヤは思っている。


 少なくとも、記憶にはない。

 戦えるのは精々ハルバードの母やツァリオくらい。

 だが、少なくともツァリオの名前が言える時点でありえないとコウヤは断ずる。


 ケンたちに味方をする者がまだフェアリアにいる場合、確実にネームレスになるからだ。




 だからもう、どう頑張っても思いつかなかった。


 一体誰だ。

 誰がいる?

 俺の知らない奴がいるのか?


 そう思い、画面を食い入るように見つめた。




 そして、多勢の前に立つ一人の女性の姿をみつけた。


 こいつだと。


 罪の神を無言で睨み、映像を寄せさせる。




 が、正直するまでもなかった。

 見つめて数秒もない間に、コウヤは声をこぼしていた。





 「………………………………ば、かな」





 ありえない。

 彼女は、そこにいるどころか外で戦える筈すらない存在だった。


 そう思いつつ頭は働く。

 そして冴えていた。


 動かせないはずの者を動かせる者がいた。

 カイトには、ケンがいたのだ。




 彼女の住む場所からはそう遠くない。

 しかし、見間違いかもしれないと、もはや脳が否定する答えに縋りながら画面に食いつき、そこから一言。






 『事象の改変………やはり、尋常ならざる力の持ち主でしたか。あの子は』


 「      」






 懐かしい声を聞き、全ての否定は消え去った。





 『今はただ、感謝致しましょう。私に機会をくれた事を。ふふ………………外で戦うなど、いつぶりでございましょうな』





 白髪をたなびかせ、無数のモンスターを従える。


 彼女もまた、生物迷宮。

 白紙化直後のもの以外は入れない難攻不落の迷宮、ゼロの洞窟の支配者。

 そしてその配下には、幻惑は通じない。


 やはり最悪の相性を持ちながら、スプリガンは敗北の見える戦いにその身を投じることになる。





 『さぁ、遊んで差し上げなさい』


 「ばあ………ちゃん………………」




 焦点の合わない目は既に画面を向いていなかった。

 立て続けに起こる、予想外の異常事態。

 混乱は極まり、未だ頭は追いついていない。




 「そうそう、あの天化人なんだけど、それでも認めざるを得ないことがあってね」


 「………………」


 「あれの起こす策略は人間だった頃から異常でね。まるで予知なんだよ。で、その息子にもその素養があったのだとしたら、」



 「………………………………!!」




 ゆっくりと、恐る恐るで画面を見上げる。

 まだ何も映っていない。


 でもきっと、何かが、起きている。






 「さてと、じゃあ引き続き見てみようか。()()()()()をね」

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