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第1398話


 「ケンちん、しっかり!!」



 バシンバシンと頭を叩かれる。

 こうでもしないと意識を保てなそうなので、助かると言わば助かる。



 「ん………………大丈夫………」


 「しっかり!!」


 「大じょ………」


 「しっかりッッ!!!」



 「痛いわバカタレェッ!!!」




 頭にゲンコツを喰らわせ、なんとか俺も目を覚ました。

 最低限の力はまだ残っていると言えるだろう。




 「人の頭殴って目を覚ますのはどうかと思うんだが!!」


 「死にかけのやつの頭殴りまくってる奴がよく言ったなお前!?」




 あー、ふらふらする。

 絶対的に血が足りていない。


 やはり、思ったよりダメージを負ってしまっているようだ。




 「で、どうすんの、ケンちん」


 「何が」


 「何って、次だよ次。動かなくていいの?」




 死に体揺さぶって無茶を言うなぁと思いながらふと思い出す。

 そういえば、こいつには重要な作戦について、とりあえず自分がどう動くかだけしか教えていなかった。




 「あー、そういえばお前、この間の動きの指示は出してたけど意味は教えてなかったな」


 「?」




 とりあえず説明は後回しに、まずは簡潔に現状を伝えることにした。




 「次はない。もう、俺には打つ手は残ってないからな」


 「!?」












——————————————————————————————













 「や? ややや!? やややのや!? まさか君は、いや君は!? ………どちらさんだい!?」


 「ウルセェなぁ」




 見慣れた顔から放たれる似つかわしくない不快な軽口に、コウヤは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 身体の宿主がまともな性格だっただけに、不快感は凄まじい。


 とはいえ、運が良かった。


 見知った魔力を撒き散らしているおかげで、コウヤはあっさりと罪の神を見つけることができた。



 ここ、ストルムで。





 「街が綺麗さっぱりだな、金ロールちゃん。いや、クソ神サマっつっとくか、罪の神」


 「ほう、噂通り性格がまるで違ってんねぇ、エイトきゅん。いや? コウヤきゅんと呼ぶべき? いや呼ぶ」


 「記憶通り気持ち悪ィ喋り方だな。で、アンタ何してンの?」




 そういうコウヤの顔は、久方ぶりにこれ以上ないほどに強張っていた。


 奇行も奇行。

 大量殺人の後にこの神がやっていたは、まさかの埋葬であった。


 目の前には、夥しい数の墓標が建っている。

 全て、罪の神の作り出した木で生成したもの。


 そして、特に特徴的なのは、というか主張が激しいのは、その弔い方だ。

 死者の遺品と残骸で十字架を飾る、特殊な弔い方。



 コウヤは知らない。

 これは、大昔まだ罪の神がその大罪より名を改められる前、信仰の一環として妖精達に行わせていた弔い方だった。





 「信仰が、足りない」


 「?」



 「すべてのヒトはもっと神を敬うべきだ。崇めるべきだ。畏れるべきだ。しかし、彼らはそれを忘れつつある。宣教師などという本来生まれずともいいものが生まれるほどに、この世の信仰は薄まった。そして妖精は、あろうことか(おれ)の存在を忘れていた。許されざる大罪だ」




 故に殺した。

 そして、死してその考えを改めさせるべく、その遺体を信仰の証と化した。


 異様な固執だ。

 その固執は、この世界の神が所詮ヒトの延長でしかないことを示すと、この神はきっと自覚していない。


 欲望とは罪であり、人の持つ性質だ。

 しかし、この世界の神はそれを持つ。



 神の如き力を持ったヒト。

 それがこの世界の一つの真実であった。




 「人間臭ェ神サマだな」


 「はは、やっぱキッショいくらいに無礼千万だなぁコウヤきゅん」


 「………?」




 暴れると思っていたが、特に何か手を出してくることはなかった。

 裏があるのは当然だと、もはや疑うまでもなくコウヤの中で確定していたのだが、それにしたって様子がおかしい。


 まぁ、無抵抗なら助かるというだけのこと。

 ここで6時間時間を潰せば、勝利は勝手にやってくる。



 問題はなかった。




 「余裕だね。コウヤきゅん」


 「もう終わったようなもんだからな」


 「そうかぁ。じゃ、優雅に戦況の鑑賞でもしてみますかってね。ほいっと、な」




 くるん、と罪の神が指を振ると、巨大なウインドウが宙に表示された。

 正直、ハッキングされたようでコウヤとしてはあまり気分のいいものではないが、干渉できても精々その程度だとの見込み、画面の方をじっと見つめた。




 「戦況はあらかた理解しているよ。ギリギリとはいえ、よくここまで持ち込んだねぇ」


 「苦労したよ。向こうの色々手を尽くしてきてたみたいだからな。でも、多分これ以上はないだろ」


 「みたいだねぇ。ほれ、もうフラッフラだ」




 画面に映っているのは、ウルクの手を借りてなんとか立っているケンの姿だった。

 まさしく満身創痍。

 吹けば倒れそうなその姿を見て、コウヤは安心していた。




 「ギルヴァーシューの息子。(おれ)の嫌いな “天化人(てんかびと)” の血を引くガキだ。おお、悍ましい」


 「天化人?」


 「人間の身でありながら、神になった不届きものさ。()()()きゅん、君が目指してるやつだよ」




 ふぅんと興味なさげに返すコウヤ。


 正直、そんな事はどうでも良かった。

 ヒジリケンが再起不能である。

 それが最も知りたかった事実であり、今その画面上で唯一興味のある話題であった。




 「閲覧注意のグロ画像はさっさと切り替えて鑑賞と行こうや。今回の戦争の、答え合わせだ」




 手を伸ばす罪の神。


 そのなけなしの神威の操作を合図に、この戦争の結果を見届ける鑑賞会は、幕を開いたのだった。

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