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第1395話


 「!」




 異世界人である流は、“虫の知らせ” という諺があるのを知っている。


 とはいえ知っているだけ。

 そんなオカルトまがいの事を信じちゃいないと、異世界などというファンタジー真っ只中にいても、彼はそう言うだろう。


 ロマンチストな部分はあるが、リアリストな部分もある。

 それはきっと、亡き仮人格(おとうと)から引き継いだもの。



 だから気のせいだと、今の悪寒を切り捨てる………ところだったのだが、




 「………ウルク」




 殊ウルクのことに関してはその限りではない。

 彼女に対しては、そういうオカルトな知らせであっても、心配もしてしまうのだった。












——————————————————————————————













 「いるんでしょー。隠れてもいいことはないよー」




 忠告を入れるコウヤ。


 当然チビ神は顔を出すつもりはない。

 今はひたすら時間を稼ぐ。


 とはいえ、なんのアテもないわけではない。



 元とはいえ神であるチビ神は、ストルムで発生した膨大な神威に気がついていた。

 そして、そこで多くの魂が消え去ったのも感知していた。




 味方とは思えないが、とはいえ人口を削るような事をしている以上、コウヤの敵であることに疑いはない。

 だから、それが来るのを待っていた。


 時間を稼ぎ、コウヤが暴れてくれれば、もしかしたらその神威の主が来てくれるかもしれない。


 それに期待して、時間を稼ぐ。

 そして、出来るだけ暴れてもらう。

 今やるべきはその2つだった。




 (ミーも一応神様なんだけどなぁ。こうも人間相手にビクビクしないといけないなんて、あ、なんか泣けてきた)




 

 はぁ。

 と、ため息を最後に意識を奥深くへと落とす。



 —————————全てを断ち切る。

 耳に入る音は次第に遠くなり、視界はゆっくりとぼやけ、その目に映る全ては、脳に辿りつかなくなる。


 感覚を断つほどの驚異的な集中。

 全ての意識を魂に集めている今のチビ神には、コウヤの声は届いていない。



 これから行う技は、これ程の集中が必要なものだ。

 それが、霊魂分化というチビ神持つ技だった。



 この場においては土から器を使って肉体を擬似形成し、分身に己の魂を分け与える。

 器となったあらゆる物質は、魂から情報を読み取り、擬似的にその肉体を複製する。


 精神の神がケンに与えた、【精神体憑依】によるゴーレム操作に似ているが、これはまるで別物だ。

 簡単にいえば、限りなく本物に近い分身を作り出す。


 それぞれが、固有の意思を持ち、自律的に行動する。

 つまりここには、チビ神が4人いることになるのだ。



 「「「よーし。完成」」」



 と、分身体が出来上がったところで、流石にコウヤも神威を感知した。



 「む、神威発見」




 空中から、一直線に向かってくるコウヤ。

 流石に、魂を分裂させる程の技を使えばバレてしまうというもの。


 地上にいるチビ神達が慌てふためいていた。




 「うわわっ、やっぱ見つかったかぁ」


 「ど、どうする?」


 「一人が逃げて、残りが時間稼ぎってのが定石じゃない?」


 「でも隠した方が良さげじゃないの?」


 「いやいや逃した方が良さげでしょ」




 完全に自立しているため、普通に会話をすれば当然バラバラだ。

 いう事を聞くわけでもなければ、操作権があるわけでもない。

 全てがオリジナルであるが故の厄介な性質だ。

 

 しかし、





 「オリジナルは逃がそう。ウルちんの身体は傷つけたくない」


 「「「それだ」」」




 どれだけ別れても、それらは皆チビ神。

 オリジナルの根にある意思は、当然共有される。


 やはり、ウルクは特別な存在だった。


 そこから迅速にオリジナルが離れ、その場には残る3名が足止めを始めようとしていた。






 「さて………何分持つかな………」


 「何秒じゃない?」


 「そもそも保つかな—————————」





 おしゃべりもそこまでだと、殺気をまとった男が地上に降り立つ。

 空気が全て消えたような息苦しさに声を詰まらせる3人は、意識をコウヤに集中させ、すぐさま身構えた。


 敗北への確信は、より強くなる一方。

 強さは当然として、コウヤには油断がなかった。


 いつでも殺せる。

 口には出さずとも、身にまとう魔力と殺気がそれを語っていた。




 「来たねコウちん」


 「コウちん? ………ああ、お前たしか王女ちゃんについてるちっこい神様か」


 「そ、チビ神ちゃんさ。君とはウルちん含めほとんど接点なかったよね」


 「まー、仲良くなる前に木登りしちゃってたからなぁ」




 他愛のない会話。

 しかし片方は既に死にそうな顔をしている。




 「情が湧いたりは?」


 「妙な事聞くな。情はあるよ。お前も王女ちゃんも、金髪の仲間だ。だから殺したくない」


 「へぇ、その割にすごい殺気だけど」


 「ああ、もう俺じゃどうにもならないんだよ。人格を表に出したまま、意思はカラサワ(あいつ)に操られてる。そしてやりたくない事をやっても一向に気が狂える気がしない」


 「………なるほどね」




 えげつない、というのが率直な感想だった。

 息をするように全ての者を傷つける。


 そしてそれは全て、勝つために行なっている。


 その思考の破綻に、チビ神としては覚えがないわけではなかった。

 そして、だからこそ危険性はさらに増した。




 「………ところでさ」


 「うん?」


 「お前のその分身、どういう原理だ? 俺にも出来るか?」




 必要ないだろう、と言おうと思ったがこれは好機だった。

 時間を稼ぐ絶好の機会。


 その興味の今回も、なんとなくチビ神は理解していた。




 (確か、死んだ兄の人格を自分の分身に投影させたんだったか。なるほど。こんな世界限定の紛いものじゃなくて、本当に兄が欲しいってわけね)




 コウヤ………いや、カラサワは知らない。

 この分身はチビ神の単なるコピーでしかないということを。

 クローンとしての完成度は優っていても、カラサワの目的からはむしろ遠ざかる代物だ。


 だが、そんな事は関係ない。




 理論を、口にする。

 嘘はつかない。

 だが余計な肉をつけ、説明のボリュームを足す。


 そこに、カラサワが食いつきそうな説明を加え、盛り上げる。


 時間稼ぎとバレてはいけない。

 だから盛りすぎず、しかし興味を持ちそうなものを加え、膨らませる。




 もっと、もっと稼げる。

 そう思いながら時間を稼ぐ。


 1分でも、1秒でも長く。



 

 存外カラサワは食いついた。

 時間稼ぎと一瞬で気づきそうなものだが、欲するものを前にして盲目になっているのだろうとチビ神は理解する。


 好都合だと話を盛る。




 さぁ何分経ったか。

 カーバンクルは逃げたか、オリジナルはどこまで逃げるべきか。

 そんな事を考えつつも、話を続ける。

 しかし、この話題も無限ではない。


 だから似通った能力、つまり得意な魂の分野に足を突っ込もうとすると、





 「あ、もういいや」


 「!」




 コウヤから話題を断ち切られた。

 しかし、まだ続ける。




 「最後に一つだけ、これだけ聞いときたい」


 「なに?」


 「死人は………異世界で死んだ魂は、生き返ったり連れてきたり出来る?」




 大きく目を見開いたチビ神の前には、ただ少年が立っていた。

 息をするだけで人を殺せそうなほどの殺意と、人も自然も飲み込んでしまいそうな魔力の奥にいたのは、そんな小さなものだった。


 本来であれば、守るべき存在。

 かつての自分………いや、先代・命の神が、ギルヴァーシューに固執して堕天する以前の人格を持つチビ神にとっては未来の自分というべきか。


 あれには到底、ヒトを救うことなどできなかった。

 だからこそ、今はせめて真摯に伝えなければならないと、そう思ってしまった。


 時間稼ぎも恐怖も忘れ、今この時だけはこの世界の上位存在として、神として向き合い、その問いに答えた。





 「………転生という現象がある」


 「!」


 「異世界で死を迎えた者が、ごく稀に起こす現象。その場合、魂そのものはこちらへ呼びよせられる。………でも、その魂には何も刻まれていない。そして、おそらく君の求める魂は、ここにはいない。だから、」


 「いや、変なこと聞いた。でも、ありがとう」


 「そうか」





 ああ、終わりだ。

 もう話すことはないと、そういう意味のある笑みであった。


 だから、両者とも構えを取る。

 優しい笑みを、憐憫の悲痛を、とても戦う者が浮かべる顔ではない者をその顔に引っ提げ、両者は向き合う。




 「「じゃあ」」






 そして——————————————






 「「死んでくれ」」





 切り替わるように、鬼の形相を浮かべた両者は、一斉に飛び出した。

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