第14話
「本当に助かった。恩に着る」
さっき助けた冒険者に飯を貰っている。
人助けはしておくものだ。
「気にすんなって。アンタらは助かって俺はメシに有り付けた。良いことづくめだろ」
「いや、それでも俺たちは命を救われた。この恩は一生忘れねぇ」
若い冒険者は深々と頭を下げた。
大袈裟だとは思うがまあ口にはするまい。
「俺はバルドだ。後ろの魔道士はウルクでその横にいる鎧はレトだ」
坊主頭のゴッツイ男だ。
その辺のプロレスラーより全然ゴッツイ。
「どもども、ウルクでーす。君強いねー。びっくりしたよ」
ウルクという女魔道士は軽い感じで自己紹介してきた。
桃髪でロングの活発そうな女だ。
目が大きく少しタレ目気味。
「ボクはレト。このパーティのタンクをやってるんだ。防御力は高い方だよ」
こっちは少し幼い感じがするブロンドヘアの男だ。
タンクと言う通り鎧でガチガチに固めて更に巨大な盾も持っている。
「おう、俺はケンだ。よろしく」
ニヤリと笑う。
やはり少し人相が悪い。
「ケン? 珍しい名前だな。お前ら聞いたことあるか?」
「聞いたことないねー」
「ないよ」
それもそのはず。
日本人はこの世界では知られていない。
そもそも異世界人が来るのは何百年に1回くらいの周期なのだ。
勇者という存在こそ知られてはいるがそれが異世界人だとは知られてない。
「ま、世の中色んな名前のやつがいるんだ。俺はこんな名前だったっつーことで」
「それもそうだ」
よし、名前の話になったらこのフレーズを言うことにしよう。
俺たちは飯を食いながら雑談をした。
「そういやアンタら何であの牛から逃げてたんだ? そんな装備ってんだから負けることはないだろ」
見たところ装備は一級品。
派手な装飾があるということは偉いとこの出なんだろう。
「本当ならそうしたい所だが、思ったより負っているダメージが大きい。連続戦闘で回復の暇も無かったからな。それでパーティに回復役の仲間を探そうと思ってここから北の街に向かう所だったところをあんな感じで」
追い回されたわけだ。
「そりゃ気の毒だな。ポーションは持ってねーのか?」
「ちょうど切らして其の補給も兼ねて街に向かってんだ」
不幸に不幸が重なってしまったらしい。
ますます気の毒だ。
これを聞いて黙っておくのもあれだ。
メシも貰ったし、少しぐらい手伝ってやることにした。
「そうか。今回復役も道具も無しか。ほいっ」
俺は回復四級魔法【ハイヒール】をかけた。
これでHPが大体500回復する。
とりあえず3人×2回かけた。
「何だ!?」
「回復魔法だ」
「無詠唱でか! しかもこの感じハイヒールだ!」
どうやら元気になったらしい。
「ああ、元気になって何よりだ。まだ足りねーなら言ってくれ。メシの礼だ」
「おおお……また借りが出来ちまったな。重ね重ね礼を言う」
「いいよいいよ、俺は貸しだなんて微塵も思っちゃいねーから」
この程度の回復魔法、俺には造作もない。
「……」
ウルクがじーっと見ていた。
「ん? どした。まだ足んねーンなら掛けてやるぜ?」
「え、あ、いや、大丈夫だよー」
? まあ良いか。元気そうだし。コイツは元から傷がほぼなかったから大丈夫だな。
横でバルドとレトがニヤニヤしていた。
「あ! ちょっとぉ、何ニヤニヤしてるのー? 私でも怒るときは怒るんだよ!」
「別にぃー」
仲がいいのが伝わってくる。
あいつら元気かなー、っと少し考えてしまった。
「もー……そうだ! ねえねえケンくん」
「何だ?」
「よかったら私達のパーティ入らない? 歓迎するよ?」
「ちょ、おま、何勝手に……」
すると、ウルクの首がゆっくりギギギ、と後ろに曲がっていった。
「するよね?」
「え、ちょ」
「ね?」
その圧に圧倒されついに折れたリーダー。
「は、はい……」
ウルクの表情が一気に明るくなる。
「どうかなっ」
うーむ、どうしよう。
コイツはどうにか俺を仲間に入れたいらしい。
しかし、今入ってしまうと行動が制限される可能性がある。
とは言え無碍に断るのも可哀想だ。
何というべきか……
「あー……悪りィ。先約がある」
先約。
それは万能の言葉である。
言い訳の達人ならわかるだろう。
この言葉の有能さが。
「そっかー、仕方ないねー」
このまましょんぼりされるのも後味が悪いので、
「今度はクエストとかに誘ってくれよ。そん時は喜んで参加すっから」
「いいの? やたー!」
これでフォローはバッチリだ。
「なぁ見たかレト」
「見たよ団長、あれは天性のタラシだよ。しかも自覚が無いとみた」
バルドとレトが何か言っていたが聞こえないのでスルーした。
「そろそろ休憩もいいか。ケン、俺たちはそろそろ街へ向かうがどうする?」
「ああ、一緒に行く。構わねぇか?」
全員頷いた。
了承は得られたようだ。
「それじゃあ出発するか」
「待って待ってー、準備がまだ終わってないよー」
ウルクの準備がまだ終わってないらしい。
「わかった。悪いが、少し待ってもらえるか?」
「へーい」
ガチャガチャと荷物を漁っている。
割と時間がかかりそうだ。
俺の方はこれと言って必要な準備はなかったので、原っぱに寝そべった。
寝そべりながらウルクを見た。
少し観察してみよう。
「ふふーん」
ウルクは呑気に鼻歌を歌っている。
手には何か石のようなものを持っている。
試しに道具鑑定で見てみた。
「……王家の石?」
鑑定結果は王家の石と呼ばれるものだった。
確かこれは王族の中でも特に権威がある者が所持することを許される石だった。
「……へぇ」
王家の石にあの装備の装飾、それにあの体。
他の二人に比べて妙に傷や汚れが少ない。
つまり……いや、やめておこう。
面倒ごとの匂いがする。
「終わったよー」
「では出発しよう。ケンもいいか?」
「いいぜ」
何事もなかったかのように俺は言った。
あの紋章はこの国のものでは無い。
怪しすぎる。
観光というわけでは無いだろう。
それならわざわざ危険な道を歩くことはない。
護衛ももう少し付く筈だ。
ということは他国からの視察又はスパイに送り込んだというケース。
姫自ら?
何のために?
俺は考えてみたが情報が少ないので決定的な答えには至らなかった。
「………」
「どうしたのー? ケンくん」
探りを入れてみるか。
「いや、考え事だ。そういやお前らはあの街に何の用があるンだ?」
さて、 もう一度同じ質問をしてみるが、とりあえず反応待ちだ。
詰まったりすればもうちょい探って………
「んーとね、私はあそこの街にいる魔族の勧誘に行くんだー。ダメだったら討伐だけど。密偵さんが見つけたらしくて、他国の人が捕まえる前に手を打つって言ってた」
他の2人が物凄い顔でこちらを見ている。
多分トップシークレットだったのだろう。
そんなことは知らんとばかりにペラペラ喋るウルク。
「最初は討伐だったんだけど私なら仲間に引き入れられるって知って父様が私を派遣したんだー。こう見えて私ルナラージャ王国のお姫様だからねー。本名はウルクリーナ」
「………」
「あれ?」
「何バラしてんだー!」
3人の心が1つになった瞬間だった。
「あ、ダメなんだったっけ。えへへ、やっちった」
「その感じ、ケンは気がついていたのか」
「さっき石を見たからな。王家の石。ありゃ王族の特に偉いやつしか持ってないやつだろ。それに……」
この後いろいろ理由を話した。
「というわけだ。隠すならもうちょい工夫が必要だぜ?」
「なるほど、恐れ入った。この事は内密に頼む。でなければ……」
腰の剣に手を当てるバルド。
脅しているつもりらしい。
「ははっ、脅しか?」
ならばこっちも似たような感じで返すとしよう。
俺は【威圧】を発動。
「……!」
小刻みに震えている
向こうの恐怖がこっちにまで伝わってくるようだ。
おまけにもう一言。
「試してみるか……?」
目が泳いでいる。
戦意は喪失したようだ。
これくらいでいいだろうと思い、俺は威圧を収めた。