第134話
「それじゃあ、帰るわ」
ラクレーとの話が済んだので、急いで帰ろうと思う。
できればメシも食いたかったが、仕込み中な上あいつらを待たせるのも悪いので今日のところは諦めよう。
「気をつけてね」
「おう。あ、ラクレー」
「………」
ラクレーは無言のまま目だけこちらを向いた。
「約束は守る。だからお前も守れよ」
「わかった、が、良いのか?」
「ああ。こっちは問題ない。そんじゃあな」
頼み事は無事に伝えられた。
ある条件付きだが、ラクレーはそれを了承してくれた。
その条件も俺にとって、悪いというわけでもない。
「ああ」
俺は宿まで飛んで行った。
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「ふぅ………保険はこれ以上いらねーかな。出来るなら犠牲者なしで完勝してーしな」
俺は部屋に戻った。
あと2時間で開催される。
楽しみだ。
楽しみだが、恐らく祭りは——————
「ししょう、そろそろでるか? ワタシはあそびたいぞ」
「えー、無理。まだあと2時間もあるし、ギリギリまでゆっくりしようぜ」
「えー。ししょうのケチ」
「うるせークソガキ。そういやリフィとニールは?」
家に帰ったが見当たらない。
まだ修行中か?
「いましたでメイとはなしてるぞ。さいきんよくいっしょにいるようなきがするな」
この前の件で打ち解けたのだろう。
同じ半魔族同士仲良くしているのだ。
「お前も一人くらい同族がいた方がいいんだろうけどな」
「やだ」
「まさかの返答。何でだ? 同じ方が話が弾むとかあるだろ?」
ラビはフンっと胸を張ってこう言った。
「ひとりのほうがえらばれしものみたいでカッコいいじゃん!」
「………さいで」
そんな風に全力で言われてもなぁ。
それでも同年代の友達の一人や二人は欲しいだろうよ。
「ケンくん、 帰ってますか?」
「おう、帰ってきたぞ。そろそろ行くから準備しろよ」
「はーい」
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「殿下、起きてください」
「………」
揺さぶったり、音を鳴らしたり、色々やっているが、フィリアは起きる気配を見せない。
しかし、レンには秘密兵器があるのだ。
こういう時はアレに限る。
「………フィリア様」
「わーっ! 名前で呼びましたわっ! レンがやっと!」
と、この様にテンションが高くなるので、すぐに起きてくれる。
「いいえ? 幻聴ではないでしょうか?」
「そっ、そんな馬鹿な! 私しっかり聴きましたわ!」
そりゃそうだ。
言ってんだもの。
「たとえ聞こえていたとしてもそれは夢です。とても気持ち良さそうにお休みになられていましたから」
「うっ………」
寝顔を見られて少し赤面するフィリア。
「とても可愛らしい寝顔でしたよ」
ますます頰を赤らめる。
これがイケメンパワーか。
老若男女関係なくモテまくる蓮は、恐らく芸能人のモテ度を遥かに上回る。
相変わらずのタラシっぷり。
「可愛らしい………レンが可愛らしいって………ウヘヘ………」
こっちもこっちで相変わらずのテンション。
「さて、今日は忙しくなりますよ。急いで着替えて朝食をお取りになってください」
「あ、はいですわ!」
フィリアは部屋にいた召使いと一緒に朝食を取りに部屋を出た。
「やれやれ、仕方がないなぁ、王女殿下」
最近、この方法じゃないと起きないフィリア。
そろそろ別パターンを考えないといけない。
蓮は部屋を出た。
「戦闘任務か………魔族………」
蓮達は訓練中自分たちの敵のことを教わった。
勇者の敵は魔王。
そしてその手先である魔族。
今回の敵はその魔族だ。
「最悪殺人も考えられる………みんなにはさせられないな。特に、琴葉ちゃんはダメだ………トラウマを掘り返すようなことはしたくない」
過去にあったとある事件を掘り返さないために、目の前で殺すような事は避けなければならない。
「こればかりはケンも頼れない。だから俺が………!」
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「全員集まったか? 集まったな。では、そろそろ会場へ向かう」
初の戦闘任務ということもあってか、なかなかに緊張の色が見える勇者達。
いつもはそうでもない蓮も別の意味で緊張していた。
しかし、意外なことに、1番緊張していなかったのはフィリアだった。
「皆さん、そう固くなっては成せるものも成せませんわ。もう少し肩の力を抜いて任務時挑みましょう」
「「はい、王女殿下」」
フィリアはニコッと穏やかに笑った。
彼女とて、全く緊張していないわけではないが、それを表に出さず、自分を乱さない。
これが向こうから来た勇者達と、こちら側の人間覚悟の違いだ。
「私は原則殿下の護衛として蓮の班に着く。もし何かあれば通信魔法具を支給するのでそれを使え」
ルドルフは高橋に通信魔法具を渡した。
「では各自、任務を遂行せよッ!」
「「はい!」」
 




